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お待ちかねの寮

 シュエルとの雑談を楽しみながらあちらこちらへ移動している間にも時刻は昼を過ぎ、やがて夕焼けが辺りを包み始める。


 今は教室、訓練場、図書館、食堂といった学院生活で主に使用する施設に関して、粗方の説明を受け終わったところだ。


「さて……。これで一通りの説明は終わったが、ここまでで何か質問がある者はいるか?」


 先生の発言に対し、質問を投げかける生徒はいない。


 俺としては先生の案内は至極丁寧だと感じたし、特に疑問を抱くこともなかった。


 それに、実際に生活を送ってみなければ分からない部分もあるだろう。その時はその時で、また改めて聞くことにする。


「……いないみたいだな。では最後に、君達がこれから生活をする寮を案内して今日は解散にしたいと思う」


 先生はそのまま学院の一角にある、今まで説明されてこなかった建物へと俺達を案内した。


 その見た目は他の建物同様、白い煉瓦で組み上げられた美しいデザインをしている。寮というより、高級感のある賃貸物件という感じだ。


 適度に青を使って色分けがされているところを見ると、学院の一般制服とカラーリングを統一しようとする匠の粋な計らいが伺える。


「ここが君達の生活する寮だ。机や椅子、寝具や収納などの生活に必要なものは既にこちらで用意しているし、個人で好きなものを持ち込んでもらっても構わない」


「寮の使用に関する規則等についての説明は割愛するが、代わりに注意書きを用意している。これから取って来るので、暫くこの場で待機しておく様に」


 先生はそう言うと、一人先に寮の中へと姿を消していく。


「ここが……」

 

 俄かには信じられない。俺が前世を含めて暮らしてきた家と比べても、正しく雲泥の差だった。

 

「何だか、すごい豪華な所だね……」


 ルルフィはルルフィで寮の様相を目の当たりにして気圧されている。


 周りに目を向けると、学生らの反応はものの見事に二分化されていた。


 一つは俺達と同じく寮の見た目に驚いているのに対し、もう一方の反応はひどく冷静なものだった。


 目の前の寮を見ても俺達と違って眉一つ動かさず、目の前の建造物を()()見ているだけだった。


 どうやら彼らにとって、この寮は感動するに値しないらしい。

  

『よっぽどいい暮らしをしてきたんだろうな……』


 ほんの少しだけ羨ましいなと思っていると、寮から先生が返ってきた。その手には大量の封筒が入った鞄が握られている。


「この中には先程した寮の使用に関する注意書きが入れてある。これより名前を読み上げるので、呼ばれた者から取りに来なさい」


 そうして、ア行から順に名前が呼ばれ始める。俺もア行なので、直ぐに封筒を貰いに行く事となった。


「——アルカディ・ロートレックだな。では、これを」


 先生から封筒が受け渡された瞬間、ふと違和感を感じた。


 外側からよく触って確かめると、どうやら紙と一緒に何か固い物が同封されているみたいだ。


 俺は受け取った封筒を持ち帰り、中を開く。


 最初に目に入ったのは白い紙。これは先程から話題に挙がっていた注意書きの事だろう。


 問題なのは説明になかった謎の物体。何が入っているのか、封筒を逆さにして外へと出す。


 すると、そこから出てきたのは何の変哲もない一つの鍵だった。持ち手の部分には「108」と彫られている。

  

『ただの鍵……だよな』


 詳しく見ても、やはり何もおかしなところはない。至って普通の鍵だ。


 注意書きの方にも各階の説明や水浴びの時間表といった、これまた普通の事しか書かれていない。


 何かの手違いかと思い、帰ってきたエトレの封筒も見せてもらったが、中身はほぼ同じだった。


 唯一違うのは鍵に彫られている数字で、エトレの鍵には「105」と記されていた。


 この鍵が手違いで入れられた物ではないということは、恐らくこれは俺達が暮らす部屋の鍵だ。


 俺の場合は108号室で、エトレは105号室。そして、遅れて呼ばれたルルフィの封筒に入っていた鍵は202号室のもの。


 これで俺達はそれぞれ別の部屋で暮らす事が確定した。これまで三人一部屋で寝泊まりしてきたことを考えると、少し寂しいものがある。


『……そもそも、この寮は何人で一部屋なんだ?』


 今のところ先生の口から部屋割りに関することは何も説明されていないし、される気配がない。言い忘れているのだろうか。


『まぁ、これだけ立派なんだし、部屋も一人一部屋なんだろう』


 そんな風に思っていると、封筒を全て配り終えた先生が再度口を開く。


「気づいていると思うが、注意書きと一緒に鍵が同封されている。それが君達の生活する部屋の鍵となるので、くれぐれも紛失などしない様に」


「事前に受け取った荷物は既に部屋まで運んである。紛失等がないか、後で確認しておけ。では、解散!」


 その言葉を最後に、先生は鞄を持ってそのまま早足で寮を後にしていった。




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