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「おおおおっ!!」
紅の大咆哮。
黒楽器が恐ろしい速さで振り回され、ものすごい勢いで刃八へと叩き込まれる。
刃八の身体の刃が、次々と折り飛ばされていく。
瞬く間に全ての刃が砕け散った。
「あがぁ!!」
空中で、むき出しの魔具足を晒す刃八の顔が、ついに怯えを宿した。
紅の右手が黒楽器を左から右へと、疾風の素早さで振り抜く。
黒楽器が刃八の顔面を直撃する。
「ほあちゃーーーーっ!!」
紅の気合いと共に刃八の首が折れ、ぐるりと背中側に向いた。
刃八の死体が紅の足元に、どうっと倒れる。
紅が黒楽器を口に当てた。
「あばよ、悪党」
声が反響した。
「あそこです! あの人を指してます!」
奏が驚きの声をあげた。
周りに岩場を望む山道。
すでに、陽はすっかり落ちていた。
月明かりの下、「血の華」を探すため、「赤い石」を確かめたところである。
ターシャと奏の居る方へと、山道を降りてくる一人の女。
赤い石は、まごうことなく、その女に対して激しく反応している。
「あ!」
ターシャが思わず声を出す。
奏の言葉を確かめるまでもなく、女の浅葱色の帯の上に真っ赤な大輪の華が挿してあるのが、はっきりと見えたからだ。
女が、しずしずと近寄ってくる。




