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すぐに円月へ視線を戻す。
「おっさん」
少年が言った。
円月は一瞬、それが自分に対しての言葉と分からず、しばし、ぽかんとしていた。
が。
「何だ!! 消えろ、小僧!! 斬り殺されたいか!!」
円月が吼えた。
何やら、先ほどまでの余裕は無くなっていた。
「女の子を斬ろうなんて、趣味が悪いぜ。それより、俺と勝負してくれよ」
少年の声は歳相応ではあったが、恐ろしく落ち着いて、なおかつ、すごみがあった。
円月は少年の異常なまでの闘気、そう、それこそ巨大な猛獣の如き迫力に押されっぱなしであったが、ここでゆっくりと首を横に振った。
円月も魔武士であり、一人の剣士である。
おそらくは自分たちと同じく「未来」から来た(時代はもっと先か、あるいは別の時間軸からか)ターシャを今、倒したばかりではないか。
こんな時代の小僧一人を、何を恐れることがあろうや。
魔具足の守りはもちろん、剣技においても遅れを取るとは思えない。
「来い、小僧!! この円月様が刀の錆にしてくれる!!」
円月は怒鳴り、少年の前で八相に構えた。
少年は、にやりと笑った。
笑顔ではあるが、気迫のあまり凄絶さもたたえた、その表情に、助けられたターシャと奏の二人でさえ、思わず息を飲んだ。




