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16 ハリエドの聖女

前作「望まれなかった聖女ですが、何か?」の登場人物が出ますが、読まなくても支障は全くありませんよ〜!( 時間がもしある時に読んでいただけると、作者嬉しいなぁ…… )




ユヴァ国を出てから1週間たち、あと数日でゲトナ国へ到着の所で私達は、ゲドナ国に入国せずに引き返して来た所だという商人に出会った。その商人が伝える内容に、テオドールは呆れたような表情を浮かべる。


「国の入国ができないだぁ?」

「そうなんだよ!国周辺の地域も全て、住民以外は立ち入り禁止になってるんだ。何でも今ゲドナ国は魔物が多発しているらしくて」

「魔物?何でまた急に」

「詳しくは僕も聞いていないよ、でも確かに魔物の死骸がそこかしこにあって、おっかないのなんの!」


そう言いながら商人は思い出したのか震え出す。頭を掻きながらテオドールは私を見る。入国ができないのであれば、そもそも加護持ちの存在にあえる確率は極めて低い。


「違う国に行くしかないみてぇだな」

「そうだね、しょうがない」


私達はそのまま引き返し、他の加護持ちがいるとされる国へ向かおうと足を進めようとした。

が、引き返そうと後ろを向くと、そこには焦茶色の髪と目の女性がおり、急に現れたその女性に私は驚いて後ろに下がる。待て、いつの間にいたのだこの人は!?服装は私と同じような平民の服だがとても綺麗な佇まいをしており、どこかの貴族の令嬢にも見てとれる。


「どうして違う国に行くの?行こうよゲドナ国」


その女性は首を傾げながらこちらに告げる。よく見れば女性の顔立ちは私とテオドールによく似たもので、今まで自分達以外で見たこともない顔立ちに驚く。テオドールも後ろにいた女性に気づかなかったのか、一瞬目を開いたが、すぐに険しい表情になる。


「見ず知らずの奴の後ろ取るなんざ、礼儀がなってねぇぞ小娘」


テオドールの威嚇のような声に、女性は頬を掻きながら申し訳なさそうに眉を下げる。


「ごめんごめん、丁度今から向かう国の話してたからつい聞いちゃって」

「シルトラリア!!」


女性の後ろから男性の声が聞こえる。その声の方向を見ると、テオドールと同じ銀髪の男性と女性が後ろから走ってこちらへ向かってくる。この世のものではないほどの、まるで芸術品のような美しい二人で思わず凝視してしまう。シルトラリア、と呼ばれた女性はその声の方を向く。


「アイザック、ノア」


そう呼ばれた二人のうちの、おそらくアイザックの方であろう男性は眉間に皺を寄せながら女性の方を見る。


「また俺達を置いて迷子になろうとする!」

「シルトラリア、貴女はもう少し王としての立場を理解した方がいいわ」


女性も眉間に皺を寄せながら厳しい顔をシルトラリアに向ける。流石に二人に責められて居心地が悪いのか、シルトラリアは引き攣った表情で目線を泳がせている。


「………シルトラリアって、アンタまさか……最近建国したハリエド国の、シルトラリアか?」


どうやらシルトラリアという女性に心当たりがあるのか、テオドールは先ほどと変わって、信じられないものを見るような表情で女性を見る。それに反応するように銀髪の男女は私達に気付き、シルトラリアを守るように前に出ようとするが、それを彼女に止められる。



「そう、私の名前はシルトラリア。最近建国したハリエド国の王をしてるよ」



自身を王と言う彼女は、こちらに微笑んでみせた。












ハリエド国とは、最近建国された精霊と人間の住む珍しい国だそうだ。数年前までは違う国名で、魔法を使える精霊を恐れ迫害していた国だったらしい。精霊と人間で長きに渡って戦争をしている所に、精霊側の聖女召喚により異世界から召喚されたのが、今目の前で焚き火の火で魚を焼いている女性、聖女シルトラリアだ。神が自ら選んだ存在ではなく、精霊達に人工的に召喚され、予言の神の加護を得る事が出来た存在は、彼女しかいない極めて珍しい存在らしい。ハリエド国では神の加護を得た存在を魔法使いではなく、聖女、聖人と呼ぶのが一般的なのだそうだ。

