クリムゾン・ウルフ
突如、四方八方から攻撃を受けるQA・ザハロフ輸送艦隊。直ちに迎撃を行うが攻撃の数が多く混乱してしまう。
『索敵!何をやっている!』
『敵の待ち伏せです。このデブリの多さでは索敵は困難です』
『ええい、言い訳は要らん。各艦迎撃!輸送艦を守れ!』
『敵砲撃座標を特定。反撃開始』
『対ビーム撹乱粒子散布。傭兵共を至急出撃させろ。続けて護衛機発進急げ』
通信が飛び交いながらも迎撃を開始する護衛艦隊。そして俺達傭兵にも出撃命令が下される。
艦内はアラームで鳴り響き、アナウンスがAWパイロットに出撃を急かす。その言葉を聞きながらパイロットスーツに着替えヘルメットを被りながら、ネロを小脇に抱えて格納庫へ向かう。
「いちいち急かすなっての。グンマー星系とは言え、敵さんは所詮宙賊かそこら辺のゴロツキだ。但し、手練れは多いけど」
「敵は多方向から攻撃をしているとの事です」
「なら手練れの宙賊かもな。然も自分のテリトリーに入り込んだ奴を獲物にしてる奴」
「現在の宙域から推測しますと裏社会に属する存在が強襲を仕掛けてると考えます」
「例えマフィアだろうが関係ねぇ。どんな相手でも敵対するなら叩き潰す事に変わりは無いからな」
そして格納庫に到着する。俺は直ぐにバレットネイターに乗り込み、ネロを指定場所に接続して固定する。
「起動シーケンス開始。ネロ、システムチェックだ」
「システムチェック開始。メインシステム、ウェポンシステムオールグリーン」
今回武装はそのまま取り付けた状態になっている。流石に初っ端からQA・ザハロフから武器を借りると言うのは少々頂けないからな。それに武装は大体の事には対応出来る装備を持って来ている。
先ずは55ミリライフルとシールド付きパイルバンカー。右肩にはプラズマキャノン砲を搭載し、左肩にはショットカノンを搭載している。更に両肩側面部には追加ブースターを装着して機動力を上げている。後は近接用のプラズマサーベルを装着している。
敵勢力が未知数だが、この武装なら大抵の事は乗り切れるだろう。
因みに今回の一番のお気に入り武装はシールド付きパイルバンカーだ。このシールド付きパイルバンガーは敵からしたら厄介で、ホイホイ接近して来た敵を不意打ち気味に貫く事が出来るのが最大の特徴だ。
「起動シーケンス完了。此方ヴィラン1、出撃準備完了した」
そして各武装と機体の接続を確認してから通信を繋げる。
『了解しました。ではヴィラン1、出撃願います』
「ヴィラン1了解。さぁて、此処からはビジネスの時間だ。しっかり働きますかね」
唇をひと舐めしながら操縦レバーを握り直す。バレットネイターは誘導員の指示に従いながらカタパルトまで移動して所定位置に止まる。
機体がカタパルトに固定される。モニターの端には誘導員からの待機指示が出される。そしてゆっくりとカタパルトが解放される。
『カタパルト解放。進路クリア。ヴィラン1、発進どうぞ』
「シュウ・キサラギ少尉。ヴィラン1、バレットネイター出るぞ!」
『良い戦果を期待しています』
QA・ザハロフのオペレーターの言葉と同時に誘導員からのGOサインが出される。そしてカタパルトから射出され、ビームが飛び交う戦場へと羽ばたくバレットネイター。
「久々のグンマーだ。少しは手強い相手が来る事を願うぜ」
バレットネイターを輸送艦隊の前へ移動させる。恐らく左右から放たれてるビームは囮だろう。現に味方の艦隊は殆どが無傷で健在だ。
恐らく本命は前後からの挟撃だろう。グンマー星系らしく手堅く、確実に仕留めるやり方だろう。
そして逐一戦力投入なんて事はしない。来る時は確実に来る。その時が勝負になる。
『ヴィラン1聞こえるか?全く、中々加速のある機体に乗りやがって』
『本当よね。少し見ない間に変わり過ぎよ?』
