遅れてきた春
またまた思いつき短編
小学校の頃から、男女と呼ばれてきた。
それは、女子高生になっても変わらない。
「おっす、また女装して登校かよ」
真新しい夏服の私に、心ない声が刺さる。
うるさいな、哲也のやつ。
ずっと私をからかって。
私、覚えてるんだからね。
あんたが弱虫で泣き虫だったこと。
それなのに。
「哲也くんおはよう!」
「哲也くん、お早うございます」
「おっす美里、環奈。今日も美人だな」
こんなに人気者になるなんて。
昔は、ただのサッカー好きなチビだったのに。
というか、哲也は覚えているのだろうか。
私にも歌音という名前があることを。
覚えているなら、たまには呼んでくれればいいのに。
哲也がモテ始めたのは、中学でサッカー部に入ってからだ。
その頃から身長も伸びて、高校二年の今では私よりも頭ひとつ大きい。
成績も良くて、顔は童顔でかわいい。
まあ、モテるか。
ちなみに私には、浮いた話など一個も無かった。
「はあ、私の春は何処から来るのやら……」
春どころか、もうすぐ夏休みなのに。
「哲也くん、インハイ頑張ってね」
「おう、任せとけ。今年こそ全国に行ってやるよ」
「頑張ってね!」
「絶対応援に行くよっ」
あーあ、鼻の下伸ばしちゃって。
まあ仕方ないか。
美里も環奈も、私と正反対の美少女だし。
でも、やっぱりイラつく。
頬杖をついた瞬間、スマートフォンが震えた。
「誰だろ……あっ」
哲也からだ。
そのメッセージを読んで、私の体温は急上昇した。
──絶対全国連れて行くからな。待ってろよ。
あとスカート。ちょっと短すぎるぞ──
私が男女とお別れする日は、そう遠くないのかもしれない。