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正雪も四十を越え、幼き頃から面倒を見てきたゆえか、紅にあたかも父親のように接した。
これに対して出逢ってしばらくしてから感謝と尊敬の念とは別に、紅の心中で、まるで滴る油の如く溜め続けられていた思慕の気持ちが「何故、あたしを娘として扱うのか?」という怒りによって、一気に火をつけられ、地獄の業火のように大爆発を起こしたのであった。
ある夜、正雪の寝所へ紅は突撃した。
慌てて灯りを灯そうとする正雪の手を、がっしと掴む。
そして、その場で着物を脱ぎ、あっという間に一糸まとわぬ姿となった。
食い入るように正雪をにらみつける。
正雪は、その双眸に紅の激しい愛を見た。
鉄の理性が正雪を抑えた。
紅の着物を拾い、美しい裸体へと、そっとかける。
「紅、私とお前は」
そこまで言った正雪の左頬を紅の右手のひらが、痛烈に打った。
正雪の眼鏡が、ずれる。
「頭で四の五の考えんじゃねえ!!」
紅が吼えた。
自らの胸を左手の親指で指した。




