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その隣には、紅が立っていた。
こちらも鋭い視線を響の演奏に向けている。
「いいだろう」
紅が言った。
響が一旦、手を止める。
「基本は出来てきた。弩羅武の魔力のおかげもあるけどね」
紅の言葉に響が嬉しそうに頷く。
「紅さん、ありがとうございます」
「響」
紅が言った。
「そこまでして、魔武士と戦いたいのか?」
「はい。俺…」
響の顔が曇った。
「今まで造っていた魔祓いの道具が、魔武士たちに全く歯が立たないって分かったとき…」
「………」
「本当に悔しくて…死にたいくらい悔しくて」
「………」
「俺は世の中を乱す悪を倒そうと魔祓い師になったのに…奴らの悪行を止められなかった」
「………」
「その、どん底の俺を紅さんが救ってくれたんです。魔武士をやっつける紅さんは、俺の希望なんです!!」
「響…」
「俺も、少しでも紅さんの役に立ちたい!! だから、この楽器を使って…紅さんと、いっしょに戦いたい!!」
「………」
紅は心中、複雑であった。
正雪と共に魔武士に殺され絶望した自分に「超常の存在」とも言える武丸が、救いの手を差し伸べてくれた。
そして、今の自分が居る。
己、一人であれば、何も気にすることはない。
身体ひとつを張って、自らの限界まで魔武士と戦う。




