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11 尻を叩かれる主人公



「っとにテメェは!!こっちの気も知らねぇで!危ねぇ事に首突っ込みやがって!!」

「ご、ごめっ、ごめんってば!!んぎゃ!!!」



僕は今、何を見せられているのだろうか。

……いや、理解はしている。伝説の大魔法使いと名高い、不老不死のテオドール。……そんな伝説の男が地面に胡座をかき、胡座の上にうつ伏せにした小娘の尻を叩いている。その小娘、マヨイは涙目になりながら、彼を恨めしそうに見て絶叫している。


「いいじゃん!あの女の人も幸せそうにしてたし!!」

「危ねぇ事してた事に変わりねぇんだよ!!」

「んぎゃぁ!?ちょ!いい加減にしろ!クソジジィ!!!」



次第にマヨイの言葉使いが暴言の様になっていき、それと同じくテオドールの尻を叩く音も大きくなる。




マヨイが手を繋いだ相手は、テオドールが倒した魔物だった。


元は国王陛下に手を出された貴族の娘で、傷物となった娘は社交界で爪弾きにされていた。……あの古城で、半年前行われた舞踏会で、娘は陛下の目の前で首を刺し自害した。そして、自分を嘲笑った貴族達や、傷物にした国王を恨み魔物へと変化を遂げた。


……魔物になった存在は、()()()()()()()()()()()()()。それはこの世界での当たり前の事だった。……だが、マヨイは魔物となった娘を元の人間に戻した。それはあり得ない事だ。僕は、全く自分と変わらない、ただの人間に見える彼女を見る。



どの神から加護を受けたのか分からない少女、マヨイ。

……彼女は、一体何者なのだろうか?




「誰がクソジジィだ!!!」

「お前だお前!!お前っ、いったーーー!!!」



テオドールは、今までの尻叩きで一番の大きな音を出す。それにはマヨイも、涙声になりながら叫ぶ。……………早く終わってくれないだろうか。





_____________________





昨日尻叩きを何度もされ為か、自分の尻がひりつき熱を持っているのがわかる。

私の尻を叩いたクソジジィは、不機嫌そうな表情で長いローブを靡かせながら、城の廊下を進む。その前にはヨゼフがおり、私達は彼の後に続いている。


無事に「古城の悪魔」を倒した私達は、ヨゼフが国王陛下に願い出たお陰で、城の最奥にある禁止書庫に向かっている。この世界に来て、初めて見た国王の城。前の世界の、中世のお城と似たような作りだ。大理石で出来た廊下がとても美しい。

……廊下の突き当たりに、鉄で作られた厳重な扉が現れた。ヨゼフはその前に立ち止まると扉の鍵穴に、首から下げていた古い鍵を差し込んだ。大きな音を立てて鍵は周り、重たい扉を押し開けると、そこには地下へ続く長い階段が見える。ヨゼフはそのまま、階段を進み、私達も後ろからついて行く。



階段を降り終えた先で、ヨゼフは呪文を唱える。……部屋のランプ全てに火が灯る。部屋の突き当たりが見えないほどの広大な部屋に、一面に備え付けられた本棚。真新しいものから、黒く焦げているものまで、大量の本が並べられていた。


「好きに見ていいと、陛下から許可は頂いているよ」


ヨゼフはそう言いながらこちらを見て微笑む。……いや、流石に多すぎるだろう!?しかしテオドールは小さくため息を吐き、本棚に並べられた本の表紙を見ていく。


「ほとんどは魔術に関するものばかりだ。神や魔法に関する本なんざ、ほとんどねぇだろう」

「魔術?」


テオドールは不機嫌そうな表情をこちらに向ける。


「どんな奴でも、魔法陣と呪文さえ分かれば使える術だ。魔法と違って対価が必要になるがな」

「……じゃあ、加護を持っていない人でも、対価を払えば魔法みたいなものが使えるって事?」

「ああ、……だが、対価の大きさによって威力は変わる。魔術を使うために、生贄やら、大きな代償をかける奴が多発した。……だから今じゃ、魔術は禁呪とされ殆どの奴は存在を知らない」


横にいたヨゼフもそれに頷き、私に微笑みかけた。


「この国で発見された、魔術に関する書物は全てこの禁書庫に置かれている。それほど恐ろしいものなんだ」


……対価を払えば願いが叶う魔術。確かにそんなものがあれば、他人を対価に願いを叶える者もいるかもしれない。そこまでして叶えたいものとは、一体何なのだろうか?


無言になる私を見て、テオドールは側に近づく。……頭に、温かい感触が乗せられる。どうやら頭を撫でられているようだ。目の前のテオドールを見ると、こちらに優しく微笑んでいた。


「アンタは優しいな」

「……そんな事は」


だったらクソジジィとか言ってないし。と思いつつ、撫でられる感触が心地よく、思わず頭の手を取り頬を擦り寄せる。テオドールが目を大きく開いている。……長年旅をしている男の手だからか、少し荒れている手だが、それが温かくて心地よい感触だ。


「テオドールの手、あったかくて気持ちいいね」


そう伝えると、更に目を大きくさせ固まる。……なんか悪い事言ったか?隣のヨゼフを見ると、こちらに目線を逸らして、恥ずかしそうに頬を赤く染めている。………何かしたか?この位、家族や恋人でもないのに男女でベッドで寝るこの世界で、普通なんじゃないのか?


「………あー、クソッ」


小さく言葉を吐き捨てたテオドールは、触れていた手を引っ込め後ろを向く。……やはり、何かしちゃったのか!?


「テ、テオドール!ごめん、何か迷惑な事してたかな?」

「………知るか」



再び言葉を吐き捨て、テオドールはそのまま書庫の奥へ進む。私は慌ててその背中を追いかけて、こちらを向いてくれるまで何度も謝る事になる。




その後ろで、ヨゼフが私達を見て、小さくため息を吐いた。


「全く、テオドールは手を出さないようにするの、大変そうだね」


ヨゼフが吐いた言葉は、奥へ進む私達には聞こえなかった。


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