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背が高く痩せているが、出るべきところは出た扇情的な肢体を漆黒の闇と同系色の着物に包んでいた。
女は紅に、ただの一瞥もくれず、少年剣士の横に身体をぴたりと寄せた。
美しく艶やかな黒髪を両手で、たくしあげ、その後、解き放つ。
紅は、えもいわれぬ華のような良い匂いを感じた。
女の身体と髪から匂い立つ香りであった。
女は二度、三度と髪を上げては両手を離す。
その度に、長い髪が少年剣士の顔に当たる。
女が四度目に髪を上げたところで、少年剣士が堪らず声をかけた。
「髪型」
少年剣士の声は、かわいらしいが大人のように落ち着いていた。
「変えられたのですね、冥様」
冥が、にやーっと笑った。
あまりにも、その顔が色香に溢れ、なおかつ楽しそうだったので、紅は息を飲んだ。
これほどの存在感を持つ者は、初めて見る。
「遅い」
冥が言った。
「見れば分かるんだから、すぐに言え」
少年剣士が、ぺこりと頭を下げる。