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紅の両手の指が素早く動いた。
ドゥンドゥンドゥンドゥン。
黒楽器が低い音を奏でる。
紅の右手の指が、いっそう激しく弦を弾く。
ドゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
やおら、紅が重軒に向かって跳んだ。
空中で黒楽器を振り上げる。
重軒の頭上から襲いかかり、黒楽器を一気に振り下ろした。
その速さは、先ほどの黒楽器のときよりも遅い。
「ぶひっ!!」
重軒が太い両腕を顔を前で交差させ、楽々と受け止める。
やはり、重軒の魔具足には通用しない。
「ボクちゃんの番だぞぉ」
重軒が笑った。
次の瞬間。
未だに空中の紅が、黒楽器の弦を掻き鳴らした。
突如。
重軒の両腕に当たった黒楽器の圧力が、はね上がった。
「ぶひっ!?」
黒楽器のあまりの重さに、両腕の魔具足に亀裂が走る。
「な、何だ、ぶひっ!?」
瞬く間に魔具足が粉々に砕け散った。
続いて、重軒の両腕が折れる。
「ぎゃぶひっ!!」
黒楽器そのものが重いだけではない。
黒楽器の板状部分から発生する力場のようなものが、重軒の全身と輿、それを支える魔雑兵たちを恐ろしい圧力で押さえつけ始めた。
まるで透明な巨大な手のひらが、重軒たちを押し潰そうとしているようである。
腕を折られた重軒の兜が割れ、顔面の骨も歪んでいく。
「ぶぶぶひーーっ!!」
支える魔雑兵ごと、輿が押し潰された。




