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一枚上手な藍川さん  作者: アカイノ
7/14

普通の芸術家

 一番イメージがつくとしたらやっぱり画家になるのだろうか?

 それとも現代的にはイラストレータの方が主流なのかもしれない。

 その延長には絵を動かすアニメーター。

 それをまとめる監督。

 そもそも何を作るか提案するディレクター。

 ここまで来てしまうと正直それとは思わなくなってしまうかもしれない。


 ならイメージを戻して、やはり画家か?

 それこそダウィンチやゴッホ、ムンクにピカソ。誰でも知っているところそんなものだろうか?まあ、僕が知っているのもそんなものなのだけど。


 とりあえず、僕が言いたいのは芸術家という人種についてだ。身近に芸術家がいるという人がいたら是非とも共有させて欲しい。彼らがどのような人たちなのか。


 俗に思われるのは、やはり異端だということだ。非常識とか、変人とか、奇人とか、言い方は色々あるのだろうけれど、言いたいことは大体同じだろう。


 先日のことだ。僕の姉が就職した。

 姉は芸術家だった。

 正確に言うとその見習い。

 現代的にいうなら、そういった大学の学生だったのだけど。


 つまりは異端であった。

 僕の姉は異端であった。

 右に行けと言われたら左にいくし。

 左に行けと言われたら今度は上に行ってしまいそうな。

 そんな姉であった。

 

 その姉が普通に就職した。

 普通の会社に、普通に良い会社に、普通に就職した。


 それが思いのほか僕にはショックであった。

 

 変人の姉が普通に就職。

 それは姉が異端でなくなってしまったようで。

 姉が普通になってしまったようで。

 姉が姉でなくなったような気がして。

 それが何となく悲しかった。

 

 母は姉の就職を心の底から喜んでいたけれど、僕は表面的にしか祝えなかった。


 もちろん、姉には姉のストーリーがあって、それは僕が語ることでは決してないが、しかしその過程で何かを諦めたのだと思う。

 芸術家であることを、芸術家であるために必要な何かを諦めたのだと思う。


 姉が諦めたものは何なのか?

 実の姉とは言え、それを直接聞くことは憚られた。

 なので僕はこんな質問をしてみることにした。


「芸術家はどうあるべきか?」


 きっとこの質問の解答の中に、姉が諦めたものが存在する。そう思った。



佐藤くんは

「そりゃあ、芸術家なんだから異端であるべきだろ」

と言った。


田中くんも

「やっぱり、常識はずれなことをしなくちゃいけないんじゃない?」

と言った。


鈴木くんは

「少なくとも僕は芸術家じゃないね」

と言った。


郷田君は

「俺のようなスター性が必要だ」

と言った。


荒巻さんは

「変人のことはわからない」

と言った。


 神原さんは

「うーん、たくさん努力する必要はあるんじゃない?」

 と言った。


 斉木くんは

「何を持って芸術家と呼ぶかによる」

 と言った。


 富田君は

「それより今週のジャンプみた?」

 と言った。


 そして、藍川さんは

「芸術家こそ普通であるべきだ」

 と。


 それは非常識なことをする芸術家に対してお願いだからまともになってくれ、といった類のことを言っているのだと初めは思った。

 しかし、そうではなく、藍川さんは


「芸術家は芸術家ってだけで異端さ。しかしそれはあくまで世間一般に対しての異端だ。芸術家の中では寧ろ普通。芸術家の中で異端になるんだったら、異端であってはいけない」

 だからこそ、普通であれ。普通の芸術家であれ。

 藍川さんはそう言った。


 これは以前話した天才とは何なのかということに話は近いのかもしれない。


 その時は、天才とは周りと違うが故に否定される存在であると藍川さんは言っていた。ならば今現在、僕に良く思われていない姉はある意味では正しいのかもしれない。

 

 姉は普通に就職した。

 普通に良い会社に就職した。

 しかしそれは何かを諦めたのではなく。

 芸術家であることを諦めたのではなく。

 寧ろその逆で。

 芸術家であるために。

 異端であるために。

 普通になることを選んだ。

 普通であることを選んだ。


 右に行けと言われたら左にいく。

 左に行けと言われたら今度は上行く。

 そして時には下に行くことも厭わない。

 普通に落ちることも厭わない。


 そう思うと、姉はやっぱり姉であった。

 姉は姉のままであることに気づけて、なんだか嬉しかった。


「それにしても普通の芸術家って、自分で言っておいてなんだが、ずいぶん変な言葉だな。小さな巨人とか、定番の期間限定商品とか、そんな類の言葉言っている気分だ」


 確かにその通りだと思った。

 そして、それであるが故に、異端で、特別なのだろうと、僕は思った。

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