あの後私達とシルトラリア達は、もし魔物が現れた時に助け合えるように、とシルトラリアの提案で今夜は一緒に過ごす事となった。テオドールが昨日捕獲した魚を今は焼いており、どうやら今まで野宿をした事がないシルトラリアは、面白そうに魚を焼いている。……まぁ、確かにこの人、王様だもんね。魚が焼けたのか嬉しそうにそれを口に運び、顔を緩ませながら頬張るシルトラリアは、そのまま私とテオドールを見る。


「戦争がようやく終わって、国王の私が他国の視察も兼ねて挨拶回りをしてる所なの。……で、次はゲドナ国に行こうとしたら、なんか魔物が多発してるみたいじゃん?もうこりゃ運動がてら助太刀行こうかなぁって!」

「………おい、一国の国王様がこんなんでいいのか」


テオドールは呆れながらシルトラリアの両隣にいるアイザックとノアを見るが、二人は無言で目線を横へ向ける。………良くないんだな、きっと。アイザックとノアは、シルトラリアの世話係をしている精霊だそうで、この挨拶回りでの護衛も兼ねて行動を共にしているらしい。話を変えたいのか、ノアはこちらを見て口を開く。


「テオドールと、マヨイ、だったわよね?貴女達はゲドナ国へ何しに?」

「ああ、マヨイに加護を与えた神の手がかりを見つける為に、戦いの神の加護持ちの奴に会いに行こうとしてんだ」


テオドールからの返答に、アイザックとノアは私を見て驚いた表情を向け、アイザックは立ち上がる。


「じゃあ、君は聖女なのか!?しかも自分がどの神に加護を与えられたのか、分からないのか!?」

「は、はい……なんとも可笑しな話ですが」


驚いている二人を尻目に、黙々と焼き魚を食べているシルトラリアがこちらを見る。


「加護を与えた神様を見つけてどうするの?誰か分からなくても、特に困る所はないと思うんだけど」

「あ、はい!ぶっ飛ばします!!」

「ぶっ!?」


私は拳を目の前で掲げながらシルトラリアに見せる。口に頬張った焼き魚を吹き出しそうになったのか、咽せて胸を何度か叩いている。両側の精霊達は慌てて、水の入っているのだろう水筒を取り出し彼女に渡す。それを一気に飲み干し、そしてようやく落ち着いたと思えば、彼女は下を向いて震え出す。もしや私は、王様に対して失礼な言葉遣いだったのか!?


「す、すいませんすいません!?何か私は失礼な事を!?」

「いっ、いやっそうじゃ、なくてねっ!?」


私は吃る彼女に慌ててしまうが、隣で聞いていたテオドールもシルトラリアと同じように下を向いて震えている。というか、二人ともよくよく見れば笑いを堪えて震えていた。堪える事が出来なくなったのか、シルトラリアは上を向いて大きな声を出して笑い出す。


「神を殴るって!!あっはっはっは!!すごい度胸があるねぇ!マヨイは!!!」

「だ、だって無理矢理神様に召喚されて!空から落とされるし!もう腹が立つじゃん!」


思わず国王である彼女に砕いた言葉遣いをしてしまったが、本人は気にしないのか涙目を拭いながら、テオドールの方を見る。


「テオドール、君の仲間は面白い子だねぇ!」

「だろ?……念の為言っておくが俺の女だからな?」

「えぇ〜マヨイにハリエドに来てほしかったのに〜」


テオドールも笑いすぎて流れる涙を親指で拭いながら、シルトラリアの方を見る。この二人、なんか笑いのツボが同じなのか、性格が似ているのか知らないが仲が良さそうだ。一人に笑われるだけでも腹が立つのに、二倍になると顔がどんどん引き攣っていくのがわかる。それに気づいた精霊達は、申し訳なさそうにこちらを見る。アイザックが肩に触れ、ため息を放つ。


「うちの国王が申し訳ない」

「いいえ……テオドールで慣れてますんで」


そんな私達の態度に気づかないのか、シルトラリアはこちらにとびっきりの笑顔を向ける。

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