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1 空から落ちると魔法使いと出会う。



私は、確か普通に働く、平凡な成人女性だったはずだ。普通に働いて普通に恋愛して、そして普通に年を取って死ぬ運命だったはずなのだ。




けれど今、ものすごい風を受けながら下に落ちている。そう、何故か知らないが私は、空から真っ逆さまに落ちている。……いやいやそんなわけないか!気づいたら空から落ちてるとか、漫画やアニメの世界じゃあるまいし!…………と思ったがやはり真っ逆さまに落ちている。



「なんっでだぁあああああ!!!!???」


夜風が痛いほど皮膚に当たる。夢と思いたいが、目の前に見える満月や、この皮膚に当たる風の感触、あまりにもリアルすぎる。どうしてこんな事になっているのか分からないが、取り敢えずこのまま地面に落ちたら、短い私の人生が終了する事は確実だ。


お父さんお母さん、ごめんなさい。私は気づかない間に、誘拐とかされて飛行機から落とされたのかもしれません。ぐっちゃぐちゃの私の死体を見ても泣かないでください。あと、私のパソコンとか漫画とか、ベッドの下に隠してるR指定のついた漫画とか見ないでそのまま処分してください。


私はまだ読めていない新作の漫画やゲームを思い出しながら、大きく大きく息を吸った。


「っていうか!!もう少し!!マシな殺し方しろや!!このやろーーーーーーー!!!」


そんなこと言っても何も変わらないとはわかっているが、それでも私を落とした犯人への暴言が断末魔になるのだろうと、自分の死を覚悟した。



が、それと同時に、空中に青い魔法陣が浮かび上がる。突然の非日常な現象に驚くが、そのままその魔法陣の元へ落ちていくような形になる。思わず目を瞑ってしまう。


次の瞬間、何かに包み込まれるような感触がして、私は恐る恐る目を開けた。





「随分、度胸のある嬢ちゃんだな」





目の前には美しい銀髪碧眼の青年がいた。少し笑いながら私を見る美青年に、思わず目を大きく開いて驚く。


しかも今まで空から落ちていたはずだが、周りを見ると森の中で、地面に立っているこの青年に横抱きされている。……夢か、やはりこれは夢なのだ。空から落ちていたのに、急にアニメみたいに魔法陣が出て、そして次には美青年にお姫様抱っこされているなど、夢でしか起きえない。


「アンタ、夢って思ってる見てぇだが、これ現実だからな」


特徴的な言葉遣いをする美青年だな、まさか私にこんな性癖があったなんて思わなかった、はっはっは。


そんな事を思っていると、どうやら表情に出ていたらしい。銀髪の青年は眉間に皺を寄せて、顔を近づけてくる。美しい顔面が目の前に迫ってくるので、少し頬が赤くなってしまう。


「空から落ちてきてるアンタを助けた俺に、なんか言うことねぇのか?」

「アッ、アリガトウゴザイマス」


あまりの気迫に思わず返事をしてしまう。返事に満足したのか青年は頷き、私を地面に立たせる。

外見からして、高校生くらいだろうと思ったが、社会人の私が少し見上げる位で、16、7歳にしては身長が高い方なのだろう。随分古そうな、長い黒のローブを羽織るこの青年。……今更だが、10代の青年が独りでこんな夜に、森の中で何をしていたのだろうか?もしやこの森、自殺で有名なところだったりするのか?


「嬢ちゃん、名前は?」

「嬢ちゃんって、君より結構年上なんですけど………あれ?」


青年の嬢ちゃん呼びに呆れながら、自分の名前を告げようと口を開けたが………思い出せない。それにおかしい、自分が今までどんな暮らしをしていたのか、覚えているが説明ができないくらいに薄い。それを見た青年は小さくため息を吐いてこちらを見る。


「やっぱり「加護持ち」か。空から落とすなんて、物騒な神に好かれたもんだな」

「……へ?」

「この世界の神どもは、別の世界から加護を受けるに値する「存在」を召喚する。その時に、神によっちゃあ記憶を消す奴もいるんだよ」

「……え、神?……記憶を、消す?」

「アンタの記憶が朧げになっているのも、前の世界を恋しがらない為に、アンタをこの世界に召喚した神様がやったってことだ」


平然と告げられる言葉の意味がわからず、私は呆然と立ち尽くしていた。

……てことは何だ、ここは、自殺の名所とかでなく、そもそも私の知っている世界ではないという事なのか?本当に夢ではないのか?青年はそんな私を見て、目を細めながら、私の頭を一回撫でる。


「落ち着け、嬢ちゃ………あー……」


そのまま青年は上を見て少し考え込む。………ふと、何かが降りてきたように、こちらに顔を向ける。


「お前の名前は今日から、マヨイだ」

「え?」

「嬢ちゃん呼び、嫌なんだろ?迷ってるからマヨイ。ちょいと適当だが可愛いじゃねぇか」


名前をそんな簡単に決められてしまい、苦言を言おうと青年の顔を見つめる。そういえば、銀髪と青色の瞳だから、てっきり異国の青年だと思っていたが、よく見れば彼は、私と似た系統の顔つきだ。青年の言葉を聞くに、彼も私と同じく、神によってこの世界に飛ばされたのか?


「………君も、違う世界から来たの?」

「あー……恐らくそうなんだろうが、何十年とこの世界にいると、どこの世界から来たとか、覚えてねぇんだよ」

「何十年?」

「ああ、もう100年以上は過ぎているはずだ」

「ひ、ひゃくねん!?嘘でしょ!?どう見ても私より年下じゃん!!」

「……さっきから思ってたが、アンタ、そこで自分の顔見た方がいいぞ」


青年は仏頂面をしながら側にある森の湖を指差す。何を言っているのかと、言われるままに湖で自分の顔を見ると…………そこには10代の私がいた。手で頬を触ると、その水面上の私も同じく頬を触る。思わず自分の体を改めて見るが、身長まで小さくなっており、本当に10代の自分そのままに若返っている。後ろから青年が「な?」と声をかける。


「アンタ、元の世界じゃ何歳だったか知らねぇが、外面は俺と同じか、年下にも見えるぞ」

「……………嘘でしょ」

「これも神からの贈り物だろうが……ま、仮令アンタが何歳だろうと、俺よりも年上って事はねぇよ」


どう見ても説明がつかないこの非日常の出来事に、私は青年の方を見た。

そこには、月明かりに照らされて、銀色の髪が美しく光る青年が、意地悪そうに笑っていた。


「俺の名前はテオドール。アンタと一緒で神に加護を受け、この世界に飛ばされた。この世界じゃ聖人とも、魔法使いとも呼ばれてる」




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