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スティールハート  作者: 竹取獣奈
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第四章

あれから何の問題もなく訓練は続いた。走り込みは徐々にタイムが短くなり体力がついてきた。射撃もヨルムンガンドとフェンリルをどうにかバロールの助けありだが使いこなせるようになってきた。そして学年トーナメント戦まで一週間というところでテオの工房を訪ねてある人物がやってきた。

 訓練が終わりテオの工房に帰ってきてすぐにドンドンとドアを叩く音が聞こえてきた。

「おい、ハガネお前が出ろ」

「お前の工房なんだからお前が出ろよ」

「私はこれから君が使った魔銃の整備をしなければならない、それに私は人と会うのが嫌いだ」

「……わかったよ」

 俺は渋々テオに従う、来客に会いたくない理由はなんとなく後者の気がしたが口にせずドアに向かう。

「はいはーい、今出ますよっと」

「よかったハガネ! 無事だったんだね!」

「お前は翔太か? 久しぶりだな」

 ドアを開けるとそこには親友の佐藤翔太がいた。

「心配したんだよ、あれから退学手続きは辞めたって聞いて部屋を訪ねたのに肝心の君はいなかったから、色々な所を探し回ってようやく居場所を突き止めたんだから」

「まあ、俺にも色々あったんだよ」

 環境の変化に気を取られて親友の翔太の事を忘れていたので俺は少し後ろめたい気持ちで言った。翔太にだけでも自分は元気でやっている事を教えるべきだったと俺は後悔した。

「その腕と目ただの義体じゃないよね、もしかして授業にも出なかった事と関係が?」

「それは……」

「それ以上は企業秘密だ」

 いつの間にか後ろに立っていたテオが俺の言葉を遮る。

「君は、テオ・アウレオルス」

「なんだ私を知っているのか、だったら早くここからいなくなってくれないか? 私は研究と関係のない人間と会うのが嫌いだ」

 テオは初対面にもかかわらずバッサリと切り捨てた。

「そうはいかない! 君みたいな得体の知れない人物とハガネをこれ以上一緒にさせるわけにはいかない! さあハガネここから出よう!」

 翔太は真剣な声で言った。

「残念だけどそれは出来ない、何故ならハガネは私の研究の手伝いをしているからな、今更出ていってもらったら困るのだよ」

「アウレオルスさんは黙っててもらおうか、今俺はハガネと話しているんだ!」

 テオと翔太の間に見えない火花が散った気がした。

「残念だけど翔太、俺はここを出ていく事は出来ない。俺はテオの研究に自分のこれからを懸けているんだ、だから今更手を引く事なんて出来ない」

「ハガネ……」

 翔太が悲しそうな声を上げた後、何かを決意したようにこちらを見てきた。

「そこまで言うなら勝負だハガネ! 君の覚悟が本当か確かめさせてもらう! もし俺が勝ったらアウレオルスさんとの縁を切って今まで通りの生活に戻ってもらう」

「おい、いきなりなんて事を言い出すんだ!?」

「いいだろう、その勝負乗った」

「テオ!?」

 俺は困惑する。そんな中、話し合いは勝手に進んでいく。

「勝負は明日の早朝、第二演習場で決着をつけよう」

「そちらが勝った時の要求をしていたが、負けた時はどうするんだ?」

「それは……ハガネとアウレオルスさんの好きにするといい」

「いい覚悟だ、負けた時を楽しみにしておくといい、ハガネは私の研究によって君の想像を超える強さを手に入れたのだからな」

「やっぱりあんたの研究は危険な感じがするよ」

「リスクのない研究に意味などないよ」

 テオと翔太が睨み合う。

「それじゃあハガネ、明日は全力で勝ちにいくよ」

 そう言って翔太は去っていった。

「おいテオ! いきなり勝負なんてどうしたんだ?」

「そろそろ射的だけでは飽きただろうと思ってな、本番の前に魔術師相手の対戦を考えていたところだったからな」

「それで翔太の話しに乗ったのか」

「そうだ、お前も自分がどの位強くなったのか知りたいだろう?」

「それは……」

 テオの言う事は本当だ、俺は自分がどの位強くなったのか早く確かめたいと思っていた。

「明日に向けて君は早く寝るといい」

「テオは?」

「私は魔銃の調整をやっておくよ、魔術師相手なら少々いじっておきたい場所が何箇所かあるからね」

 そう言ってテオは魔銃を分解し始めた。

俺はいつも寝るのに使っているソファーに行こうとしてテオに話しかけられる。

「こんなところでつまずくなよハガネ、マキナの有用性を証明するには学年トーナメント上位に入らないと話にならない。彼は見たところ上の中くらいの実力と見た、そいつに勝てないなら残念ながら君に才能はないと言わざるを得ない」

