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スティールハート  作者: 竹取獣奈
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第三章

 俺はあの後すぐ味方に救助され意識を失った。目覚めたら学園内の医療施設にいた、あれから三週間以上も眠っていたらしい。医者の説明ではもう少し血を失っていたら死んでいたとの事だった。あの時の霧崎冬華が行った行為は正しかったらしい。その後、担任が真剣な顔で俺の病室に入ってきた。

「いいか暁、これから言う事をちゃんと聞くんだぞ」

 正直、担任が言ってきた内容の半分も理解出来なかった、いやしたくなかったのだ。話を要約すると、俺はもう魔術師として終わりと言う事、名誉の負傷という形で国から生活に困らない額の金が貰える事ぐらいしか覚えていない。他にはお前は十分頑張っただの国からの依頼は成功しただの今はどうでもいい事言っていたような気がする。

 一通りの説明を終えた担任は手続きの方はこちらで処理しておくと言って去っていった。

俺はというとショックでしばらく茫然としていた。最後まで意地汚くしがみついていた魔術師としての称号が無くなる事がとてつもなくショックだった。イジメられても周囲から冷たく扱われても手放したくなかった魔術師という俺が特別だという証明、妹の治療費を稼ぐ唯一の手段それが無くなる? 冗談じゃない! 俺の数年間はなんだったんだ! 俺は声にならない叫びを上げた。

 こんな片腕と片目を無くした体で一般人としてこれからを生きていく? 無様だ、妹に顔向けできない、霧崎冬華が言った言葉を思い出す。魔術師を辞め、生き恥を晒して生きてく人生に意味などあるのだろうか? あのまま死ねばこんな思いをせずにすんだのにそんな罰当たりな事を考えていた。

「ハガネ、今大丈夫か?」

 ノックと共に翔太の声が聞こえる。俺は一人で考えるのを止め、翔太を病室に入れる。

「ハガネ……」

翔太は俺の姿を見て絶句する。

「ははっ、ざまあないよな、やっぱり周りが正しかったんだ、俺は魔術師になるべき人間じゃなかったんだな」

 俺は自嘲的な笑いをこぼす。そんな俺を悲しそうに翔太は見てきた。

「あの時、俺が助けに入っていれば!」

 翔太は自分が許せないのか拳を強く握り締め、叫んだ。

「もしもの話をしても意味がないさ、現実の俺はもう……終わりだ」

 俺は絞り出すように声を出して現実を再認識する。

「そんな事!」

「ないって言えるのか! この姿を見て!」

「っ!」

 俺はつい感情的に怒鳴ってしまった。翔太は悪くない、悪いのは弱かった俺自身だ。翔太は俺を励まそうとしてくれただけなのに、言葉が止まらない。

「よかったなこれで、お荷物はいなくなるぞ!」

「ハガネ、俺はお前の事をそんな風に思った事なんかない!」

「でも実際はお荷物だったろ! 戦えない、特技もない、性格も悪い、俺なんか!」

「待ってハガネは今、疲れて冷静じゃないんだ、だから少し落ち着いて話を……」

「うるさい! もう放っておいてくれ!」

「……また今度出直して来るよ」

 翔太はそう言って去っていった。

「今度なんて来ねえよ……」

 俺は小さくそう呟いてベッドに潜る。そうだ、もう翔太とは別世界の人間なんだ、俺は一般人であいつは魔術師。もともと友達だったのが何かの間違いだったんだ。


翔太が去ってしばらくして俺は妹のホノカがいる魔術師関係者の病棟へフラフラした足取りで向かった。

「ごめんなホノカ、兄ちゃんもう駄目みたいだ」

 未だに目を覚まさない妹へ謝罪する。最先端魔術医療が受けられるここに来てもホノカが目を覚ます事はなかった、魔術師候補生を辞めればホノカもここにはいられない。貯金は貯めてあるのでしばらくはホノカを他の病院に入院させられるだろうがここ以上の設備は望めないだろう。

「ごめんな、ごめんな」

 俺はただひたすらに泣きながら謝った。俺のたった一度のミスでホノカが目を覚ますチャンスすら奪ってしまった事を悔いた。俺はしばらくホノカの手を握って謝り続けた。


病室に戻り俺はベッドの中でうずくまっていた、後悔と絶望で頭がどうにかなりそうだったからだ。それからしばらくしてドアがノックされた。しかし今は誰とも話す気が起きなかった俺は無視を決め込む。するとドアが開く音が聞こえたので俺はベッドから出て入ってきた人物を確認する。

