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「ば、馬鹿」
紅が照れる。
「本当に君は美しい。愛してるよ」
「先生…」
紅の頬が朱に染まる。
うなじまで真っ赤だ。
(幸せだ)
紅は思った。
(でも…)
首を傾げた。
何かが引っかかる。
何かが、おかしい。
何かを忘れている気がする。
そのとき。
「…い」
微かな声が聞こえた。
「…ない」
徐々に声が大きくなる。
紅は周りを見回した。
「どうした、紅?」と正雪。
心配そうに紅を見つめた。
「…れない」
近い。
声が近づいてくる。
「紅!!」
はっきりと少年の声がした。
紅と正雪の眼前の何も無い空間から突如、一人の少年武士が出現した。
「紅!!」
少年武士が再び名を呼ぶ。
紅は少年武士の顔に見覚えがあった。
だが、はっきりと思い出せない。
「紅!!」
「誰!?」
「これで終わるつもりか!?」
少年武士は声を荒げた。
「魔武士を倒すための力をくれと言ったのを忘れたか!!」
「魔武士…」