「ああ、わかっている、俺はこんなところで終われない」

 そうだ、生まれつき魔力が低い俺に訪れた最後のチャンス、それがテオのマキナだ。俺を見下した連中の度肝を抜く為にも明日の勝負負ける訳にはいかない。

 俺は興奮を抑えるように眠りに就いた。


 翌日俺はヨルムンガンドとフェンリルのフル装備で第二演習場に来ていた。第二演習場は体育館四個分ほどの広さがあり、魔術師同士の訓練に使われている。魔術で施設を破壊しないように防御魔法によるフィールドを発生させる事ができ、通常は教師が制御を担当するのだが今回はテオが制御担当をしてくれている。

 第二演習場は早朝という事もあって俺達以外誰もいない、これなら人目を気にせずマキナを使えるというものだ。

「両者バトルフィールドに入れ」

「おう」

「わかった」

 俺と翔太がバトルフィールドに入る。

「ルールを説明するぞ、ルールは学年トーナメント戦を基準にして意識を失う、バリアジャケットの発動が不可、降参するかのいずれかで敗北とする。制限時間は一五分で決着がつかなかった場合は有効打が多かった方の勝ち、それでいいな?」

「ああ」

 俺は頷く。テオが言った事は教科書にも載っているような基本的な対魔術師戦のルールで頭の中に入っている。

「それでは両者バリアジャケットを発動しろ」

「「バリアジャケット発動!」」

 俺と翔太はほぼ同時にバリアジャケットを発動する。翔太の見慣れた鎧姿になる。

「それでは試合始め!」

 テオの号令で試合が開始される。浮かれている場合ではないと俺はフェンリルを構える、状況を確認する。翔太との距離は約二十メートルで翔太は槍と身体強化を使った近接攻撃が得意。それでこちらは魔銃による遠距離攻撃しか攻撃方法がないので俺は距離を詰められる前にケリをつけるべくフェンリルで狙いをつける。翔太はこちらの武器が遠距離武器だと読んで狙いを絞らせないようにジグザグに動きつつ、こちらに接近してきた。しかし翔太の動きはバロールで予測できる。俺は自然な動作でフェンリルを発砲する。

「甘い!」

「チッ!」

 フェンリルの弾丸は翔太の槍によって逸らされ直撃しなかった。一応槍に当たった時に爆発はしたがほとんどダメージになっていない。俺は急いで二発目を装填し発砲するが同じく槍によってはじかれる。

 そして距離を詰められ翔太の槍がこちらに迫る、それを俺はフェンリルの銃身で無理矢理はじく。

 想定していたよりも翔太は強い、そして状況はこちらが圧倒的に不利。俺は心の中で驚愕していた。対魔術師戦を甘くみていた、自分は強くなったのだと浮かれていた。様々な理由が俺の心を折りにくる。

「もらった!」

「ツッ!」

 翔太の三度目の攻撃でフェンリルが手元からはじかれる。俺は急いで距離をとりつつヨルムンガンドで連射するが翔太の回転させた槍で全弾はじかれる。

「クソッ!」

「次で決めさせてもらうよハガネっ!」

 弾をリロードしつつ後退するが翔太の接近するスピードの方が上で槍の穂先がこちらに迫る。咄嗟に左手でガードするが槍の余りの勢いに体が宙に浮く。

 俺は弱いままなのか? 翔太がとどめの一撃を放つ為に槍を引く光景をバロールの驚異的な動体視力で眺めながら、俺の心は折れそうになっていた。いくら努力しても所詮、俺には才能はなかったのか? 今までの努力は無駄だったのか? 様々な疑問が渦巻いて消えていく。

「負けるなハガネ! 君はもっとやれるはずだ!」

 諦めて目を閉じそうになった時、テオの声が聞こえてきた。こんな俺でも信じてくれる人がいる。俺は再び闘志を燃え上がらせて閉じかけた目を開く。

 そうだ、俺の為に頑張ってくれたテオが言うんだ、その言葉を信じなくてどうする? 考えろ起死回生の一手を。俺が考えている間にも槍が胴体目掛け突き出される。待てよ、今までの攻撃は槍に防がれていた、ならば槍で防御できないタイミングで攻撃すればこちらの攻撃が通るのではないか? 俺は考えている時間も惜しいと思い頭の中のアイデアを実行に移す。