後方からアーロン大尉専用機の【XBM-001ラプトル】とチュリー少尉の【FA-14フォーナイト】が接近して来る。
「羨ましいだろ。態々コクピット換装する必要が無いくらいにな」
『言ってろ。それで、ヴィラン1はこれからどうするんだ?左右の攻撃に対処するのか?』
「まさか!俺は正面の敵に対処するんだよ。左右の攻撃は艦隊に任せれば良い。何の為の護衛だよ」
『成る程ね。因みに私達のコードネームはダンスよ。私がダンス1、アーロンがダンス2て訳』
「ダンス?戦場で踊ろうってか?ジャンボ、ちゃんとダンスのリードしてやれよ。此処で漢気見せねぇでいつ見せるんだよ」
『うるせぇ!俺とチュリーは相性は完璧だから問題無いんだよ!後ジャンボ言うんじゃねえ!』
そして直ぐに敵が動き出す。レーダーに熱源を確認したのだ。
「前方十一時方向に反応を確認。機体識別【HuD-95シャーク】【F-86マッキヘッド】が編隊を組みながら接近して来ます。またAWの混戦部隊も確認。更に艦隊後方からも同様の戦力が接近して来ます」
「ビンゴ。攻撃機だがシャークは地味に硬いからな。55ミリライフル持って来て正解だったぜ」
ネロの報告と同時に本隊より後方にも同様の敵部隊が接近中との報告が来る。
『傭兵部隊は直ちに敵機を迎撃せよ。輸送艦には近寄らせるな』
「だったらこんなクソみたいな航路通るんじゃねぇよ。レーダーみたら結構暗礁が多いし。マジで嵌められたか?」
「不明です。しかし今は目の前の敵を撃破する事をお勧めします」
「そうだな。考え事は後からで充分だな。行くぜネロ!敵機を一機残らず撃墜するぞ!」
「はいマスター。全力でフォロー致します」
俺は操縦レバーを前に出しバレットネイターを加速させる。
『敵さん随分な数持って来てんな。こりゃあ一筋縄じゃあ行きそうにねえな』
「上手い話が無料で転がってる訳ねぇだろ。男なら気張れよ!勿論女もな」
『上等じゃない。私達がこの程度で嵌められると思った事を後悔させて上げる!』
「ダンス1、良い啖呵切ってんな。そう言うの嫌いじゃねえよ!」
そして遂に接敵する。最初はマッキヘッドによるミサイル攻撃が襲い掛かる。しかし誘導ミサイルは今のバレットネイターには効果は薄い。
「ジャミングプログラム起動」
「良いぜネロ。その調子で頼むぜ!」
55ミリライフルで反撃し先頭に居たマッキヘッドを撃破。そのまま互いに距離を詰めて行く。
【全機シャーク隊を守れ。敵の中に電子戦機が居る。警戒せよ】
【頼むぜ。こっちはデカいロケットを三発も腹に抱えてるんだ。一発被弾したら爆散しちまうからな】
【相手はまだ三機だけだ。先に此奴らを仕留めれるぞ】
【おい、あの機体バレットネイターだ!クソッ!こんな所に何でこんな奴が!】
【まさか【クリムゾン・ウルフ】だと⁉︎チィ、AW隊は優先してクリムゾン・ウルフを倒せ!弾薬は惜しむな!どうせ全部向こう持ちだ!】
そして敵AW部隊の多くが此方に接近して来る。勿論最初は俺からの先制プラズマキャノン砲が火を噴く。
「さっきから通信越しに何かクリムゾン何ちゃらかとか聞こえるんだが。まさか……俺の事なのか?」
「現在マスターは【クリムゾン・ウルフ】の二つ名が付けられてます。理由は惑星ソラリス攻防戦、マザーシップ戦でのオーレムを撃破する所が由来とされてます。オーレムを狩る姿が正しく獲物を追い掛けるウルフの様に見えたと」
「マジで?初耳なんだが。それに世間では全然話題にはなって無いと思うし」
「基本的に傭兵業界と一部の者達が言っているのみですので。マスターはマザーシップ戦後は暫く英気を養っていましたので。少し沈静化してますが、一部では既に定着しています」
まさかの二つ名をこんなグンマーな場所で知るとは思わなかった。
敵マドックにショットカノンで動きを止めて55ミリライフルで仕留める。その間に敵AW部隊との距離が縮まり乱戦状態になる。
