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(何だ!? 何だよ!? 魔祓いの道具なんて全然、役に立たないじゃないか! 何のために今まで俺は!)
男勝りの響は普段から自分のことを「俺」と言っていた。
魔祓いの道具への絶対の信頼が、響の心の中で、がらがらと音を立てて崩れた。
(俺は魔物に喰われて死ぬのか!?)
恐怖と悔しさ、化け物と魔祓いの道具の無意味さへの怒り、いろいろな感情が混ざり合い、響の頬を涙が濡らした。
「ぶひひっ。泣いてるのか? 涙もまた、良い味付けになるぞ」
重軒が大口を開けた。
刃物のように鋭い、ぎざぎざの歯が見える。
響は右腕の魔祓いの腕輪を外し、重軒に投げつけた。
(こんな物!!)
重軒の左手が腕輪を易々と、はね除ける。
「活きが良いな」
重軒が鼻を鳴らして笑った。
突然。
生暖かい強風が、その場の皆の顔を打った。
全員が瞳を閉じる。
風が収まり、皆が眼を開けた。
「ぶひっ!?」
重軒が驚く。
重軒と響が乗る輿。
それを支える十人の魔雑兵。
そして、さらにその周りを囲む十人の魔雑兵。
その外側に。
いつの間にか、一人の女が立っている。
すらりとした長身。
黒の着物に紫の帯。
太もも半ば程から外に出た美しい右脚。
骸造を斬殺した、紅であった。
「おい! まだ一人、残ってるじゃないか!!」
重軒が魔雑兵を怒鳴りつけた。