「なっ!?」

 突き進んでくる槍を左手で無理矢理掴む、そして一気に距離を詰める。

「ゼロ距離取ったぞ!」

 俺は翔太のがら空きの胴体にヨルムンガンドの六発の弾丸を叩きこむ。

「がはっ!?」

 翔太が後ろへ勢いよく吹っ飛び、そしてバリアジャケットが解除され立ち上がる事はなかった。

「そこまで! 勝者暁ハガネ!」

 テオの声で俺の対魔術師戦の初勝利は幕を閉じたのである。


「大丈夫か? 翔太?」

 俺は試合が終わってすぐに倒れた翔太のもとへと駆け寄った。

「イテテ、まさか俺がハガネに負けるなんて思ってもみなかったよ」

 翔太は脇腹を抑えながら立ち上がろうとしていたので俺は手を差し伸べた。

「正直この勝利は紙一重だったよ、負けるかと思った」

「でも勝ちは勝ちだよ、おめでとうハガネ!」

 そう言って翔太は背中をバンバン叩いてきた。

「そういえばハガネがここまで戦えるようになったのはアウレオルスさんのおかげなんだよね?」

「ああ、俺がここまでやれるようになったのはテオのおかげだ」

「天才の私にかかればこの程度造作もない。まあ、ハガネの努力も多少はあったがな」

 テオが少し照れながらこちらにやってきた。

「それよりもハガネ! 帰ったら反省会だぞ! 覚悟しておけ!」

「えっ? なんでだよ勝ったからいいだろ?」

 俺の反論を叩き潰すようにテオはまくしたててきた。

「あのなあ、君の戦い方は遠距離攻撃で相手を封殺するものだっただろう? なのに君ときたらフェンリルで接近戦をするはヨルムンガンドをゼロ距離で撃つは滅茶苦茶だ! 今日は徹夜で整備しなくちゃいけないこっちの身にもなってもらいたい」

「その、なんていうか、ごめんなさい」

 俺は思わず謝ってしまった。

「はははは、ハガネはすっかりアウレオルスさんの尻に敷かれているなあ」

「おい翔太! こっちは笑い事じゃないんだぞ」

「悪い、悪い、でもアウレオルスさんが噂よりいい人そうでよかったよ」

「噂?」

「面白い、そこの佐藤翔太とか言ったかその噂とやらを聞かせてみろ」

 テオが挑戦的な目で翔太を見る。それに対して翔太は堂々と答えた。

「非合法な人体実験をしてヨーロッパから追放されただとか、工房をいくつも爆破して退学寸前までになったとか、人の心を理解できないマッドサイエンティストとか、俺が聞いたのはこのくらいかな?」

「テオ本当なのか?」

「君は私と暮らしていて、本当かどうかわからないのか?」

 テオが少し怒った風に言った。

「疑って悪かったよ」

 俺が謝るとテオはそっぽを向いてボソッと言った。

「まあ、半分くらいは合っているんだがな」

「おい! 今なんつった!」

「それよりもハガネ! アウレオルスさんと暮らしていたってどういう事? 年頃の男女が一緒に暮らすなんて不潔だよ!」

 翔太は変なところで食いついてきた。

「いや別に翔太が思っているような事は起きてないぞ! 本当だ!」

「どうなのアウレオルスさん?」

 翔太が疑いの目でこちらを見てくる。

「男女の中になった覚えはないが私の裸を覗いてきた事はあったな」

「ハガネ!」

「あれは事故というかなんというか……」

 テオが爆弾を投下。何故か翔太が真っ赤になって怒ってくる。結局、翔太の誤解を解くのに十分くらいかかった。


「ところで提案なのだが佐藤、後一週間ほどだがハガネの訓練に付き合ってくれないか?」

「別にかまわないけど、ハガネ達はどうしてそこまで強くなろうとするんだい?」

「テオは自分の研究を世界に認めさせる為、そして俺は弱い事を理由に逃げる人生を止める為に」

 俺は震える右手で左腕を握りしめながら言った。これは魔力が低いのを理由に諦めてきた事に向き合うという宣言だ。そうだ、俺はあのイジメられても抵抗しなかった頃の自分とは違うのだと言い聞かせる。

「わかった、ハガネも相当な決心を持って強くなろうとしているんだね。短い間だけど協力させてもらうよ。それに俺も次、ハガネと戦う時には勝ちたいからね」

「翔太……」

「実は少し嬉しかったんだ、ハガネが戦っているとこを見て、昔みたいにやる気に満ちた目をしている事がさ」

 そう言って翔太は恥ずかしそうに頬をかいた。

「よし! そうと決まればハガネの練習メニューの見直しだ、今まで以上に大変だがやれるなハガネ?」

「ああ! もちろん!」

 テオの挑戦的な目に俺はそう答えていた。


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