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13 もう一緒に寝るの、慣れました



窓から差し込む光に、私は重たい瞼を起こす。

……昨日も中々大変な一日だったからか、あの後宿泊先に戻って、すぐ寝てしまったんだっけ?


「んんっ、」


耳元でやけに色気のある声がする。私は、聞き覚えのあるその声の主の方を向いた。



そこにはまだ夢の中にいるであろう、銀髪の青年、テオドールがいた。銀色の髪が光を浴びて、整った顔立ちもあり思わず顔が引き攣るほどの美しさだ。そんな青年に後ろから抱かれているようで、私の腹部に周る腕が重たい。……テオドールの後ろはまだ隙間あるんだが、この青年は何かに抱きついてないと寝れないのだろうか?最初こそは驚きと羞恥心で何度も叩き起こしていたが……なんかもう慣れてしまった、慣れって恐ろしいな〜。


昨日もこの前も、大変なご迷惑をおかけしているので、まだ寝かせてやろう。私はそっと彼の腕を離して部屋を出る。




「お早うございます、朝食二人分頂けますか?」


一階にある食堂へ向かい、そこにいる自分より幾分か年上の女性へ声をかける。女性はこちらを見て笑顔を向ける。


「お早う!昨日も随分帰ってくるのが遅かったね、ほら、どうぞ」


明るく声を掛けられながら、私は二人分のパンとスープを受け取る。そのまま会釈をして自分の部屋に戻ろうとしたが、再び女性に声を掛けられる。


「今日の夜暇なら、星祭りがあるから旦那さんと行ったらどうだい?」

「星祭り?」

「ああ、来年の豊穣を願った祝い事さ、その日だけの出店もあるから楽しいよ」


旦那、と言われた所には全力で否定をしたいが………お祭りか。明日にはこの国を出る予定だから、最後に思い出を残すのも悪くないかも知れない。旅の主であるテオドールが許してくれるだろうか?祭りの事を食事に時にでも話してみよう、そう思いながら部屋に向かう。




部屋に戻ると、テオドールはベッドから既に起き上がっていた。

先日の魔物退治の際の魔法のお陰か、まだ疲れが抜けきれていないらしい。……まだ眠たいのか大きな欠伸をする。こんな寝起きですら色気が出ている彼は、中身を知らなければ、私も頬を染めてうっとり見ていただろう。私はトレーの上に置かれているスープとパンを見せる。


「朝ごはん貰ってきたよ」

「………ん」


そう寝ぼけたような声を出すテオドールを見ると、この青年が「伝説の大魔法使い」と呼ばれている事が信じられない、年頃の若者にしか見えない。……ほんのちょっと、可愛いと思う……中身ジジィだが。




私は朝食を食べながら、先ほど聞いた祭りの話をする。パンを食べながらそれを聞いていたテオドールは、咀嚼し終えるとこちらを向く。


「祭りか、丁度時間もあるしちょっくら見るか」

「え、いいの!?」


私の表情を見て、テオドールは目を細めて微笑む。


「この国に来て散々な目にあったんだ、少し位、いい思い出欲しいだろ?」


テオドールの言う通り、この国に来てろくな観光はしていない。運命的に豊穣の加護を持ったヨゼフに出会い、そして魔物退治に禁書庫で調べ物。だが全て、これは自分に加護を与えた神を見つける為にしている事なので、むしろ目の前の彼に、協力してもらいっぱなしだった事が申し訳なく思っていたのだが……この目の前のエロジジ……いやお爺ちゃん……なんていい奴なんだ……私はテオドールに笑顔を向ける。


「お爺ちゃん……有難う!!」


その言葉に、テオドールも美しい笑みを浮かべ、手の関節の音を鳴らす。


「マヨイ、尻出せ」







めちゃくちゃ痛かった。








______________________




ユヴァ国に来たのは、おそらく50年ぶりだろうか。

10年前に豊穣の神の加護を得た青年が現れた事で、更に豊かになった国、ユヴァ。

50年ぶりに来たこの国に、まさか再び訪れ、そして誰かと一緒に旅をするなぞ、考えもしなかった。



「テオドール!こっち!こっち来て!」


夜の商店街を楽しそうに歩く娘が、可愛らしい笑顔をこちらに向けて出店を指差す。俺は言われるままに娘、マヨイの後について行く。




娘と出会ったあの日、魔物狩りを終えた後、夜空から叫び声が聞こえた時は驚いた。気づいた時には、極力人前で出そうとしなかった魔法を唱え、娘を助けていた。

この世界ではあり得ない服装をしている娘、自分と似た系統の珍しい顔立ち……娘の素性を聞くと、やはり加護を得た存在だった。……空から落とされる加護持ちなど、聞いたことはなかったが。


同情し、しばらく面倒をみようと思った。……だがその提案をした際の、娘の輝く表情から出る物騒な言葉に、それは同情から興味になった。何十年と独りで旅をしてきた俺が、段々と消えていった感情を、再び娘は俺に与えた。


だから少し位、ほんの数年位はこの娘と過ごすのも悪くない、そう思ったのだが。





「商店街の中央で催しをやるみたいだよ!行こうテオドール!」


片手に先ほど買った串焼き肉を持ちながら、空いた手で俺の手を掴む。いつ触れても温かい娘の肌は、とても心地いい。



俺は、マヨイと離れる時が来なければいい、そう最近考えてしまう。

この感情が保護者心から来るものなのか、別なのかはまだわからない。

けれど、いつか訪れる最後に、娘に迷惑をかけたくない。


不老不死の俺は、娘と生きる場所が違うのだから。




「わかったわかった、何処までも付いて行ってやるよ」


嬉しそうな娘に、俺は苦笑いをしながら繋がれた手の行く方へ向かう。






マヨイと別れるその日が来たら、俺は笑って見送ってやろう。

だから、せめてその日までは娘を、マヨイとの時間を堪能しよう。



そんな気持ちを知らないマヨイは、俺の言葉に笑って答えた。

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