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「どちらが死ぬ死なぬと、片腹痛い!!」
笑いすぎ、円月の双眸には涙さえ浮かんでいた。
「おのれら、二人とも、さして時を経ずして斬られる運命よ! 何を順番で揉めることがあろうや!!」
円月が笑ったために解けていた構えを再び戻した。
八相の構え。
「人生の最後に、この円月様を笑わせたるをあの世での土産話にするが良い」
円月の刀が月明かりを反射し、きらめいた。
「死ね、女ども!!」
刹那。
まるで暴風の如き殺気が円月へと、ぶつかった。
これには完全に勝利を確信していた円月も泡を食って、背後を振り返る。
ターシャと奏を笑っているうちに、一人の男が背後へ近づくのに気づかなかったのだ。
「な、な、何だ、貴様!!」
穏やかならざる心中を見透かされてなるものかと、円月が大声で誰何した。
が、その動揺は、なかなか隠せない。
近づいてくる男の足が止まった。
あり得ぬほどの闘気を身にまとった男、否、少年であった。
歳は十六、七か。
くせのある黒の短髪。
鋭すぎる眼光は、しかし、左の隻眼のみ。
右眼には刀の鍔を眼帯代わりに当てている。
山袴を穿いた剣士姿。
左右の腰に長刀を一刀ずつ携えている。
少年の左眼がちらりと、地に伏したターシャと奏へ向けられた。




