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11.F級冒険者と見習い登録


「お嬢ちゃん、アンタは駄目だ」


 婆さんの言葉に、俺とマリアは揃って驚く。


「なんでだよっ?! 冒険者に男も女も関係ねえだろ? 登録の金もある!」

「そうです! 私も、今日冒険者になりたいんですっ!」


 カウンターに乗っからんばかりの勢いで突っかかる俺と、俺にぴったり重なるように迫るマリアに、婆さんは素気なく言葉を吐く。


「歳だよ歳。坊やは十二なんだろ? この国では、働きに出られる人間だと認められるのが十二歳。だから十二になってないお嬢ちゃんは子どもで、ウチには登録できないのさ。規則で決められてるんだよ」


「はあ? マリアなら、あと二、三か月もすれば十二だ。これくらいいいだろ?」

「そうです! さ、三か月なんて、有って無いようなものですよね?」


「なら、その二、三か月が経ってから来なさいな」

「ぐぬ……そこをなんとか誤魔化せねえか?」

「正面から規則破りを持ち掛けるんじゃないよ、この坊やは! 嘘はバレるんだよ!」


 それでも二人で食い下がっていると、婆さんが根負けしたのか、また大きなため息を吐いた。


「はぁ~……。深くは聞かないけどさ、坊や達は“ワケあり”だろ?」

「「……」」


「他所じゃどうか知らないけど、キューズで十二歳になったばかりの子が単独で登録に来ることは無いんだよ。来るとしても後見してくれる連中と来るもんさ。志望者だけでくるのは、もう少し歳いった連中だからね。ましてや、十二歳以下なんて……」


 訳ありなのは事実だ。

 でも! 俺たちは行くところが無いから、冒険者にならないとまた路上に逆戻りだ。

 あんな暮らしはまっぴらだし、なにより……マリアにそういう生活はさせたくない!

 最悪、俺だけの稼ぎで凌ぐけど、なんとかなんねえか?


「二、三か月なら待てばいいのにねぇ……。仕方ない、“見習い登録”するかい?」


 ――ッ!!


「「見習い?」……なんだそれ?」

「十二歳になってない子でも、たとえば『冒険者をやってる親や兄弟とか、入ることが決まっている“パーティー”で面倒をみる』ってんなら十一歳から見習い登録が出来るのさ」

