明日世界が終わるなら
「明日世界が滅ぶとするならどうやって過ごす?」
前回、藍川さんに『夢を見つけたら教えてくれ』という言葉に感化されたからなのか、僕は自分の夢について少し考えてみることにした。
僕のやりたいことは何だろうか?
僕が好きでい続けられるものは何だろうか?
僕が生涯の内にやり遂げたいこととは何だろうか?
とりあえず、そんな漠然とした質問を自分に問いかけてみたのだが、当然答えが出るわけではない。
まあ、この程度見つかるのだったら苦労はしない。
この程度の思考で見つかる程度のものなら、僕はとっくに自分の夢のために行動していだろう。
少し思考を切り替える必要があった。
何が僕の夢か。
そういった類の問いかけでは到底見つかりそうないことはもう分かっていた。それは確信にも近かった。
なので、何が僕の夢かを考えるのではなく、どうすれば僕の夢が見つかるかを考えてみることにした。
結果ではなく方法を。
WhatではなくHowを。
考える。
その過程で思いついたのが、先程の質問である。
明日世界が滅ぶなら読者諸兄ならばどうやって過ごすか、どのように行動するのか、是非とも教えていただきたい。
なぜならその行動こそが、その人にとって最も大切なことに違いないからだ。
そしてその行動の先にあることこそ夢であると思ったからだ。
僕はいつものように、いつものメンバーにこの質問を投げかける。
「明日世界が滅ぶとするならどうやって過ごす?」
佐藤くんは
「愛する人と共に過ごしたいけど、相手がいない」
と言った。
田中くんは
「何だかんやでゲームとかやってそう」
と言った。
鈴木くんは
「少なくとも僕は世界が終わるなんて信じないだろうね」
と言った。
郷田くんは
「俺は最後まで俺らしくある」
と言った。
荒巻さんは
「とりあえず今まで食べたことないような美味しいものでも食べるのかな」
と言った。
神原さんは
「うーん、大好きな人と一緒にいたいかな。両親に兄弟、それから友達、あとはポチ子」
と言った。
斉木くんは
「僕は最後まで絵を描いていたい」
と言った。
富田くんは
「とりあえず童貞は捨てておかないと」
と言った。
余計なことは言った。
そして、藍川さんは
「明日世界が滅ぶなら、私は今日世界を救う」
と。
あらやだかっこいい。
惚れてしまいそう。
と言いたいところではあるが、その解答は反則ではないか?もちろん、カッコ良すぎるという意味も反則だし、前提を無視しているという意味でも普通に反則だ。
「うるせえな。そう言うお前の解答は何なんだよ」
それを言われて、僕は言い淀む。
何も答えることができない。
聞かれたくないことを聞かれた感じになる。
「自分で解答を用意していないのに、質問だけはするって、それこそ反則なんじゃないのか?」
まあ、確かにその通りではある。
その通りではあるのだが……。
僕は何も言わない代わりに、まるで言い訳するかのように、今回質問をした意図について、夢を見つけるためという意図について、藍川さんに説明した。すると藍川さんは、何だそれ、と大声をを上げて笑う。一体全体何がそんなおかしいのかを聞いてみると、
「ひねくれているお前が素直に夢を探していることがおかしいし、その夢の探し方っていうのはやっぱりお前らしくてひねくれている」
それは文面だけで捉えると、何だか馬鹿にされているようでもあったけど、全然そのような感じはしなかった。それは藍川さんは僕の味方という安心感があったからだと思う。
「しかし、そんなに焦って夢を探す必要はないぜ。その質問はお前が大切とする価値観については教えてくれるが、夢については教えてくれない。明日世界が滅ぶとして、だからって今日一日頑張っても夢なんて叶わないだろ?一日で叶えられるものなら夢だって言えないだろ?だから質問その質問だけで夢を決める必要なんてないさ。もっとたくさん世界を知って、もっとたくさん疑問をもって、もっとたくさん質問をして、それから夢を決めればいいのさ」
そして彼女はこんなセリフで最後を締めてくれた。
「安心しろよ。お前が夢を見つけるまでは、私が世界を守ってやるよ」
あらやだかっこいい。
惚れてしまいそう。
まあ、とっくに惚れてはいるんだけど。