12 禁書庫へ
禁書庫の閲覧時間は夕方まで。それまでの間に少しでも情報を手に入れる必要があった。……この広大な本の中で、自分が求めている本など、そう簡単に見つかるのだろうか?
するとテオドールは、一枚の魔法陣の書かれた紙を私に差し出す。無言で渡されたものをそのまま受け取り、その紙を見る。
「これ持って、探したい本を思い浮かべろ」
言われるがままに魔法陣の書かれた紙を見ながら、……神、加護持ちの事が記された本を思い浮かべる。魔法陣はそれに応えて赤く光り、そのまま手から離れて中に浮く。……その紙は浮いたまま勝手に折り曲げられていき、紙飛行機の形になる。私は隣にいるテオドールを見る。
「これって!?」
「そのままちゃんと見てろ、飛んでくぞ」
テオドールが言った通り、紙飛行機は吸い寄せられる様に本棚へ向かう。私は慌てて紙を追いかける。……そのまま紙は奥の本棚の、一冊の本に貼り付く。
その貼り付いた本を本棚から抜き出し、表紙を見るとそこには『神と加護と歴史』とタイトルの書かれた本があった。それを見ていたヨゼフは感心したようにテオドールを見る。
「「探しの鳥」か、随分古い魔法を使うね」
「何だよ文句あるのかよ?」
「いいや?流石長く生きてるだけあると思ってね」
ヨゼフに笑いかけられたテオドールは、再び不機嫌そうな表情を浮かべる。私は本を持ってテオドール達の元へ戻り、側のテーブルに本を置く。その本はかなり古い物のようで、ところどころに苔のようなものが生えている。
「かなり古い本みたいだね、所々腐ってる」
「見れねぇ事はなさそうだな、開けようぜ」
私は頷き、本の表紙を開いて中を見る。
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神は加護を与えうる存在を別世界より呼びよせる
加護を与えられた存在は、神の言葉での魔法を使う
その言葉を理解できるのは上位精霊のみ、しかし神の言葉は使えない
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書かれている内容は、前にテオドールに教えてもらった内容と同じだ。私はページを捲り、他の内容を見る。……何ページがめくると、加護を持った存在の魔法陣の色が書かれていた。
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予言の神 金
時の神 青
戦いの神 黄
豊穣の神 緑
天候の神 黒
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「……テオドール、この最後だけ」
「ああ、塗り潰されてるな」
おそらくこの部分には、「赤」が入るのだろうか。それとも全く異なる存在なのかもしれない。……だが、塗り潰されて、そしてその部分だけ腐ってしまっているので、解読はできない。
ヨゼフは塗り潰された箇所を見ながら、顎に手を添える。
「塗りつぶす必要のある、神様という事かな?」
「ただ単に、そうなっただけかも知れねぇけどな」
……いや、ヨゼフのいう事も分かる。自分が加護を受けるに値する存在と決めた相手を、空から落として殺そうとするような神なのだ。絶対他の人にも何かやっているだろう。むしろやっててほしい、自分だけとか嫌だ。
その後もページをめくるが、どれもテオドールに聞いた内容と同じだった。他の本も見てみるがそれは同じで、そうこうしている間に夕刻の鐘の音が鳴り響いた。
……結局、塗り潰された6番目の神の存在がある事しか分からずじまいだった。私達は城でヨゼフと別れ、宿泊地に向かうために道を歩く。……目の前を付かず離れずで歩くテオドールは、昨日の魔物の件から、話はするが、何だか他人事のように接してきている。……流石に、このままじゃこの先の旅が思いやられる。
「テオドール」
「……どうした」
すでに商店街は閉まり、静かな夜道に私とテオドールの声が響く。
「昨日は、ごめん……危険な事に手を出して」
「………………」
テオドールは真剣な表情でこちらを向く。……長い沈黙の後に、彼は空を向いて大きくため息を吐いた。その後にこちらを見る目は、いつものテオドールらしい優しいものだった。
「アンタは、まだこの世界にきたばっかの赤子だ」
「うん……ごめん」
「……今はまだ、俺に守られてればいい」
そう伝えるテオドールの目を、私は逸らさないように見つめる。
「それは嫌だ、私はテオドールと対等になりたいし、助けになりたいし……守りたい」
テオドールは驚いたような表情をしながらこちらを見る。……その後すぐに目線を逸らし、頭を掻いている。耳が少し赤いのを見ると、照れているのだろうか。
「………随分な口を叩く小娘だな」
「そんな小娘と旅をこれからもするんだから、慣れて!」
強めの口調で告げる言葉に、耳を赤くしたままテオドールは吹き出した。………なんか、前も同じような事があったな。段々と私の表情が険しくなる。それを見て彼は、さらに笑う。
「ああ!本当に面白い女を拾ったもんだ!」
「面白い女ぁ?」
「アンタだよアンタ。………ああ、困ったな、いつかアンタと離れるのが、こんなにも辛い」
「………しばらく離れないでしょ」
そう伝えると笑うを止め、……再びため息を吐く。
「…………アンタ、それ計算か?」
「はぁ?」
何を言っているのかと思ったが、それを伝えるよりも先にテオドールが道を進み始めるので、私はそれに着いて行く。
………後ろから、耳が赤くなっているのが見えるが、どうかしたのだろうか?