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20 少女達よ


あの後、私とテオドールの関係を根掘り葉掘り聞いてきた二人だったが、シルトラリアは「はーーーっ!やってらんねぇ!」と顔を赤くして叫んだり(年齢聞いたらはぐらかしたが明らかに未成年なので、酒は飲ませなかったのに)、キルアに至ってはアルコールの飲み過ぎなのか、高圧的な無表情はなくなり、呆然と顔を赤くして黙ってシルトラリアの言葉に頷いていた……こいつら酒癖が悪すぎる。


私はというと、気づいたら城で割り当てられた部屋に戻り、ベッドで寝ていた。上半身だけ起こして周りを見るが、テオドールがいない。やはりまだ怒っているのかと胸が痛んでいたが、その時部屋の扉が開き、そこから仏頂面の彼が現れた時には目を大きく開けてしまう。テオドールはそのままベッドの上にいる私を見ると、大きなため息を吐く。


「……アンタ、俺以外の前でもう酒飲むなよ」

「えっ」

「俺だからよかったんだからな」

「へっ?」


昨日、もしかしたら吐いたりしてしまったのだろうか?それとも失礼な事を言ってしまったのだろうか?クソジジィとか、エロジジィとか。考えていると急にタオルを投げつけられる。前に投げられた時よりも勢いが強い。


「顔洗って来い。今からアンタがやる結界魔法の会議だとよ」

「……もう反対しないの?」


あれほど怒り狂いながら反対していたのに、と付け加えたかったがそれはやめた。テオドールは元の、とまではいかないが調子良く微笑んだ。


「アンタは、一度やるって言ったら全く聞かねぇからな」






◆◆◆




私達は皆が集合している会議室の扉を開いた。中には既に全員揃っており、昨日夜遅くまで語っていたキルアとシルトラリアもいる、二人とも目に隈がついているが。中央でゲドナ王が、一回手を叩き、周りの視線を集中させる。


「全員揃ったか、では明日に向けての会議を始めようか」


キルアがその言葉を聞いて、中央のテーブルに大きな地図を出す。おそらくゲドナ国の地図だろう、テーブルに敷かれた地図のある地点に、キルアは指をさす。


「マヨイが結界魔法を唱えるのはこの場所、城の演習場であれば、大魔法を発動しても周りに何もありませんので被害はありません」


シルトラリアが顎に手を添えて、その場所を見る。


「まだキルアの結界魔法が残っているから、マヨイには一人護衛がいればいいかな?私とアイザックとノアは、少しでも今の結界が保てるように魔物の始末をしようかな」

「今は城の騎士団も我が国のギルドにいる魔物狩りの民間人も、連日の魔物退治で疲弊していますので、聖女であるシルトラリアと精霊達の存在が皆の士気を上げるはずです」

「えぇ〜キルアも聖女じゃ〜ん!」

「……私は剣聖でもありますので、余計に気負いさせてしまいますわ」


シルトラリアは満更でも無さそうに頬を掻いて笑っている。確かに彼女は、自分の国の戦争を終わらせた存在で、自国では英雄のような立ち位置らしいのでキルアの言い分もわかるが、キルアもキルアで美しい剣聖で、この国の姫なのだ。全然どっちでも士気は上がると思うのだが。少なくとも私よりは絶対。隣で話を聞いていたテオドールが、少し考えるそぶりを見せた後に口を開く。


「マヨイの護衛、それは俺がやる」


その言葉にシルトラリアとキルアは顔を見合わせ、その後すぐに二人は、虫を見ている様な表情でテオドールを見る。


「流石、言いくるめて一緒のベッドで寝る男は違うねぇ!」

「本当ですわね、純粋なマヨイに漬け込む最低な男ですわ」

「見た目詐欺エロジジィだしね〜」

「おい待て、アンタらなんでそんなにも意気投合してんだ」


昨日の夜、散々二人に今までのテオドールのエロジジィ具合を熱く語ったので、おそらくそのせいだろうが何も言わないでおこう。まさかの仕打ちにテオドールも顔を引き攣らせている、ざまぁないぜ!恐らく自分が話したのに気づいているのか、周りに見られない様に後ろから尻を思いっきり痛く掴まれているが、お前そういう所だぜ!