「失礼するよ、なんだ返事がないからいないのかと思ったがいるじゃないか」

 入ってきたのは学園の制服に白衣を着た小柄な少女で、右手に不釣り合いなほど大きなトランクを持っていた。

「誰だ、あんた?」

「私の名前はテオ、テオ・アウレオルス。君に再び戦う力を授けに来た者さ、暁ハガネ君」

 俺に心当たりはないが向こうはこちらを知っているようだ。俺は翔太との出来事を引きずっているせいか冷たく対応する。

「そのアウレオルスさんがなんで俺みたいな怪我人に御用がおありで?」

「そう冷たくされると困るな、この話は君にとって魅力的なはずだから、ちゃんと聞いて欲しいかな」

 魅力的な話? こんな存在価値の無い俺に今更なんの話があると言うのだろうか? 俺は不審に思いながらアウレオルスさんの話を聞く。

「話というのは私の研究、魔科学、私はマキナと呼んでいる物について協力を頼みたいんだ」

「マキナ?」

 俺は聞き慣れない単語に首を捻る。

「知らないのも無理はない、マキナと言うのは私が発明した、既存の魔術を凌駕する新しい力の事だ!」

 アウレオルスさんは急に語気を荒くして話始めた。まるでこちらがいないかのように一人で語っていった。

「マキナは神話獣の体組織を科学で制御した画期的な兵器だ!」

「神話獣の体組織を利用? そんなの聞いた事ないし危なくないのか?」

 いよいよ話が胡散臭くなってきた。

「危険性はないよ、理論上はね」

「しかし神話獣の体組織を使うなんて学園は認めているのか?」

「ヨーロッパにいた時は認められなかったが今は状況が違う! 君と私がいれば学園いや世界にマキナの力を認めさせる事ができるはずだ!」

 アウレオルスさんは力強く言う。

「残念だが俺は力になれそうになれないな、こんな体なものでね」

 俺は無くなった左肩から先を見せつけるように突き出す。

「その体の君にしか頼めない事なんだよ、とりあえずこれを見てくれ」

 そう言ってアウレオルスさんは持っていたトランクを開ける。

「これは腕と目?」

 トランクに収められていたのはただの義手と義眼にしか見えない物だった。義手の方は左肩から指先にいたるまで金属光沢を放つ黒一色、肩は普通だが肘から先が普通の腕に比べ大きくなっているのが特徴的だった。義眼はまるで宝石のルビーのように赤く、生きているかのような蛇の目の紋様が印象的だった。

「名前は義手がアイギス、義眼がバロールだ」

「これがどんな凄い物か知らんけど、着けたところで俺は魔力判定Eの底辺だぞ、宝の持ち腐れだ」

「心配するな! これは魔力が無くても後天的に魔力を増やし、並みの魔術師を超える力を秘めている代物なんだ!」

 アウレオルスさんは狂気じみた瞳でこちらを見てくる、それを俺は怖いと感じた。相手は自分と同じ歳の少女だというのに、まるで蛇に睨まれた蛙ように俺は動けなくなってしまった。

「ざ、残念だけどやっぱり俺は協力する事ができない、俺はこのまま一般社会に戻らせてもらうよ」

 俺はなんとか声を絞り出してそう答えた。俺の本能的なものがこの少女と関わるのは危険だと知らせてくるからだ。

「このまま負け犬のままでいいのか?」

「何?」

 アウレオルスさんは挑戦的口調で言ってきた。

「そんな体で一般社会に戻ってまともに生きていけるとでも? 日々を死んだように過ごしてお前は満足なのか? 魔力がなかったと蔑んできた奴らの思い通りになっていいのかと聞いている!」

「それは……」

 俺は言葉に詰まる。アウレオルスさんの言う通りだ、俺は周囲を見返す為、妹の生活の為に頑張ってきたはずだ。俺の心は激しく揺さぶられていた、このまま安全な場所で暮らしていくのが正しいのか? 疑問は徐々に大きくなっていった。

