18 国王同士の話し合い
シルトラリアの魔法によりゲドナの関所、ではなく城の、なんなら国王がいる場所にやって来てしまった私達であったが、ゲドナの国王は大らかな性格だった様で、特にお咎めなどもなかった。ただ流石に一国の国王同士が普通の部屋で話すわけにもいかず、私達は城の大広間に来ている。
中央に先ほどの灰色の長髪を持つ男性が玉座に座ってこちらを見ており、その隣にはシルトラリアに剣を向けていた、金髪碧眼の美女がこちらを真顔で見ている。どうやら彼女が戦いの神の加護を得た人物で、この国では聖女や剣聖と呼ばれているらしい。剣聖と呼ばれているだけあって、背中には大剣を背負っている。
「ハリエド王、わざわざここまでご足労頂き感謝する。それに後ろの美しい精霊や、聖女聖人達も、よく来てくれた」
「ここまでの道も旅の様に楽しめましたので、お気になさらず。……それよりもゲドナ王、見ての通り、私達は「魔法の使える者たち」ばかりです。何かお手伝い出来る事は?」
威圧感のあるゲドナ王に、シルトラリアは動じず質問をする。ゲドナ王は軽く笑いかけ、王座の肘掛けに腕を置いて皮肉そうにシルトラリアを見る。
「流石その歳で一国を任される聖女だ、忖度もなく本題に入れそうで嬉しいよ」
「それほどでも!国や政治の事は、まだまだ教育係の宰相に怒られている位です」
「ハリエドの宰相はさぞ優秀なのだな。……では本題に入るとしよう、キルア、説明して差し上げなさい」
キルア、と呼ばれた隣の美女は無言で前へ一歩進み、こちらを見下ろす様に見つめる。壇上の上にいるからではなく、背中に背負う大剣が、普通の剣の長さと錯覚してしまうほどの、とても背の高い美女だ。そのままキルアは口を開く。
「二週間前、この国周辺での魔物の量が普段の倍以上に増えました。それは今なお増え続け、我が国周辺の地域に甚大な被害を与えています。……今ではその魔物は、一斉にこの国の結界魔法を攻撃しており、既に結界の綻びも出ています。……このままだと後、数日もすれば結界は消滅します」
魔物が増えているとは聞いていたが、まさかそこまでの事態になっているとは思わなかった。私の隣で今まで無言で聞いていたテオドールは、眉間に皺を寄せながらキルアの方を見る。
「その大量発生した原因は、わかってんのか?」
「原因は分かっていません。こんな事は、魔物が多く出る我が国でも初めての事なのです」
「聖女の結界魔法の容量を超えるほどの攻撃……それならば、今度はより強固な結界を張る必要がある、か」
シルトラリアが呟く様に唱える言葉に、私以外皆深刻そうな表情をした。どういう事なのか聞こうとテオドールを見ると、こちらに気づいたテオドールが理由を教えてくれる。
「結界魔法ってのは、加護持ちでも一度だけしか使えねぇ大層な魔法なんだ。金髪の嬢ちゃんは既に過去に結界を張っている。二度もやれば加護持ちだろうと命の補償はねぇ」
「……そんなに大変な魔法なんだ」
私の言葉に、ゲドナ王は頷く。
「余はキルアの命を捨ててまで、再び結界を張る事は望んでいない」
「しかし!」
キルアが言葉を放とうとしたがそれを止めて、苦虫を噛み締めたような表情で下を向く。その彼女の姿にシルトラリアは小さくため息を吐いて、再びゲドナ王を見る。
「では、私達は結界を攻撃している魔物を退治すればいいかな?」
シルトラリアの言葉に頷き、ゲトナ王は頭を垂れる。
「報酬や、我が国との今後の貿易も可能な限りハリエドに従おう。……他国の国王と付き人にご迷惑をおかけするが、ご協力願えないだろうか?」
ゲドナ王の申し出に、シルトラリアは頷き後ろにいるアイザックとノアを見る。二人はシルトラリアを見つめ無言で頷いた。次にシルトラリアは私達を見る。テオドールは仏頂面をしながら頭を掻く。
「入国出来た恩もあるしなぁ……仕方ねぇ、協力してやる」
「やっりぃ!マヨイはどう?」
「は、はい!私も頑張ります!」
私は拳を作り意気込む。が、テオドールは私の腕を引っ張り、そのままあっという間に彼の腕の中に抱きしめられる。思わず叫びそうになるが国王達の前なので抑えて、怒りを露わにテオドールの顔を見ると、彼も非常に不服そうな表情をこちらへ浮かべていた。
「アンタは駄目だ。魔物退治はさせない」
その強い言葉には、シルトラリア達も、ゲドナ王とキルアも唖然としている。なんだったら私の顔は引き攣っている。意識を戻したシルトラリアが恐る恐る、といった表情で声を出す。だがテオドールは私を抱きしめる力を強くし更に密着させてくるので、正直恥ずかしさもあるが苦しい。やめろエロジジィ。
「えっ、いやでも、マヨイはやるって」
「マヨイが良くても俺が許さねぇ。魔物がウジャウジャいる所なんざ、危険すぎるだろ」
「いやいや!?マヨイも聖女なんだから、普通の人間よりも強いじゃん!?」
「んな事は知らねぇよ!俺がコイツの分まで魔物を殺せばいいだろ!」
「過保護か!?お前は過保護なのか!?」
私を挟んでシルトラリアとテオドールが言い争いをしている。最近、元々自分に何故か甘いテオドールが、更に加熱していると思ってはいたが、ここまでとは…………うん?そういえば、結界魔法は一度きりの大魔法だったっけ?私は強く抱きしめているテオドールの腕の中から、自分の片腕を高く上へ伸ばした。
「あのっ!いいですかね!」
私が急に大声を出すもんだから、言い争いをしている二人はこちらを向き、テオドールなんて怒りを露わにした表情で見ているので、思わず「ひぇ」と変な声が出てしまった。シルトラリアも不機嫌そうな表情をこちらに向ける。
「どうしたの、マヨイ」
「あっ、えーっと……結界魔法は、加護持ちでも一度きりの魔法なんですよね?」
「それが何だ?」
二人とも威圧感のある顔をこちらに近づけてくるので、正直物凄く逃げたい。私は先ほどから考えていた事を伝えるべく、大きく息を吸う。……そして、再び拳を顔の前で作り、二人を真っ直ぐ見つめた。
「じゃあ、一度も使っていない私が、結界魔法をこの国に張るのはどうですか、ね?」
「…………………えっ?」
「…………………あ?」
私の提案に、二人とも、そして周りの皆もまた、目を大きく開けて暫く固まっていた。