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「『ネコノミコン』は、すさまじい魔力を秘めていて、他の世界を行き来する力を持つ。強大な神々を倒すことさえ可能らしい。私はいつか『ネコノミコン』を読んでみたいと思っているのだよ」
やはり紅には正雪が何を言っているのか、まったく分からなかった。
ただ、そういう話をするときに楽しそうに輝く瞳と、溢れんばかりの笑顔は大好きだった。
もっともっと正雪の話を聞きたいと思った。
正雪は、いつも理知的で落ち着いていたが、一度だけ大慌てしたことがあった。
紅の身体が大人のそれへと変化するときである。
何事にも博学なはずの正雪がこのときばかりは、まるでぴんとこず「怪我をしたのか!?」と大騒ぎとなった。
その後も、つまずき転倒するわ、おろおろとするわ、結局は自分の子供を正雪の塾で習わせる代わりに、たまに食事の世話などをしてくれていた女子衆が現れ、紅にいろいろと教え、万事を取り計らってくれたおかげで、何とか事なきを得た。
紅はあれほど慌てた正雪を見たのは、後にも先にも、この一度きりであった。
月日は流れた。
紅は二十四歳となった。
激しくも美しいその容姿は、すれ違う者たちをはっとさせるほどであった。