「もう一度だけ聞くぞ、私と共に世界中の魔力至上主義者どもの度肝を抜かすか、尻尾を巻いて逃げるか? 君はどっちがいいんだ?」

 アウレオルスさんの言葉は恐怖と共にとても魅力的に聞こえた。まるで甘い囁きで人間を堕落させる悪魔のように。

「俺はもう一度戦えるのか?」

 俺は少女に質問を投げかける。

「私と君の二人ならば可能さ」

 少女は自信満々に答えた、まるで失敗なんて微塵も考えていないように。

「俺にもう一度戦う力をくれ」

「契約成立だ、喜びたまえこれで君は世界が驚くほどの力を手にすることができるぞ!」

 アウレオルスさんは手をこちらに差し出してきた。俺はこの手をじっと見つめて、五秒くらいたった後決意を固めて片腕しかない腕で握り返した。

「ああ、協力するよ、アウレオルスさん」

「テオでいい、今日から君は私の大切な仲間なんだから」

「よろしくな、テオ」

「ああ、よろしくハガネ」

 こうして俺は新たな第一歩踏み出す事となった。これから先どうなるかわからないが負け犬にだけはならないと俺は心に誓った。


「それじゃあ早速アイギスとバロールを着ける為に私の工房に行くぞ」

「工房? そんな物まで持っているのか?」

「ああ、しかも共同じゃなく私個人で所有している物だ」

 前線に出る魔術師達を支援する道具などを作る為に錬金術と呼ばれる技術がある。錬金術を行う施設を工房と呼び、大半は複数人で一つの工房を使うらしいと聞いた事がある。そんな中、個人で所有しているという事はテオの言葉を信じるならば実力は本物のようだ。

「それは凄いな」

「当然だろう? 私は天才なのだから」

 俺がそう呟くとテオは自信満々に平らな胸を張って答えた。

「それじゃあ一度、先生に病室を出る許可を貰いに行ってくるよ、後、退学手続きを止めにしてもらわないと」

「退学手続きは私の方でなんとかしておくから早く工房へ行くぞ」

「ちょっと待て、勝手にいなくなったら騒ぎになるから許可は必要だろ」

「何言っているんだ、そんな物貰える訳ないだろ」

「えっ?」

「私のマキナはまだこの学園で知っているのは極一部だ、それを正直に話しても病室で寝てろと言われるだけだ」

「それじゃあどうするんだ?」

「このまま黙って行くだけだが?」

 テオは当然のように言い放った。

「それはちょっとダメじゃないかな?」

 今までルールはキチンと守って生活してきた俺はためらいがちに言う。

「煮え切らない奴だな、そんなんじゃこの先やっていけないぞ」

「テオはいったい俺に何をさせようとしているんだ?」

「いいから行くぞ!」

「あっ! ちょっ!」

 テオは俺の右手を引いて病室を出て移動し始めた。俺はというと女の子相手に手を握られた経験がないのと他の人に見つからないか心配で心臓がドキドキしっぱなしになりながら移動した。


 幸い誰にも咎められる事なくテオの工房までたどり着く。

「ここだ、入れ」

 テオの工房は学園の中で工房が集まる場所から大きく離れた位置に存在した。

「これは凄いな」

 俺は思わずそう呟く。工房の中は想像よりも広く整頓されていた。研究者の部屋はもっと汚いと思っていたので以外だった。見たことのない工具が作業台に綺麗に並べられ、壁にも様々な道具や神話獣の死体を納めた瓶などが飾られていた。さらに仕切りが複数あって個室のようになっていた、少し覗いてみるとベッドやシャワー室のようなものまであった。ここで暮らしていけるんではないだろうかと俺は思った。

「壁にかかっているあれはなんだ?」

 俺は好奇心からテオに質問してみた。するとテオは喜々として説明し始めた。

「あれは私がマキナと並行して作っている魔銃だ!」

「銃? なんでそんな時代遅れの代物を?」

 歴史の教科書に載っていた情報を思い出す。銃、それは魔術がまだ広まっていなかった時代の主力になっていた武器だ。火薬を使い、金属弾を発射する銃は人間相手ならば十分な威力を発揮したが残念ながら神話獣相手にはまったく通用しなかった。魔術が広まるにつれ魔力を込めやすい近接武器や弓などの開発が優先され、銃は時代遅れの代物と成り果てた、今では研究する者は皆無となっていたはずだ。

「魔銃を古臭い銃と一緒にするな、これは魔力を溜める特殊な弾丸によって神話獣相手にも遅れを取らない威力を発揮する新世代の武器だ!」

「魔力を込めるなら近接武器の方が効率的じゃないか?」

 魔力は手や足に集中しやすく、魔力を込める物体は大きいほど大量に蓄える事ができると授業で習った事を思い出す。その点、銃弾は質量が小さく魔力を蓄えるのに向いていないはずだ。

「私が作った弾は特殊で小型ながら大量の魔力を込める事ができる、そして魔銃は魔力を先に込めておけば魔力消費無しで扱う事ができる。つまり一般人にも魔術に相当する力を使う事ができるという事なんだよ」

「……それは凄いな……」

 俺は素直に驚いた、そんな物が量産されれば魔力のない俺のような奴にも戦う力を簡単に得る事ができるという事だ。

「まあ現状では魔術師の力を借りなければ弾を作る事すらできないんだがな」

「それじゃあ意味ないだろ」

「そこでマキナの登場だ、神話獣の体組織を使ったマキナならば後天的に魔力を増やす事ができる、この二つを組み合わせる事によって一般人を魔術師にも劣らない戦力にする事ができると私は考えている」

