オーガナイザー
「いい加減説明してくれないか?」
疲れた顔で苗に説明を求める涼。
「そうだね、後はララちゃんを待つだけだし……けど、何処から話したらいいかな?」
あれから、タクシーで最寄りの駅に行き何駅か跨ぎ、さらにタクシーを使い何駅かもどり電車を使う。
そして途中で衣服や食料品を買い、1時間程で行ける場所に4時間程かけて、要約、楽との合流地点である工場跡地にたどり着く。
「何処からって……あの物騒な物もって追っかけて来た奴とか、何で俺達が追われなきゃならないのかとか、とりあえずその辺りの事を教えてほしいかな」
「まず彼等は……多分だけど『オーガナイザー』多分って言うのは、正確にはララちゃんが戻って来るまでは確定出来ないからってだけで、99%そうだと思う」
「は!? オーガナイザー!? オーガナイザーって秘密結社の? 瀬名まで楽に毒されたのかよ!?」
「そう言いたい気持ちは分かるけど、涼君も見たよね? あの物騒な物は銃だよ……本物の。それに涼君は私がこんな嘘を吐くと思う?」
「いや……お……もわない……けど、ち、ちょっと待ってくれ」
涼は、深呼吸をし、少し考えた後口を開いた。
「はぁ、分かった。いや、分からないけどとりあえず話を前に進めよう」
「うん、ありがとう。涼君の二つ目の質問だけど、結論から言うと追われてる理由は分からないの」
「はぁ!?」
「追われてるのはララちゃんで、私達じゃあ無いから、でも、私達も顔を見られちゃったから殺される対象には入ったと思う」
「殺されるって……そんな簡単に……理由も分からないんだろ?」
「分からないよ。分からないけどララちゃんから、いずれこうなる事は聞いてたから……私も聞いたのは4年くらい前だけど、覚悟はしていたしね!」
「覚悟って……理由も分からないのにか? え……4年前って……楽の父親が通り魔に襲われて亡くなったっていう年じゃないのか?」
楽の父親は楽が中学1年の最後の月に通り魔に合い殺されていた。涼は高校1年の時に楽と苗に出会ったが、その事は2人からも聞いていた。
「うん……私はその時にララちゃんから聞いたんだ、ララちゃんのお父さんを殺したのはオーガナイザーの人間だって」
苗は少し俯きながら話しを続ける。
「ララちゃんは、お父さんが殺される前にお父さんに会ってるみたいなの。その時の話しは詳しくは教えてくれないけど、その時にララちゃんのお父さんが「俺は今日オーガナイザーに殺される」って言ったらしいの……そして言った通りララちゃんのお父さんは殺された」
「いや、でも通り魔の犯人は捕まったじゃないか!」
「大きな組織なら代わりなんていくらでも用意出来るよ」
「そんな……でもそれで何で楽も狙われなきゃならないんだよ!?」
「理由は私にも教えてくれない……けど、ララちゃんはその時言ったの、6年以内に自分も必ず狙われるって」
「俺はまだ正直半信半疑だけど、仮にその話が本当だったとして、その時が来た時、子供2人でどうするつもりだったんだよ!?」
「涼君? ララちゃんの近くにいて分からなかった? ララちゃんは天才だよ」
涼から見れば紛れもなく苗は天才であった。その天才が一抹の疑いも無い目で雲母楽という男を天才と言った。
天才に天才と言わせる……雲母楽とはそんな男だっただろうか? 涼は楽と出会ってから今に至るまでを思い返す。
クラスメートの印象は変人、涼の目から見ても変わった男だった。何かを始めれば飽きたと言ってすぐ放り投げる、体育の授業など体を動かすような事は面倒だと言いながら、サバゲーなどの大会に出て優勝して帰ってくるのだから、能力値は間違いなく高いのだろう。
しかし瀬名苗という人間に天才と言わせる程なのか? 涼の目から見た楽はそう写っていなかった。
これ以上の思考は無駄だと判断し、涼は質問を続ける事にした。
「俺には分からなかったけど……でも、いくら瀬名と楽だって、相手は都市伝説レベルの巨大組織なんだろ? 2人でどうにかなるのかよ?」
「うーん、2人じゃあ難しいかな」
「じゃあどうするつもりなんだよ? あ、そういえば警察! 山口の家で呼んだんだよな? てか何で山口の家から出たんだよ!?」
「警察は呼んでないよ。と言うかオーガナイザーが相手なら警察なんて呼んだら、私達はその時点でアウト……殺されちゃうんじゃないかな?」
「え? じゃあ俺の携帯は何に使ったんだ?」
「涼君の携帯も私の携帯も沙也加ちゃんの家のトイレに置いてきたよ!」
「置いて来たって何で!? って……瀬名、携帯落としたんじゃ?」
「嘘吐いてごめんね! けど恐らくGPSで居場所バレちゃうから、撹乱もさせたかったし、何処かに置いて来なきゃって思って」
「瀬名……でも山口の家に携帯なんて置いていったら……山口だって危険なんじゃないのか?」
「え? それは大丈夫なんじゃないかな? 調べれば沙也加ちゃんが私達とは無関係な事くらい組織には分かると思うし」
「けどさ……もし組織が念の為に殺すって判断したらどうするんだよ?」
「その時は……私の考えが間違ってたって認めるしかないね」
――――――――――――
話は4日前に遡る。
夜、暗い部屋にて携帯で通話中の男の姿があった。
「ああ、そうだ……4日後に先日決まった作戦を開始する……失敗は許されない。お前達は先日渡したファイルに記載された周辺の地理と行動パターンを完璧に把握しろ」
その男は部下と思しき相手に指示を出している。
「そうだ……恐らく当日は雲母楽の他に瀬名苗、片山涼というクラスメートがいるはずだが……雲母楽以外は脅しの為に殺してしまっても構わない」
そしてその男は立ち上がり、部屋のカーテンを開ける。
「ただ作戦の内容はあくまでも雲母楽を泳がせる事だ。その2人の殺害は絶対命令では無い……ああ、では、4日後だ」
通話を終了し、窓を開けコーヒーカップを口に運ぶ片山涼の姿が月明かり映し出された。