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重軒が手を離したため、響は輿の上に落ち、勢いで転がった。
重軒の、あぐらをかいた脚にぶつかり、今度は輿の端まで弾き飛ばされる。
落ちそうになるのをぎりぎりのところで堪えた。
今や、ひとつの破城鎚の如くなった輿が紅へと激突する。
と、思われた瞬間。
紅が跳び上がり、重軒の輿に乗った。
目標を見失った魔雑兵たちが、慌てて足を止める。
徐々に輿の速度が緩まる。
紅は響の奥襟を掴むと、輿の外へと放り投げた。
響が地面に落ちる。
強かに身体を打ったが、全速のときに落ちるよりは、ましであった。
響は痛みをこらえ、その場から離れた。
振り返って、戦いの成り行きを見守る。
輿の上で、にらみ合う紅と重軒。
紅の黒楽器の刃が回転する。
大きく後ろへ振りかぶり、重軒の顔へと叩きつけた。
が。
重軒の兜が黒楽器の刃を受け止めた。
高速の刃が斬りつけるが、火花が散るのみで切断できない。
重軒の巨漢と剛力によって装着しうる、特別こしらえの分厚い魔具足は骸造の如く両断される憂き目を許さない。
「ぶひひっ!!」
重軒が笑った。
「どうした? それで終わりか?」
重軒の双眸が強い光を放った。
「ぶひ殺すっ!!」
重軒の両手が左右から、紅を虫のように叩き潰すべく、豪快な風切り音を立てて迫る。
ばあんっと打ち合わされた両手の間には。