「それが本当なら魔術師は廃業だな」

「マキナの問題は義体レベルのサイズが最も適しているから、君のように体に欠損を負った者しか今のところ適合しない点だな」

「だから俺が選ばれたのか?」

「そうだ、技術自体は前々から完成していたが一般人は許可が下りなかったし、体に欠損があって魔力が低いという条件をクリアする人物が今までいなかったものでね」

 そう言ってテオはとある方向を見る、視線の先を辿ってみればそこには左肩と右目がない人体模型のようなものがあった。

「あれは?」

「マキナの試作品さ、君さえよければもっと体を義体化させる事もできるがどうする?」

「遠慮しとくよ、こんなんでも親からもらった大切な体なんでね」

「それは残念」

 テオはちっとも残念そうにせず、部屋のあちこちから道具を取り出し始めた。いよいよ義体の取り付け作業が始まるみたいだ。

「今から君に施す作業は魔術師の歴史を変えるかもしれない物だという事を覚えておいて欲しい」

「わかった」

 俺はテオの発言を心に刻み込んだ。テオの言葉が本当なら俺は幼い頃から憧れていた特別な存在になれるという事だ、賭ける価値はあるはずだ。

「それじゃあ作業台の上に乗ってくれ、これからアイギスとバロールを君に取り付ける」

「いよいよか、一応聞くが失敗したらどうなる?」

 俺はここまで来て少し弱気になっていた。そんな俺とは対称的にテオは自信満々にこう言った。

「天才の私に失敗の二文字はないよ」

「そうか」

 自信に溢れたテオを羨ましいと思いながら、テオの指示通り部屋で一番大きい作業台の上に横になる。

「そんなに心配ならこれをやろう」

「これは……御守り?」

 テオが渡してきたのは神社に売っていそうな御守りだった。

「それをどんな時でも肌身離さず持ち歩け、そうすればいい事があるかもしれないぞ」

「テオはもっと論理的でこんな不確かな物は信じていないと思っていたよ」

 俺は御守りを首から下げると目を閉じた。

「そうだな、私も女の子だからなたまにはこんな物に頼りたくもなる、それじゃあ作業を開始するぞ」

「ああ、わかった」

「これから麻酔を打つ、目が覚めたら新しい自分になっている事を期待しろ」

「それじゃあ、任せた」

 首筋に注射され、俺は意識を失った。


「う、うーん」

 俺は瞼を通り越して当たる光によって、意識が覚醒した。

「うっ!」

 俺は両目を開けると右側に細かな数字が大量に表示され、軽く頭痛に襲われ驚く。

「ようやく起きたか、この寝坊助め」

「テオか?」

 困惑する俺にテオの声が響く。

「今、バロールがお前の体に適応する最終段階に入った。しばらく頭痛がすると思うがすぐ収まるはずだ」

 俺はテオの方を見ようと体を起こすと無くなったはずの左肩に重みを感じた。俺は左側を見るとそこには漆黒の義手が装着されていた。

「……成功したのか?」

「もちろんだ! 私は歴史に載る天才、テオ・アウレオルスだからな!」

 ここでようやく俺はテオの方を見る。テオは意識を失う前と変わらず平坦な胸を張って自信満々に立っていた。

「信じられないという顔だな? 待ってろ今鏡を持ってきてやる」

 そう言ってテオは工房の奥に消えていった。この頃になってようやく俺も意識がはっきりとして、頭痛も収まってきた。

「持ってきてやったぞ、心配ならこれで確認しろ」

 俺はテオから手渡された手鏡で自分の体を確認する。右目は瞼に傷跡が残っているものの、赤い義眼がしっかりと収まっていた、試しに右目だけで鏡を見るとちゃんと自分の姿を確認する事ができた、これで義眼が飾りではない事が判明して俺は内心ほっとした。

「アイギス、左腕は動くか?」

「やってみる」

 俺は試しに左肩を失う前と同じように動かそうとする。するとゆっくりとだが左肩から順に腕、指が思った通りに動いた。

「……動いた……」

「ふむ、初期動作は問題ないようだな、じゃあ次の段階に移るとしよう」

 そう言ってテオは白衣の懐から銃を取り出した。

「おい、いったい何をするつもりだ?」

「こうするんだよ」

 テオは俺の疑問に答えず、銃をこちらに向け発砲した。その直後まるで世界がスローモーションになったかのように目に映る物が減速した。テオが撃った弾はどうやら本物ではなく玩具の弾だったようだ、それがはっきりと見えた。そして俺は弾が頭に到達する前に左手で弾をごく自然な動作で受け止める、まるで生身の頃よりも早く俺の体は動いていた。

