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我々の知る戦国とは違う戦国。
青々とした空。
天に輝く太陽。
春のぽかぽか陽気が辺りを包む。
水しぶきをあげる滝を見下ろせる位置、山肌沿いの平地に小屋が建っている。
小屋の入口のすぐそばには簡素な雨避けの屋根が建ち、その下に鍛治用の立派な炉があった。
一人の女が作業の最中である。
年齢は三十代か。
頭に複雑な模様を描いた白布を巻いている。
そのため、髪は見えない。
袖の無い鍛治師の作業着から覗く両腕は、なかなかに逞しかった。
女の名は操という。
幼き頃より京の魔祓い師の元で修業し、その技を磨いた。
二十代になると特別な力を持たない者でも、身につけることで効力を発揮する魔祓い道具作りへと己の道を定め、さらに技術を向上させた。
二十代の終わり、魔祓い師の組合による道具の種類指定や自由な価格をつけられないことへの疑問を感じ、その心情を師匠に吐露したところ、激昂され破門となった。