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「何? かまってもらえなくて寂しい?」
「いえ、別に」
「素直じゃないねぇ」
冥が武丸から身体を離した。
「で、どうすんだい?」
武丸の視線が紅へと向いた。
「少し話してみようと思います」
「あれ?」
冥が口を尖らせた。
「こういう女がタイプなの?」
「タイプとは?」
「しらばっくれんじゃないよ。お前も最近は別の時間や世界に行って勉強してるだろ? この前もロックバンドを観に行ったの知ってるんだよ」
「まさか…見張っておられるのですか?」
武丸が眉間に、しわを寄せた。
「そうだよ。ずっと見張ってる」
冥が、けらけらと笑った。
「だから、これからあたしは居なくなるけど、絶対に浮気するんじゃないよ」
冥が武丸の頬に、さっと口づけした。
武丸の青白い肌に真っ赤な口紅がつく。
武丸が赤くなった。
着物の袖口で顔を拭く。
「じゃあ、またね」
そう言った冥の姿が突然、かき消える。
武丸の視線が、再び紅に戻った。