「なんだ……今のは?」

「どうやら両方ともちゃんと稼働しているようだな」

 俺が驚きと困惑しているなか、テオはこの結果が当然のように話始めた。

「今、君の動体視力は希少な神話獣、メテオイーグルの目をベースにしたバロールによって生身の数倍以上の力を手に入れた、慣れればさらに上がるだろう。それだけじゃない今の君は闇の中を平然と見渡し、魔力の可視化に熱感知、様々な目を同時に手に入れた」

「……」

 俺はあまりの事に言葉を失う。底辺だった俺がこんな強力な力を手に入れるなんて思いもしなかった。

「浮かれるのは早いぞ、次はアイギスの力を試してみようか」

 そう言ってテオは先ほどとは違う銃を取り出し発砲、バロールで見えた弾は本物の金属弾で咄嗟に俺は左手で体を庇う、すると手の甲が一部変形し内部パーツが露出したと思ったら、巨大な魔力で出来た漆黒の盾が出現する。盾は金属弾を簡単にはじき落とすと消えてしまった。

「今のは?」

「今のはアイギスの盾、ゴライアスタートルの体組織を使用したものだ、私の理論ではAクラス魔術すら防ぐ盾だ。弱点があるとすれば現段階では五秒ほどしか使えないのと一度使うと一日は使用不可になる点だな」

「凄いじゃないか!」

 俺は思わず叫んでいた。

「当たり前だろ、私は天才だからな」

 テオもこの結果に満足のようだ。

「そうだ、どれ位魔力が上がったか試してみよう」

 そう言うとテオは水晶玉のような物を持ってきた、あれは忘れもしない、何度も試した事のある魔力測定装置だ。

「そ、それを使うのか?」

「なんだ魔力値が変わっていないかもしれないと怯えているのか?」

「あ、当たり前だろ! それは俺のトラウマなんだから!」

 俺は声を荒らげる。

頭の中では俺を嘲笑する周囲の姿が浮かんでいた。それだけで身体中から冷や汗が出て呼吸が荒くなる。

「まあ、物は試しだやってみろ」

「ちょっと! 待てってば!」

 俺はテオに無理矢理、測定装置に触らせられる。すると水晶の中にCの文字が浮かび上がった。

「Cランク!? 何かの間違いじゃないのか!?」

「装置は壊れていない、正常だよ」

「本当に魔力量が上がった……」

「当たり前だ、今回使った神話獣の素材はどれもBランク以上の物だ、これくらい上がってもらわないと話にならないぞ」

「そうか本当に……」

 俺は感動に打ち震えていた。何年もEランクだったのにこんな短時間でいきなりCランク! 今までの苦労がようやく報われた気がした。 

「それで! これからどうするんだ?」

 俺はこれだけの力を手に入れたのだから周囲を見返す為、早く実践で使いと思っていた。

「まあ、落ち着け、今後の予定だが約一ヶ月後にある学年トーナメント戦に向けてトレーニングを行おうと思う」

 そういえば二年生になってから初めての学年トーナメント戦が一ヶ月後にある事をすっかり忘れていた。

「それまでマキナについては極力秘密にして欲しい」

「なんでだ? こんな素晴らしい物を見せないなんてもったいない!」

「浮かれすぎだぞハガネ、どんなに素晴らしい物でも実力が伴わなければ、ただのガラクタだ。実際、ヨーロッパではそうだった」

 テオは苦虫を噛み潰したような顔で語った。俺がイジメにあったようにテオもその実力を認められず苦悩したのだろう、テオの顔はそれがわかるほどはっきりと物語っていた。

「それと学園の授業と学生寮には行くな」

「おい、それじゃあ俺はどこで暮らせばいいんだ?」

 周囲にこの力を秘密にするのはわかったが、そこまで徹底する必要があるのか疑問に思っているとテオはトンでもない事を言い出した。

「この工房で暮らせばいい、私もそうしているからな」

「なっ、テオは一つ屋根の下に男女が暮らして平気なのか!?」

「安心しろ、私に何かあったらお前を殺すだけだ」

「安心できねえ」

「それじゃあ、一ヶ月間よろしく頼むなハガネ!」

 テオは俺の言葉を無視して手を差し出してくる、それを俺は反射的に握り返す。

「仕方ない、よろしく頼むよテオ」

 こうして学年トーナメント戦に向けて厳しい特訓の日々が幕を開けた。



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