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芸術とは実人生から見たら何でもないーーこの真理からどんな結論が生まれるだろうか。例えば、今の作家志望はみな作家になる為に、賞を取る為に小説を書いている。だからもし彼らからあらゆる賞、文芸誌、デビューの可能性などを奪い取ってしまったら、彼らの大半は書くのをやめるだろう。
また、そうした彼らがもし、ある局面において、自分の信念や方法論(そんなものを持っている人間自体が稀だが)を曲げる事を編集者や出版社に要請されたらどうするだろうか。このままでは作家としては続かない、もっと通俗的な作品を書いてくれ、と言われたらどうするだろうか。もちろん、彼らは作家になる為に書いているわけだから、目的から逆算して手段を変更するだろう。芸術とは実人生から見たら屁のようなものであるーーつまり、彼らは大切な実人生の方を芸術より優先させたという事で、常識的な判断とも言える。
これに関しては、私が知っているプロデビューした作家二人において、実際に確かめている事でもある。私はその内情は知らないが、二人が最近出した作品名・その内容から推して、彼らがアマチュア時代とは違って、世の中に迎合した作品を作るようになったというのは想定できる事だ。
芸術が現実に奉仕するものであるべきだ、という運動は繰り返し行われてきたし、現在でも行われている。色々な言葉が発明され、色々なイデオロギーが、色々な救済が配布されているが、私はキリストの言葉「人はパンのみにて生きるにあらず」という一言に既に色々なものが入っているように思う。我々はパンによって生きているが、それとは違うものも生の中にある。この、肉と霊との鋭い相克が優れたキリスト教芸術を生んだように思うが、それは「現在」という世界の中に耽溺している我々にとってはあまりにも厳しすぎる論理であるように思われる。