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「ここに訊いてみろ!! 先生…いや、正雪!! お前が一人の男として、あたしをどう思ってんのか、自分のここに訊いてみろっつってんだよ!!」
正雪は、その言葉に胸をぐさりと刺された思いがした。
最初はもちろん、紅をどうこうしようなどという気持ちで助けたのではない。
一人の道を踏み外した少女を救い、真っ当な世界に戻してやりたい。
教育者としての純粋な動機からであった。
しかし、ひとつ屋根の下、日々の生活を続けるうちに、いつしか家族としての想いが男女の愛へと変わっていくのが分かった。
それでも正雪は己を律した。
こんなことをしてはならない。
自分が迫れば、紅は拒めないのではないか?
正雪を拒否すれば住む家を無くすと思う可能性もある。
これは、半ば脅すようなものではないか?
それゆえに正雪は、紅に親として接した。
しかし、紅が正雪への想いを告げた今ならば?
否、やはりそれも卑怯に感じたのだ。




