否定される天才
それは例えば、とある競技のスポーツ選手でもよい。
それは例えば、一分野における学者でもよい。
それは例えば、どこぞの国における政治家でもよい。
料理人でもよい。
占い師でもよい。
エンジニアでもよい。
役者でもよい。
動画配信者でもよい。
教育者でもよい。
起業家でもよい。
投資家でもよい。
医者でもよい。
画家でもよい。
何かの監督でもよい。
それこそ小説家でもよい。
どのようなところにいようと、どのような業界にいようと、天才と呼ばれる人間は存在する。
彼らはなぜ天才と呼ばれるのだろうか?そもそも天才とはどのような存在のことを指すのか。
ふと、疑問に思いなんとなく調べてみることにした。
とりあえず言葉の意味から検索してみる。
「生まれつき備わっている、並み外れてすぐれた才能」とgoo辞書には書いてある。
まあ、あらかたその通りなのだろうとは思うが、こんなことが知りたいわけではもちろんない。
とりあえず、本か何か、もう少しましな媒体で調べたいところであるが、そのような手間暇かけてまで解消したい疑問でもない。
なので周囲の人たちにとりあえず意見を聞くというのが僕の選んだ妥協点であった。
「天才ってどんな人のこと?」
佐藤君は
「そりゃあもちろん、勉強しなくてもテストの点数が良い奴のことだろ」
と言った。
田中君は
「すごく頭のいい人」
と言った。
鈴木君は
「少なくとも僕は天才ではないね」
と言った。
郷田君は
「俺こそが天才だ」
と言った
荒巻さんは
「そんな漠然としたこと聞かれても分からないわよ」
と言った。
神原さんは
「うーん、正直私には難しい質問だな」
と言った。
富田君は
「それより今日の昼飯どこで食う?」
と言った。
そして、藍川さんはこう言った。
「否定されている人」
と。
その理由について聞いてみると、彼女はこのように答えてくれた。
「天才ってのは常識を覆す人のことだろ?そしてそのような人に対して、すべての結果が出た後の大衆が理解者気取りで称賛を送るときに天才という言葉を使う。逆に言うと、結果が出る前は常識外なことをするもんだから大衆には否定されるもんさ」
なるほど。確かにその通りだ。
僕は納得した。僕は納得してしまった。
どうやら今回も僕の負けらしい。
「といっても、否定されている人だからといって天才とは限らないけどな」
と皮肉気に彼女は付け足した。
天才。
一度でよいから自分もそんな風に呼ばれてみたいものである。しかし、仮に呼ばれたいとするならば、少なくとも否定されるようなことしないといけないのか。
そうは思うものの、そうと分かりはしたものの、まあ、だからといって、他人から否定されるのはごめんこうむるが………。