「いやー、しかし中々良さげな二つ名じゃん。オーレム=クレジットの考えでやってたからな。変なの付かなくて本当に良かった。いや、本当に」
「マスターならどんな二つ名でも似合います」
「そう?でもマザーシップの名前を付けられなくてホッとしたぜ。もしマザーシップが現れたら絶対に呼ばれるし」
二機のサラガンが45ミリアサルトライフルで弾幕を張るが、55ミリライフルで頭部を破壊。一瞬止まった隙にプラズマキャノン砲で吹き飛ばす。
【駄目だ!止められない!シャーク隊は兎に角輸送艦隊に突撃して攻撃を!俺達が全滅する前にな!】
【仕方ない。俺達が足止めする。お前達はシャーク隊を護衛しながら行け!】
無論、簡単に護衛が出来る筈も無い。此処にはダンス1、2の強敵コンビが居る。
ダンス1は飛行モードで攻撃機シャークに襲い掛かる。護衛の戦闘機マッキヘッドが応戦するが攻撃は避けられる。更にダンス2の軽量機のラプトルは高い機動性と運動性を生かしながら、近距離で45ミリサブマシンガンを撃ちまくる。
『残念。簡単に行かせる訳無いでしょう?』
『全く、敵AWの大半がヴィラン1に行ってくれたから楽な仕事だぜ』
『早く攻撃機を片付けてヴィラン1の援護に向かうわよ。でないとAWの撃墜スコア取られちゃう』
『あの野郎にデカい顔されるのは勘弁願いたいしな。よぉし、一気に終わらせるか』
護衛機のサラガンが必死の応戦をするが、ダンス2のラプトルと交差した瞬間上半身と下半身が別れる。ダンス1、2はまるで二人で踊るかの様に敵機を撃破して行く。その連携は息がピッタリと言える動きだ。
「は!数だけ揃えた所で意味はッ……何?何故その装備をお前らの様な連中が持ってんだよ」
チュリー少尉とアーロン大尉が、敵攻撃機部隊に暴れている時だ。数機の敵マドックの装備が良過ぎる事に気付いた。
「ネロ!敵マドックの装備確認!」
「該当データを確認。マドックの近代化改修、及び強化パック一式になります」
「あの強化パックはまだ最新の部類だろうが。何でこんなチンケな奴等が持ってんだよ!」
敵マドックの強化パックは二ヶ月前程に発表された代物だ。主に機体全体への追加装甲。機動性向上させる為の各部スラスター強化。更にプラズマジェネレーターを新型の物へと換装をすると言う物だ。
この装備は価格は決して安くは無い。しかし、この強化パック一式によりマドックの性能は、三大国家の主力AWを超える性能を獲得する事になる。
つまり軍用機を凌駕するスペックを手に入れる事が出来る訳だ。だが先程も言った通り発売されたばかりの代物。お陰で現在も予約しても三ヶ月以上待たされる状態だ。そして価格も安くは無いし、最新の部類に入る。そもそも強化パックの販売を取り扱ってる企業はまだ多くは無い。
(いよいよキナ臭くなって来やがったぜ。全く、何が興味本位だよ。絶対何かあるパターンじゃん)
最悪を想定して護衛任務の放棄も視野に入れる。その場合は報酬は無し。寧ろ違約金を支払う事になるだろう。
だが命有っての物種って奴さ。
「何にせよ強化パック使った所で俺とネロが合わさったバレットネイターを越えられねぇよ。ほら掛かって来いや!」
「敵マドック散開。多方向からの波状攻撃に注意して下さい」
そして敵マドックからビームによる弾幕が此方を襲う。然も敵マドックの装備が前衛、中衛、後衛と言った感じでバランス良く統一されている。
好き勝手に生きてる宙賊がそんな器用な真似が出来るとは思えない。だが実際に目の前には武装に合わせた攻撃方法で攻めて来る。
【ビームキャノン砲で確実に狙って行け。奴の動きを制限するんだ】
【オラオラ!35ミリの弾幕を喰らいやがれ!】
【この強化パックを施したマドック十二機相手に勝てると思ってんのか!勝てる訳がねぇぜ!】
【あのクリムゾン・ウルフを倒せば俺達の名前は間違い無く広がるぜ。そうしたら間違い無くウチらの組は大きくなる】
