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2.銅貨やスキル、お恵みください


 それから三年、俺は十二歳になった。

 名前もできた。レオだ。


 ☆

 三年前、ぶちこまれた“クズ小屋”で、俺はマリクに出会った。


 マリクは、俺が生まれて初めて見た『色』のついた人間。

 くすんだ世界にただ一人、なぜかマリクだけに『色』が付いていた。

 隙間だらけのボロ小屋に差し込んだ夕日に照らされてキラキラ光る一つ結びの長い金髪。

 ほんのり夕日色に染まった白い肌。

 整った顔に、俺を連れてきた手下に怯えて揺れる青い瞳。


 他にも何人も子どもがいて、そいつらはくすんだままなのに、同じようなボロボロなシャツと裾がズタズタなズボン姿なのに……マリクのあまりの美しさ――“美しい”なんて言葉は後になってから知ったんだけど――に、俺はしばらく立ち尽くしていたっけ。


 俺が何歳なのかを教えてくれたのもマリク。

 五歳で孤児院から追い出された時に暑かったか寒かったか、季節ってもんがあるから何回巡ったか聞かれて、覚えてる限りを答えたら俺が九歳だって。


 マリクは俺よりも一歳下だった。

 詳しくは聞かねえけど、マリクはいいトコの子だったらしく、すごく頭がよくて物知りで、実際俺がぶっ込まれて以来色々教えてくれたっけ。

 俺よりも背が小さくて、そのくせクズ小屋に入れられている割には長い金髪はサラサラで、身体もいつも小綺麗にしていた。

 散髪だってそのマリクにしてもらってるし、言葉や洗濯とかの生活のことも、孤児院で何も教えられていなかった俺はずいぶん助かってる。


 マリクのおかげで、俺の世界には少しずつ『色』も付いてきた。


 レオっていう名も、マリクが付けてくれたんだ。

 でも、それは同じ小屋の連中の間でだけの呼び方。


 “帝国”の皇帝や大人達は俺らのことを「ガキ」とか「テメエ」って呼ぶし、そもそも一人ひとりを見てもいない。

 ☆


 そして今は、キューズっていう町の中心部にある冒険者ギルドの近くで物乞いをしている。


『銅貨やスキル、お恵みください』


 そう書かれた頑丈な板を首から吊るし、木の皿を掲げて。


駄スキル(・・・・)しかねえ無能なお前は、ボスの縄張り(シマ)で物乞いでもしてこい!』


 俺が入れられた小屋は、年格好が近い“スキル無し”だけが押し込まれる小屋。マリクもスキルが無いって事だ。

 「寝床と食い物はボスが用意して下さってんだから、お前ら能無しは必死こいて金とスキルを持ってこい」って、常に恫喝されていた。


 ただ、同じように連れてこられた子どもでも、スキルを持っている奴は物乞いはしないでスキルの訓練をしたり“仕事”を割り振られたり、女の子は別の事をさせられているらしい。


 俺らクズ小屋組は朝早くから“帝国”にある畑の世話をして、人が出歩く時間になったら街へ連れられていくって毎日だ。

 んで、街では人通りの多い道を割り振られ、二人一組で物乞いをさせられる。


 “帝国”は、全部が畑ってわけではなくて、ほとんどがスキル持ちの訓練場や……“仕事”や“抗争”で出た“ゴミ”の処分に使われている。

 この三年の間にも、夜に大人達から命令されて人型の麻袋を土に埋めさせられることもあった。



 ま、そんな仕事もありつつ、メインは銅貨とスキルの物乞いだ。


 銅貨は言わずと知れた“カネ”。大人の親指の爪くらいの大きさ。十枚で小さいパン一つ、二十枚で肉の串焼き一本を買えるくらい。

 でも、一枚で銅貨十枚分の大銅貨があって、そっちの方が使う機会が多い。俺にとってはどっちも金なんだけど、大人にとっては銅貨は小銭。枚数が嵩めば重いし邪魔とさえ思われている。


 スキルは……メンド臭せえけど、四種類あるそうだ。


 まず、生きてりゃ誰でも獲得できる【コモンスキル】。

 これは“駄スキル”って言われている。『生まれて育っていく』、ただそれだけで身につくスキルだから。レベルアップもしない。

 【呼吸】なんてモンから、歩く為の【姿勢制御】、擦り傷とかがゆっくり治っていく【自然治癒】とか、挙げればキリがないくらいある。


 次に、【コアスキル】。

 普通、スキルって言えばこのコアスキル以上のことを指すらしい。

 剣なら剣、弓なら弓、魔法・算術・交渉術とか、その分野ごとにもっと深く学習・体験して会得する。


 そして、会得したコアスキルの積み重ね(レベルアップ)や、親からの遺伝で得られる【レアスキル】。

 いま考えれば、俺の親は黒髪・黒眼の見た目の他にレアスキルが遺伝してないからって、俺を捨てたのかもな。教会の奴らもそう。


 もう一個、持ってる奴なんて滅多にいない【ユニークスキル】。

 神からの贈り物、っても言われてる。マリクもそれがどんなモンか知らねえし、想像も出来ねえって。



 スキルは、人間だけが持っているのではなくて、“魔物”も持っている。

 魔物は、体内に“魔石”と“スキル結晶”があり、肉や爪・牙・皮といった“素材”と同じく売り払って金にできる。人間は、心臓の近くにスキル結晶があるそう。


 魔物のスキル結晶はどれも同じ大きさで、銅貨よりひと回り小さい球。それぞれのスキルが結晶化しているから、魔物の種類や個体によって持ってる結晶の数が違う。


 実はスキル結晶って、魔物の結晶でも人間の結晶でも、自分に取り込むことが出来るそうだ。

 球に触って『取り込む』って念じるだけでいいんだって。すると、結晶がサラサラと崩れてスキルだけが取り込まれるらしい。


 でも……魔物のスキルを持つってことは、人間を辞めて魔物に成り下がるってことだとされて忌み嫌われてるらしいし、やる奴も基本的に(・・・・)いないそうだ。


 例えばスライムの【粘体ねんたい維持】なんて、取り込んでも中途半端にねばつく身体になるだけらしいし。

 あ、ゴブリンの【繁殖衝動】は、露見した時の恥ずかしさに耐えられる猛者、色狂い、枯れることが恐い老人とかに需要があるって誰かが言ってたな……。


 人間のスキル結晶は、その人が持つスキルが全部ひとつの結晶に納まっているけど、人間から結晶を取り出すのすら“禁忌”だって、国が禁止している。


 でも、“帝国”みたいな闇社会の連中にはそんなの関係ない。

 親から遺伝しなかった奴が『仕事上必要だから親の死後、継承する為に取り出す』とか、商売敵しょうばいがたきや邪魔な兄弟を『殺して奪う』とかいう依頼が“帝国”にくるそうだ。



 『銅貨やスキル、お恵みください』ってのは、魔物から得たスキル結晶の余り物やカネを、善意の市民からタダで貰ってこいってこと。


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