ゲドナ王がそんな私達を見てか、大きく声を出して笑う。部屋に響き少し耳が痛いほどで、思わず耳を塞いでしまった。ひとしき笑った後に、両手を地図の置かれたテーブルに叩きつける様に置く。そのおかげでテーブルが大きく揺れる。


「よろしい!ではマヨイ殿の護衛はテオドール殿に任せ、私やキルア、ハリエド王と護衛の精霊達は、今ある結界を少しでも保たせる為に魔物を狩ろうじゃないか」


奮い立たせる様なゲドナ王の言葉に、皆が大きく頷いた。







「マヨイ、ちょっといいかしら」


会議が終わった後、私はキルアに呼び止められた。何の用かと声をかけようとしたが、彼女の表情を見て、私はテオドールに先に部屋に戻ってほしいと伝えた。テオドールは嫌そうな表情をしたが、キルアの表情を一瞬見てから、小さくため息を吐いて部屋に戻っていく。


今はこの部屋で、私とキルア二人きりだ。私は取り敢えず、部屋にある椅子に座ってもらい、硬い表情を向けるをキルア見る。


「キルア、そんな顔してどうしたの?」

「………」


何故、話があると言っていたのに無言なのだキルアよ。大きな背中を縮こませて、何故もじもじしているのだキルアよ。私は今が外見は10代だが、中身は結構いい歳の女だ。自分よりも年下の女の子の考える事など、おばさん分からない。


「は、話さないとわかんないよ?」


震える声で優しく話を促してみたが、ああ!この声かけは駄目だ!パワハラとか言われちゃう可能性があるやつだ!前の世界ではちょっと棘がある言い方をしても、すぐにパワハラと訴えられる世界だった。今いる世界にパワハラという概念があるのか分からないが……いや、あったら私もセクハラでテオドール訴えられるんじゃない?


すると、声かけで観念したのか、小さな声で語り出す。


「……テオドール様が、マヨイに向けているような気持ちは、どうやったらさせる事ができるのかしら?」

「えっ?」


セクハラが?と思ったが、硬い表情だったキルアは顔を真っ赤にして、勢いよく椅子から立ち上がりこちらを見下ろした。そしてそのまま、真っ赤な顔で大きく息を吸って、吐き出すように声を出す。


「私も、とある殿方にあの様に見てほしいのよ!」


大きな声を出して語るキルアを、私は呆然と見ていた。私とテオドールの関係、というのはあまりよく分からないが、キルアが今伝えた言葉をしばらく考え、その部分だけはある答えを導き出す。



「……好きな人いるの?」

「……………」


あっこれ正解だー!更に顔を赤くするキルアがとても可愛い。久しぶりの恋話に胸の高鳴りが抑えられない、今絶対鼻の下伸ばしてる。私は気持ちを抑えて、聞いてもいいのか分からないが気になる事を質問する。


「だ、誰が好きなのかな〜?」


それには下を向いてしまったので、流石に聞くのは不味かったと思い慌てて謝罪をしようとする。が、次の瞬間キルアは顔を強く上げて、震える唇から掠れた様な声を発する。



「…………国王、陛下」

「えっ、国王陛下って………ゲドナ王の事?」


その名前を出すと、キルアは今にも倒れそうなほどに顔を赤くして、年頃の女の子らしい可愛らしい顔を向けてくれる。私は思わず叫びそうになったが、それよりも先に部屋の扉が開き、そこから今の私と同じ様な驚いた表情をしているシルトラリアがいた。……シルトラリアお前……一国の王なのに盗み聞きしてたのか。


「えええええええええ!!!???」


シルトラリアは私の代わりに叫ぶ。



キルアが一度も、父と呼ばなかった理由ですね、ヒュー!

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