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プロローグ

 とある貧民街の路地裏で性病に侵され痩せこけた娼婦から1人の少年が生まれた。


 既に亡くなった娼婦には蠅が集り腐敗が進んでいる。

 そんな骸の横で孤独な赤ん坊は自分はまだ生きていると言わんばかりに泣き声を飛ばす。


 しかし誰も見向きをしない。

 ここは貧民街――金銭的に余裕がないものが大半。

 その中でも路地裏を訪れる者は荒くれ者か薬物中毒者ばかりで皆目が淀んでいる。


「お、おお……おい! ぅおい餓鬼うるせぇぞ!!」


 呂律も回らず焦点もあっていない、腕には注射痕の見られる中年男性が赤ん坊の泣き声に痺れをきらし、ナイフを振り上げた。


 今にも死にそう場面で、老いた体躯ながらに歴戦の傷跡が窺える初老の男性が音もなく現れると、目にも留まらぬ速さで男の首を切り落とした。

 そして壊さないようにそっと赤ん坊を抱き抱える。


「お前も1人か……おいうちの息子になるか?」


 言葉など分かる筈もない赤ん坊。しかし意思を伝えるには充分過ぎる声で。


「ンギャァ!! ォギャア!!」


「そうかそうか、過酷になるだろうから覚悟することだ」


 疲れ果てて眠りゆく意識の中、赤ん坊はしっかりと聞き取っていた。忘れぬよう大事に――


「――お前の名前はロイだ」


 この日からロイの傭兵としての人生が始まった。



 ▲▽▲



 〜五年後〜


 やはり変わらぬ貧民街の一角。

 しかし今度は路地裏ではない。


 そして御世辞にも立派とは言えないが一軒家の中で、ロイは育ての親であるロバートに追いかけられていた。


「こら待て、ロイ!!」

「やだよーだ! ローに捕まったら髭じょりじょりされるもん!」


 ローというのはロバートの渾名のようなもので、ロイは心底気に入っていた。


「この逃げ足の速い奴め! ほれじょりじょり!」

「うわ、やめてよロー!」


 一見、仲睦まじい普通の親子のようにしか見えない。

しかし、普通ではないところが幾つかある。


 それはロバートが傭兵稼業を営む、ロバート傭兵団の頭であるという点だ。

 というのもロイを息子として迎え入れた要因の一つに自分の後継ぎを作るという目的があったからだ。


 一通りのじゃれ合いが終わると、突如何かを思い出したように話を切り出した。


「そうだロイ、夜になったら地下室に来なさい。今日から本格的な訓練を始める」


 いつになく神妙な面持ちで語りかけてくるロバートに困惑しながらも、ローだからという無条件の信頼で「うん!」と大きく頷いた。

 そんなロイに優しく微笑みかける姿はまさしく親そのものだった。


〜六時間後〜


「ロー来たよ、何処にいるの?」


 地下室の中は埃の匂いが充満し、暫くの間使われていなかったのだと想像に難くない。

 一方、貧民街で育ってきた反動なのか血の匂いには敏感になっておりこの通路の奥からはむせかえるような血の匂いが広がっていると直感で理解した。


 地下室に入ってから数分が経ち、ロイは心細く不安になっていた。

 自分の心臓の音が聞こえるほど異様に静かな空間。

 度々驚かされる鼠の鳴き声に精神的に疲れを感じていた。


「何処にいるのロ……」

「ロイ」

「うわあああああああああああああああああ!!!!!!」

「ッ! 落ち着けロイ私だ……」


 突如背後から話しかけられたロイは、心臓が潰れるほど叫んだ。それから踵を返し元来た道を走り抜けようとすると何者かに抱擁される。


 数十秒して現状を理解し落ち着いたロイは深呼吸をして一言。


「もうローなんて大嫌い」


 本心ではないのだが、こういう時気配がないのはタチが悪いとロイは拗ねる。

 だが思いの外、効果覿面だったようで魂が抜けおちたかのように口を開いていた。


「悪かったよロイ。職業柄癖になっていてね、気をつけるからそんなこと言わないでおくれよ」

「ぅん。分かったよ……」


 大好きなローを傷つけるつもりのなかったロイは申し訳なさでいっぱいになりながらも、初めてみる姿に驚きを隠せずにいた。


「では着いておいで」


 ローに手を引かれ数分ほど歩いた頃だろうか、鉄錆びた扉が視界一面に広がった。

 扉を開くと、金属を引っ掻くような不快感あふれる音と共に溢れんばかりの血生臭さが鼻へと突き上げてきた。


「ローここはなんなの?」

「…………」


 今までヨーヘイとやらになるための訓練と称し、ナイフの扱い方や魔法、格闘訓練なんかを施されてきたが、今日ばかりは雰囲気が違う。


 部屋の中心に、鎖で結ばれた小太りの男性が猿轡をつけられた状態で暴れていた。様子が変だ。


「ローあの人どうしたの? おかしいよ」

「…………」


 返事がないため、繋いだ手をなぞるように顔を見上げると、蝋燭に照らされたロバートの顔が映った。

 それはそれは見たこともないような鬼の形相で、ロバートは口を開いた。


「ロイ、最終チェックだ。お前に()()()()()か?」






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