【後方の艦隊に連絡を入れておけ。作戦は順調だとな】
上手い事連携をする十二機の敵マドック部隊。しかし、まだまだ動きが甘い。
俺はオープン通信を繋げながら敵に言い放つ。
「強化パック仕様のマドック。確かに良い機体に仕上がってる。だが……パイロットは三流以下だと意味は無いんだぜ?」
【何だ?敵の通信?】
「見せてやるよ。AWって奴の動かし方をな」
機体を一気に加速させて敵マドックに接近する。時間を掛ければ掛ける程此方が不利になる。ならば敵の意表を突く様な戦い方をするしか無い。
バレットネイターが加速しながら敵マドックに突撃。無論、敵マドックは迎撃を開始する。しかし俺はギフトを使い三秒先を視て行く。
(クリスティーナ少佐には感謝してるぜ。【増幅】のお陰か知らんがギフトを使い過ぎても頭が余り痛くならなくなったからな)
いつもは要所要所でギフトを使うのだが、マザーシップ戦の最後ではずっと使っていた。あの赤い視界と痛覚が麻痺した中で感じた高揚感。そして凄まじく研ぎ澄まされた感覚。
あの時の感覚は俺を更に成長させたのだ。
敵マドックのビームキャノン砲から放たれるビームの弾幕を最短距離で回避しながら前衛の敵マドックに迫る。
敵マドックは35ミリガトリングガンと45ミリサブマシンガンで此方を狙う。しかし敵機が攻撃をする前にプラズマキャノン砲で連携を乱させる。そして逸れた一機の敵マドックに対しショットカノンで動きを止めながらプラズマサーベルで斬り裂く。
【は?え……ちょッ】
そして次の敵マドックに至近距離でショットカノンを撃ち込む。ショットカノンによる散弾が敵マドックの装甲、センサー、腕部をズタズタにする。
動きが鈍くなった敵マドックを踏み台にして一気に方向転換。其処からプラズマキャノン砲で更に一機撃破する。
【は、速い……速過ぎる!照準で捉えきれないぞ!】
【化け物め!奴を近寄らせるな!】
【あっという間に三機がやられた。これが……クリムゾン・ウルフ】
【馬鹿!まだこっちは九機残ってんだ!数で囲い仕込むんだよ!】
敵マドックの動きが乱れた瞬間、後衛仕様のマドックを狙う。俺が一気に接近すると慌てた様にビームキャノン砲を乱射する。
「そんなデタラメな射撃で!ネロ!フルオープンアタック!」
「射撃補正完了。いつでもどうぞ」
そして距離が詰まったのと同時にバレットネイターの火力を一気に使う。プラズマ、散弾、55ミリが四機の敵マドックを瞬く間に貫き破壊して行く。
気が付けば強化パック仕様の敵マドックは既に五機にまで減っている。
「さぁてと、命乞いするなら今の内だぞ?尤も……全員逃しはしないんだけどな」
【あ、悪魔め‼︎殺せえええ‼︎殺せえぇぇええ‼︎‼︎】
「ハッハッハッ!悪魔とかヒデェ事言うな。俺だって傷付く心は持ってるんだぞ?」
【くたばれえええ‼︎化け物があああ‼︎】
無駄弾を使う敵マドック。しかし俺ばかりに目を向けてるお陰で背中がガラ空きだぞ?
『そこ、頂き』
『ふん。こんな物か』
【な、何ぃ⁉︎後ろガアッ⁉︎】
背後から襲い掛かったダンス1、2のフォーナイトとラプトルによって更に混乱する敵マドック。そして最後に残った一機に言い放つ。
「狩る立場から狩られる立場になって残念だったな。お陰で撃墜スコアは充分稼げたよ」
その瞬間、言葉にならない台詞を喚きながらプラズマサーベルを展開して襲い掛かる敵マドック。その無謀な行動に対し俺はパイルバンカーを用意しながら近付く。
「次からは腕の良い傭兵でも雇うんだな」
そして振り下ろされるプラズマサーベルを避けながら敵マドックのコクピットに向けてパイルバンカーを撃ち込むのだった。
この話は書いててゾクゾクした。
クリムゾン・ウルフ!二つ名とか通り名とか結構好きなのよ(๑╹ω╹๑ )
後は自分の羞恥心との戦いだったがな!(*゜∀゜*)




