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紅は自分に対して恩義も尊敬も持ち合わせている。
当然だ。
紅が十四の頃から、学者としての姿を見せてきたのだから。
その考えが頭をよぎったための、裸の紅に着物をかける行動だったのだが。
本当の気持ちに嘘をついた正雪の欺瞞を紅は見抜き、粉々に打ち砕いた。
もっと単純だと。
あたしはお前が好きだ!!
お前はどうなんだ!?
これのみであった。
正雪は眼が覚めた。
紅への愛を認めた。
正雪が、やおら紅を抱きしめ、激しく口づけた。
その夜、二人は結ばれた。
この夜こそが、紅の中で、もっとも幸せな時となった。
この三日後の深夜、正雪の屋敷は大勢の魔雑兵たちによって、あっという間に占拠された。
無数の刀を突きつけられ、床に座らされた正雪と紅の前に、一人の魔武士が現れた。
軽装の魔具足を着けた老人である。
兜はなく、右手に「魔」と書かれた軍配を持っている。
背中も曲がっておらず、なかなかの偉丈夫であった。