「なんだよ! 出来るんじゃねえか、早く言えよ婆さん!」

「レ、レオ! 言い方……」


 婆さんの目が一瞬で鋭くなった。


「婆さんだあ? あら? アタシはどうしてここにいたんだっけ? いけない、“いつもの”仕事に戻らないと……」


 婆さんがわざとらしい演技をしながら、体の向きを変えて元の窓口に戻ろうとする。

 マリアが肘で俺の脇腹を小突いてきた。


「まっ! まて! 待って下さい、お婆様!」

「レオ、そこじゃない! 『フレーニさん』でしょっ」

「アタシはアンタの祖母さんじゃないよ!」


 必死こいてカウンターによじ登って婆さんに縋り付く。

 マリアも一緒に謝ってくれて、なんとか窓口に戻ってもらう。

 婆さんは「分かったから、離れな! カウンターから下りなっ」と、俺を払いつつも向き直ってくれた。


「まず、冒険者登録には銀貨一枚のお金が掛かるのは知ってるかい?」


 それは物乞い中に聞きかじったから、知ってる。理由までは知らないけど……。


「冒険者になれば、冒険者証っていう身分証が発行されるからね、その材料や手間賃さ」

「おう。それは用意してる。二人で銀貨二枚だろ?」

「見習い登録にもお金が要るんだよ? 大銅貨5枚、半額さ。三か月後に、銀貨一枚で冒険者登録出来ても、それは戻ってこない。いいのかい? もったいなくないかい?」


 ……正直、金をバンバン使ってる余裕はない。宿代も掛かるだろうし。

 けど――。


「それは、見習いになってから稼げばいい。早く登録してくれ」

「お願いします!」

「わかったよ……。冒険者見習いってのは――」


 婆さんが続けた説明では、冒険者は登録したてのFからAまでとその上のSまで七つのランクに分かれていて、成果に応じて上がっていく。

 依頼もその内容によって、FからA・Sと分けられ、実績や依頼内容によっては自分のランクの一つ上の依頼を受けられるそうだ。


 “見習い”は最低のFランク依頼、それも街の中の依頼しか受けられないらしい。


「街なかのFランクの依頼って、そんなに稼げないし必ずしも安全ってわけじゃないんだよ? ならず者だっているし、貧民窟だって危ないよ? いいのかい?」

「はい、大丈夫です。ね? いいよね、レオ?」

「ああ、そういう所は俺が一緒に行ってやるから大丈夫だ。パーティーってのを組めばいいんだろ?」

「……そうかい。なら、登録しようかね。ちょっと待ってな……」


 婆さんが渋々といったていで手続きの準備に行って、紙と小さい木の板と焼きごてみたいな物を持ってきた。


 俺もマリアも“帝国”の焼き印を思い出して身構える。

 じわじわ動いて、マリアを俺の後ろにかくまう。


「それを……どうするんだ?」


 そんな俺たちを婆さんは、何してんだい? って感じで見ながら教えてくれた。


「これは、【登録】のスキルが込められたこてさ。印面には万国共通のギルドの紋章が刻まれていて、――」


 印面に登録者の血を一滴垂らして、個人の情報を書いた紙に捺すと、血がその情報を吸う。それを更に木の板に捺すと、登録した町と個人の名前が入った冒険者証の完成だそうだ。


「おお!」「へえ……」


 てっきり体に焼き入れるのかと思ったぜ……。

 紛らわしいな、もっと違う形は無かったのかよ!?


「見習いやFランクのうちは木の板だよ。Eランク以上になったら、丈夫な鉄の板になるから、頑張んな」


 俺はマリアに教えてもらった字を思い出しながら書き入れる。

 ――つっても住処なんて無いし、名前と歳くらいしか情報は無いけどな……。


 血を垂らした鏝は薄っすら光って、板に捺されると光は消えた。

 俺とマリアは、それぞれ冒険者証と見習い証を受け取る。


「これで今日から――いや、今日は駄目か。明日から依頼を受けられるよ。向こうの掲示板で出来そうな依頼を選んで、さっきの窓口で手続きするんだ。依頼を済ませて帰ってきた時も、そこで完了報告をするんだよ。他に聞きたいことは無いかい?」


 おっ、冒険者証に気を取られて、忘れるトコだったぜ。


「スキルについて聞きたい!」


 そう。昨日、無我夢中でスキル結晶を取り込みまくったら、色んなことが起こった。

 頭の中に変な声が棒読みみたいなトーンで流れたし、『進化』だの『獲得』だの『昇華』だの、俺の知らないことが起こり過ぎだ。マリアに尋ねてもピンときてないみたいだったし……。


 なにより! 【性欲常態化】っつう糞スキルをなんとかしたいっ! 

 せめてヒントだけでも掴みたい!


「そうかい。じゃあ、あっちのカウンターに行った方がいいね」


 婆さんが指した先は、天井から看板が吊るされてる窓口。二つあって、二つとも閉まってる。


 カウンターを挟んで移動するうちに、マリアに何の看板か聞く。


「何て書いてあるんだ?」

「えーっと、『素材・魔石・スキル結晶買取所』だって」


「そうだよ。依頼で倒した魔物は、討伐証明の部位以外は基本的に冒険者の物になる。それを売り買いする場所さ」


 窓口を閉めてたへだて板を寄せながら、婆さんが話に入ってきた。


「えっ? 俺たちも買えるのか!?」

「う~ん……。買えるには買えるけど、自分で獲るより高くつくよ?」


 おおおっ! スキル結晶を買えるんだったら、金は掛かるけど、自分で獲った物と買った物とで凄く強くなるんじゃ?


「でも、スキル結晶は駄目だよ?」

「え?!」


 俺の目論見はすぐに打ち消されちまった。

 なんで?


「人間のスキル結晶は出回りようがないし、魔物の結晶は、魔道具に付与するスキルに使うものもあるし、結晶自体も魔石とは違った魔力構成だから、エネルギー研究の為に国が全量買い上げるからね」

「そんな……」


「――それに、魔物のスキルなんて取り込んだらいけないよ。親からの寝聞かせとか説教で聞いたことあるだろ? 『魔物のスキルを取り込んだら、魔物になっちまうぞ』って。人間のスキル結晶を取り出すのと同じくらい『禁忌』だって」

「…………」


 マリアにも目配せで「そうなの?」と送ると、バツが悪そうに「うん」って頷く……。


 えええぇぇ、聞いたことねえよ。俺、親いねえし……。


次話

12.自分のスキルを知る方法

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