29.コイツらだけでいる訳がない
俺の【硬化】からの【ぶちかまし】で散った蜂球――ハチの密集――。
その中心部には、デカイ岩の卵みたいな物が立ってて……ピキピキってヒビが入って……ボロボロと崩れ落ちた。
そこには呆気に取られたようなポカンとした顔のリリーさん。
そして、大盾使いの細口髭ダンディーおっさんがリリーさんを守るように大盾を爺さんに向けていて、その爺さんは顔面を大盾に潰されながらも必死の形相でリリーさんに手を伸ばしていた。
なんだこの状況……。
「リリー姐ぇっ!」
エレンさんが俺を追い越してリリーさんの下に飛び込んでいく。
リリーさんは、エレンさんの頭を撫でてやりながら救援を連れてきたことを褒めている。
そこにクレイグが声を掛ける。
「リリー、どういう経緯だ? それにこの状況……」
「ああ、エレンが説明したと思うが――」
エレンさんの報告と一緒のことが続いて、話は彼女がここを離れた後。
「こちらの手数が圧倒的に足りなくてな。救援が来るまでコリンズの【土魔法】で岩の繭を作って時間稼ぎを稼いでいたんだ」
でも、想定外の熱殺蜂球をされて暑苦しくなっていたところだったので、早く着いて助かったとのこと。
爺さんって土魔法の使い手だったのか。
……で、口髭おっさんが爺さんに盾を向けていた訳は?
「暗い密室になったことで、コリンズが下心を出して私のケツを触ろうしてきてな……ペイジに守らせてたんだ。まったく、爺のスケベさには参るよ、ハッハッハッハ!」
これには俺らの開いた口が塞がらない。
ちなみに、爺さんはまだ手を伸ばし続けていて、ダンディーおっさんが守りに入っている。
ただ、そのおっさんも、大盾を片手で操りつつ空いた手でエレンさんの太ももを撫でようとして、ペシペシ払われている。
コリンズがリリーさん狙いで、ペイジがエレンさん狙い……女目当てでパーティー組んでんのか?
「よくパーティー組んでるな……」
呆気に取られた俺の一言に、リリーさんは紅髪を掻きあげながら豪快に笑って言い放つ。
「欲望に忠実なのは確かだけど、こいつ等は腕も確かだからな! 要は自衛と使いようだ。ハッハッハッハ!」
そして、急に真顔になったかと思うと、リリーさんが「それより、蜂球だけでなくコリンズの岩繭まで砕くとは、坊やもやるねえ」と俺に言う。
でも――。
「――っと! このまま褒めてやりたいところだけど、敵さんが隊列を組み直したみたいだ! クレイグ、ここは後衛を中心に入れた方円で迎え撃とう。この人数なら頭数は充分だっ!」
リリーさんの言う通り、ヴァンパイア・ビーが崖の中腹くらいの高度に黒い雲のように滞空している。
未だに膨大な数がいて、そいつらの眼は全部俺らを向いていて今にも突っ込んできそう。
「そうだな! みんな円を作れ!」
今回は俺も円に加わる許しが出て、クレイグとリリーさんの間に入る。
中心にはシェイリーンさんと弓使いのフェイ、コリンズ爺さん。方円に守られながら魔法とか弓で攻撃する役割だ。
最初はマリアも真ん中にいるように言われたけど、「魔法が使えるワケじゃないのに、守られてばかりいられない」って言い張る。
俺はマリアの気持ちが分かるから、俺がフォローするつもりで、俺の隣に入ってもらった。
後衛三人を真ん中に入れて、七人で方円を組む。
すぐにハチどもがケツの針を向けたり、顎を開けて針みたいに尖った吸血器官を突き出して、突っ込んできて戦闘が始まる。
俺とマリアはくっ付いて二人一組みたいな感じにして、円っていうより六角形に近い形で迎え撃つ。
リリーさんは重そうな戦斧を軽々と振り回して、ハチどもを派手に弾き飛ばし――。
エレンさんは両手に手斧を一本ずつ持って流れるような二刀流で、小気味よく斬り落とし――。
クレイグやティナさん、ペイジは盾と剣を上手く使って、確実に――。
シェイリーンさんとフェイ、コリンズは中から弓矢や水の矢、石飛礫を放って、撃ち落とし――。
順調にヴァンパイア・ビーを削っていく。ただ、元々が膨大な数なので向こうからのアタックは途切れない。
マリアが心配だったものの、俺が知ってるマリアじゃないってくらい凄え杖捌きで、突いたり叩いたり払ったりとドンドン倒している。俺の方が少ないくらいじゃねえかな?
「凄えな、マリア?! いつの間にそんなに強くなってんだよ?」
「へへっ、でしょ? 私、ホッ! いっぱい、ヤァ! 頑張った、ンッ! だからっタァッ!」
おおっ! 喋りながらも、バシバシ倒していってる!
なんか、マリアの上にベルナールの高笑いとフレーニ婆さんが拳を握ってる姿が見えるような……。
マリアも将来“そっち”系統になっちゃうのか?
クレイグやリリーさん達も、受け持ち部分に対処する分には口を動かす余裕があるらしく、会話を交わしながら狩っていく。
「しかし、こいつらはどこから来たってんだ。分かるか? クレイグ!」
「いやっ、知らないな。それにリリー、こいつら……」
「ああ。“こいつら”がこいつらだけで移動する訳ないよな?」
「いるはずなんだ」
「だが見えない……」
そんな話を、目の前のヴァンパイア・ビーや周りの崖に目を遣りながらしている。
ふむふむ。
クレイグ達は、“この群れがこのハチ達だけで動き回ったりしない”って言ってるんだよな?
要は、ボスがいるってことだ。
ハチ系の魔物にとってのボスって言うと……決まってるよな?
クイーン……女王だ!
けど、その居場所が分からないってクレイグ達は言ってるな。
でもでも!
何となく分かるんだよなぁ……俺。女王の居場所。
蜂球が散って、ハチの気配が薄く広く分散されたから、感じるんだ。【直感】とか、【嗅覚】【洞察】【位置掌握】で。
こいつらの更に向こうっ側、――崖のあの辺に……。
「クレイグ、リリーさん! クイーンの話だろ?」
「「そうだが?」」
両側にいる二人が揃ってこっちを向いた。
ちょうどいいや、指し示してやろう。
「あそこにいると思うぞ?」
俺がすり鉢みたいになってる崖の中腹よりちょっと上の方を指すと、二人もつられて目を遣る。
ハチの大群で煙に巻かれたように霞む視野の奥の奥……。
そこは一見、岩の斜面に見えるけど、ちょい岩棚になってるっぽい。
そして、クイーンの姿は見えていないけど、数十体のヴァンパイア・ビーがうろうろと飛び回っていて、まるでそこを守っているみたいだ。
「あれは……! こんな視界でよく分かったね、レオ君」
「ここからアレを見つけるとは……凄いじゃないか坊――いや、レオッ!」
「へへ……」
「「確実にクイーンがいる!!」」
次話
30.死にかけのクイーン




