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21 彼らの心情



マヨイがゲドナの姫と話があると別れた後、部屋に戻るために廊下を歩いていると、中庭一面に咲いている赤薔薇を、慈しむような表情で触るゲドナ王がいた。……普段なら何も気にせず通り過ごすが、あの姫の態度といい、聞きたい事もあったので俺は中庭へ足を進める。




「ゲドナ王」


俺の呼びかけに、ゲドナ王は一瞬震えてこちらを見る。


「……テオドール殿か、どうかしたのかね?」


その表情はとても穏やかで、俺はそのまま王の側に立ち止まる。


「金髪の嬢ちゃんの事、どうするつもりだ?」


そう伝えると明らかに表情を変えたが、また何事もなかったかと様に薔薇の花に触れる。暫くそのままお互い無言だったが、ようやく王である男は口をゆっくりと開く。


「……どうするつもりもない。あの子は私の可愛い娘だ」

「あっちはアンタの事、父と思ってないみたいだが?」

「この世界に転移して、一番身近にいたのが私だっただけだ」

「へえ?……ならあの嬢ちゃん、他の男のモンになっていいってか?」


男が触れていた薔薇の花が、ぐしゃりと潰れる音がする。それでもなお薔薇を見続ける男に、俺は嘲笑うかのように軽く笑った。そのまま男の元から離れ、そのまま部屋に戻るために歩き出す。


「……随分と言ってくれるが、貴殿はどうなんだ?」

「はぁ?」


背後から声をかけられ、俺は振り向かずに立ち止まる。男はそのまま言葉を続けた。


「貴殿が大層に大事にしているマヨイという娘、聞けば恋人でも夫婦でもないと言うじゃないか。手だけ出して捨てるつもりか?」

「……マヨイは、利害一致で一緒にいるだけだ」

「そうかね?私には、想いを伝えて拒絶されるのが怖いから、外堀を埋めている様に見えたが」


拳に思わず力が入る。その姿を見て男は笑う。……そして暫くまた黙ったと思えば、再び声を出した。


「……キルアは8年前この国に来た。聖女としてこの国に結界を張り、ずっとこの国を見守ってくれた。……妻に先立たれた私の溝を、あの子が埋めてくれた」


男の声とは思えないほどの、愛おしい記憶を思い出している様な優しい声。俺は振り向かずにその話を黙って聞いた。


「……貴殿は辛いな」

「……」

「好いた相手に想いを拒絶されても、通じたとしても、永遠を生きる貴殿は最後には独りなのだから」





その男の言葉に、俺はどんな表情でいるのか分からなかった。









◆◆◆




まだ朝日が登りきっていない今、私はいつもよりも早く目が覚めた。

そのまま起きようとするが、後ろから抱きつくテオドールの腕がいつもよりも強く、起き上がる事ができない。私は体をずらして対面になり、彼の寝顔を見る。


まるで作り物の様な美しい顔を見て、思わず心臓の音がうるさくなってしまう。……本当に、行きすぎた美形は恐ろしい。同じく彫刻の様な美形二人を携えるシルトラリアは、どんだけ鋼の心臓をしているのだろう。ほしい。


そんな事を考えていると、テオドールがゆっくりと碧眼を開く。それと同時に腕の力も強くなり、私はそのまま彼の胸の中に閉じ込められる形になった。


「……いつもよりも、早いじゃねぇか」


掠れた声が頭上から響く、それすらも色気が出ていて困ってしまう。


「き、今日は、大事な日だから」


思わず上ずった様な声を出してしまうと、頭上から今度は、わざとらしいため息が溢れた。そのまま私は強く抱かれたまま起き上がらせられ、テオドールの胡座の上にちょこんと乗る様な形になる。おいおい乙女ゲームのスチルじゃねぇんだからと思ったが、近づく表情が真剣なので何も言えない。


「マヨイ、本当にやるんだな?」


まるで咎められている様な声で、テオドールは私の目を見つめる。……確か、大魔法は一度きりのもので、唱えた魔法使いにも大きなダメージがあるんだっけ?シルトラリアがかつて言っていた様に、本当にこの男は過保護だ。私は場違いにも吹き出してしまい、目の前の男は眉間に皺を寄せる。


「……何が可笑しいんだよ」

「いやっ……私、本当にテオドールに、大切にされてるんだなって、思ったら……なんか嬉しくて笑っちゃったよ」


テオドールは見る見るうちに目をまん丸にして驚く。だがそんな表情もすぐに、耳を赤くして、恥ずかしそうに目線を逸らすものに変わる。


「ああもう……そうかいそうかい、今更かよ」

「いやぁ〜、テオドールって本当に私の事」


好きだよね。と言いそうになっていたのに気づいて、思わず途中で止める。……いやいや、何を言おうとしているんだ私、テオドールは好きとかじゃなくて、ただ旅仲間として、大切に思ってくれているだけなのに。自分が言いそうになった言葉に恥ずかしくなり、顔が赤くなっていくのが分かる。


そんな私の表情を見て、テオドールは耳を赤くしたまま、何かを堪えている様な表情をこちらに向けてくる。どうしてそんな表情なのだと聞こうとしたが、それよりも先に向こうが口を開いた。



「……そうかもな」

「え?」




テオドールは、吐き出すように言葉を出して、私にどんどん顔を近づけてくる。

その表情が、熱を込められた目から逸らすことができない。




そのまま、テオドールの熱いため息が感じれるほどに、顔が近づく。





その時、部屋の扉がノックも無しにいきなり開く。扉の向こうには、精霊二人に止められながらも、笑顔で部屋に突進するシルトラリアがいた。そして彼女は大きく息を吸って、こちらを見る。







「おっはよーーーー!!!マヨイ!テオドール!今日はいい戦い日和だ………………………」

「……………」

「……………」

「………………………あれ?」





顔を近づけるのを止めたテオドールが、青筋を立ててシルトラリアを見た後、彼女に向かって攻撃魔法を唱えた。


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