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27.唯一にして最大の難所へ


 キューズの北門を出た二頭引きの幌馬車は、街道を進んで数十分で薬草の自生地の目印だった林を通り越した。

 俺にとっては未知の領域に入ったけど、景色は相変わらず草原。当たり前っちゃあ当たり前か。


 そして、街道は西に逸れて領都オクテュスに続く。


「レオ君! 右からホーンラビットが飛び出してきそうだ!」

「そうっすね! 狩りまーす」


 馬車の護衛ってのは、基本的に前後左右を警戒して、馬車を襲ってきそうな魔物や人を見つけるのが一番の仕事。

 で、その中で実際に襲ってくる奴とか、すぐ近くに潜んでる奴を排除する。遠くにいて襲ってこなさそうなのを狩りに行く事は無いってさ。


 魔物が狙うのは荷台の商品じゃなくて、主に馬と人。食おうと襲ってくるそうだ。ゴブリンなんかは、ついでに武器を持って行ったりもするらしいけど。

 商品を狙うのは人間……盗賊ってやつだな。

 キューズとオクテュスの間は、見晴らしのいい草原が多いので盗賊は滅多に出ないらしい。


 俺は街道を馬車よりも前を走って、自分でも周りを警戒しつつ先頭の馬車にいる見張りからの指示があればそこを警戒する。

 左右は、馬車の荷台部分――前輪と後輪の間に人が足を掛けられるステップがあって、そこに立ってその方向を警戒。

 後方は最後尾の荷台から追ってくる奴がいないか見張る。


 待機のパーティーも含めて、馬の休憩に合わせて役割を交代して護衛していく。


「仕留めたっすよー!」

「お疲れさん。交代までそのまま先行してくれ~」

「うーっす!」


 前方に魔物の気配があると、馬車は速度を落として俺が排除するのを待つ。

 魔物の数が多いと、待機組が荷台を飛び出して討伐に加わる仕組みだそうだ。


 で、安全になると馬の脚を速めるから、俺が魔物から魔石を取り出す暇は無い。代わりに待機組が街道の端に寄せた魔物の死体を回収して解体までしてくれる。


 そうやって得た素材は、後で基本的にパーティー毎に等分される。


 馬車よりも前を走るってことは、追いかけられて疲れそうだけど、馬車はそんなに速く走らないから思ったよりきつくない。俺、若いし。

 石が敷いてある街なかみたいに平らな訳じゃないから、そんなに速く走れないんだと。


「レオ、体力は大丈夫?」


 交代して荷台で休憩してる俺を、マリアが気遣ってくれる。

 街道を先行するだの、荷台の外で左右を見張るだのは、俺が担当して、最後尾の警戒とか獲物の解体はマリアに任せることにした。

 各パーティーに割り当てられた役割を、どう分担するかはそれぞれのパーティーに任せられている。

 そうだよな。マリアはまだしも、『鮮血の斧』の爺さんに先頭を走れっていうのも無理があるからな……。


 それで、俺は体力を使う仕事をしてるんだけど、自分で言うのもなんだけど結構役に立てている。

 魔物のスキル【嗅覚】(コモン)や【位置掌握】【洞察】(レア)辺りを使えば、斥候のフェイやベテラン達よりも魔物を見つけるのが早いからな。


 一日目の道のりは結構順調に進んで、途中の小さい集落に寄っても、日が暮れる前に宿泊予定の村に着くことができた。


 村にはこの定期便の定宿があるんだけど、個室は少なくて商会のおじさんや領主様の文官が泊まる。

 だから護衛の冒険者は男の大部屋、女の大部屋と分かれて他の客と一緒に泊まることに。

 この二、三日は珍しくオクテュス側からの客がいないそうで、大部屋も広く使えるそうだ。



「……いつもこんなんなのか?」

「そうだね、“彼ら”が参加する回はいつもこんな感じだよ……」


 俺は『キューズの盾』『鮮血の斧』の男メンバー、それに『民の騎士』と大部屋にいるんだけど……。

 任務中は真剣そのもので護衛をこなしていた『民の騎士』の三人が、酒盛りを始めやがって大騒ぎだ。


 クレイグが何回か注意しても聞く耳持たずで、もはや諦めの境地って感じ。


 髭も剃っていて清潔感があったジョセフとゴードン、レビットの三人が、俺たちや他の客なんてお構いなしに素っ裸になって踊り出す始末。

 四十近いおっさんの裸踊り……引くわ~。


 あまりにうるさ過ぎて、女部屋のリリーさんが斧を振りかざして怒鳴り込んできた時は、こいつら殺されると思ったね……。それにリリーさんの胸のデカさにもビビった。

 あの騒ぎの中で平気で寝てた『鮮血の斧』の爺さんも、ある意味凄いと思った。死んでるのかとも思ったけどな。



 そんなこんなで一夜を過ごして、早朝には領都に向けて発った俺たち。

 昨日、あんなにお粗末な姿で騒いでいた『民の騎士』の三人は、あれが嘘だったみたいに任務をこなしている。


 一行は午前のうちに草原地帯を抜けて、小規模な岩崖がんがいに挟まれた谷に入った。

 先の見通せない長く曲がりくねった狭い谷筋が、そのまま街道になっている。

 小規模って言っても傾斜も急で曲がりくねってるから、まるですり鉢の中にいるみたいだし、上から落ちたら無傷ではいられない高さの崖だ。


「ここは狭いし見通しが悪くて万一の時の逃げ場が無い、唯一にして最大の難所だ。『鮮血の斧』全員で先行して歩哨ほしょうをやってくれ」

「任せときな!」


 クレイグが言うには、ここを整備して道を拡げたり真っ直ぐにしたりしないのは、領都の防衛の為だって。

 天然の要害ってやつだそうだ。


 元々は大きな岩山だった所に、ドラゴン同士の空中戦で負けた方が地上に堕ちて、そのドラゴンの尻尾に潰されてできたのがこの谷筋。胴体が圧し潰した場所が領都を含んだ大平野になった、っていう伝説があるんだとさ。


 その谷筋。

 見通しが利かないから、馬車は最低速度にして前方を警戒しながら進む。

『鮮血の斧』が何個も先の曲がり道を行っている。


 その時、前方からズーン! ドゴン! と重い衝撃音が響いてきて、俺らに緊張が走る。


「なっ、なんだ?! リリーさん達か?」

「落石か? それとも……」

「盗賊だってのか?!」


 そんな中クレイグは冷静に考えを巡らせて、一旦馬車を谷筋から後退させて、その警護に『民の騎士』を残して様子を探りに行く指示を出してきた。

 俺とマリア、それに『キューズの盾』の面々が音の方に向かうと、緑のツインテールを揺らしながら『鮮血の斧』のエレンさんが必死の形相でこっちに走ってくる。


「た、大変じゃあーっ!」


 息を切らしながらやってくるエレンさんは、頭や防具の無い腕や脚から血を流している。


「どうしたっ、何があった?」

「で、出たんじゃ! ここら辺には居ないはずなのに! み、みんなが大変なんじゃ!」


 慌てていて話の要領を得ないエレンさんを、クレイグの妹のシェイリーンさんが手を握って落ち着かせようとする。

 回復薬も飲ませて、息が整ったところでもう一度訊く。


「エレンちゃん、何があったの?」

「ヴァ、ヴァンパイア・ビーが出たんじゃ! それも大群じゃ!!」


次話

28.ヴァンパイア・ビー

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