狩場
「アッハッハッハッ!いやー、こんなダセェネーミングセンス持ってる奴と出会うとは。宇宙は狭えなぁ……ブフ」
「ちょっと、笑い過ぎよ。失礼じゃない……フフ」
「ちゃっかり笑いながら注意すんなよ。余計に笑けてくるから」
「馬鹿野郎。相手に失礼だろうが。大体、ネーミングセンスがダサい事に気付いてないんだ。ソッとしといてやれよ」
「とか言いながら笑うの我慢して頬を痙攣らせんなよ。てか、ジャンボの言い方が結構酷いんだけど」
「ジャンボ言うんじゃねえ。ブッ飛ばすぞ」
俺がマーキュリーとか言う奴のダサいセンスを笑ってると顔を真っ赤にして此方を睨んで来た。
「き、貴様!人の名前を侮辱する気か!」
「んな面倒な事するかよ。俺が笑ってんのはお前さんのナルシストな所だよ。自分の名前入れた団名に加えて、いきなり勧誘しに来るとか。せめて勧誘するならちゃんと所属企業に通せよ」
「企業通したら勧誘受けるの?」
「受け無いな。そもそも今以上に良い条件は腐る程来てたからな」
「ほう。なら何で他の勧誘を断ったんだ?」
「俺は義理堅いんだよ」
「んー、あんまりそうには見えないけど実際に勧誘断ってるみたいだし」
しかし俺の対応が気に入らないのかマーキュリー大尉は更に怒りを露わにする。
「大体、この俺ロシュ・マーキュリーを知らんと言うのか?【宙賊百人狩りのロシュ】とは俺の事だぞ!」
「へぇ、じゃあ俺は【マザーシップ・イェーガー】て名乗ってやろうか?それに百人狩りって言っても累計だろ?一日の戦闘で名乗るなら素直に褒めてやるがな」
「……確かに累計ではある。だがそれ以上に戦果を上げて来た実績がある」
「ふーん、で?それが俺を勧誘する理由になるのか?」
「光栄だろうが!俺は映えあるマーキュリー・ファクトリーの団長であるんだぞ!」
「んな小さな小山の大将気取ってどうすんだよ?確かに大尉になってるから多少は腕はあるとは思うが」
「そうだろう!そうだろう!て、小さな小山の大将とはどう言う事だ!」
「忙しい奴だな。お前達も常にこんなの相手にしてんの?精神的に辛くない?」
俺が後ろに待機してる五人に声を掛けると愛想笑いされた。
「まあ悪い人じゃないからさ」
「そうそう。ちょっとズレた感じのキザっぽい所はあるが」
「ナルシストだけど基本的に良い人なんだよ」
「へぇ、意外とアンタ結構人望あるじゃん。てっきり後ろ弾貰う口だと思ってたぜ」
「喧しい!良いか?俺はもっと大きな人間に成らなくてはならないんだ。分かるか?世間から舐められたら俺は……俺達はお終いなんだ」
神妙な表情で語るマーキュリー大尉。言いたい事は分からんでもない。恐らく小さいながらも傭兵団の団長として部下を養い、戦果を上げなければならない重圧があるのだろう。
勿論百人狩りとかをアピールするのは悪くない。例え累計といえど事実は事実だ。だが少し物足りなさを感じるのも事実だ。
「艦艇とか賞金首は幾つ狩ってるんだよ。それもアピールポイントになるだろ?」
「いや、それ程多くは……」
「成る程。良し話は分かった。ちょっとマーキュリー大尉、こっちに来い」
「はぁ?何故俺が」
「良いから来いって。良い話があるんだよ」
マーキュリー少佐を少し離れた場所に連れて行く。マーキュリーの部下達が心配そうに見てくるので笑顔で対処する。そして肩を組み営業スマイルを作りながら顔を近付ける。
「なぁ、今回の任務で出来た俺の戦果……買わない?」
「何?どう言う事だ」
俺は鴨となるお客様に商談を持ち掛ける事を決めたのだ。こう言う奴は良いお客様になるんだよ。
「そのままの意味さ。スーパーエースの戦果を買わないかと言ってんだよ」
「スーパーエース?貴様の事か」
「当たり前だろ?勿論、報酬は頂くがな。どうだ?」
「……俺に何のメリットがある?」
「単機で宙賊の艦艇を撃墜した功績。はたまた敵エースを撃破した功績。それを全部お前さんが手に入る。然も命を賭ける必要が無い」
「成る程。で、幾らだ?」
「今回の報酬全額。勿論アンタが自分で撃墜した分は要らねぇよ」
「まだ敵の数も分からない。もし少数ならこの話は無しにして貰う」
「構わないよ。だが、直ぐに気が変わるさ。今までもアンタと同じ様な事を言った連中はコロッと態度を一変させるくらいにな」
「…………」
「もし依頼を受けるなら秘匿通信を繋げろ。そうすれば誰にもバレる心配は無いから恥をかく事も無い。それに何事も基本は記録が重要になる。今回で得た戦果は間違い無く後々に役に立つだろうよ」
まぁ、後々無理難題を言われる可能性もあるんだけどな。それは俺の管轄外だから関わるつもりは無い。
「精々買われるくらいには戦果を出すんだな」
「任せろ。今回の依頼は間違い無く一悶着有るだろうし。楽しみだよなぁ。俺のバレットネイターが縦横無尽に敵を蹂躙する姿……くぅ、堪らん!」
「……此奴、大丈夫か?」
マーキュリー大尉の不安そうな声が聞こえるが気にしない。
話が着いたので再び戻るとマーキュリー・ファクトリーの皆さんが心配そうに団長を見ていた。センスは無いのが残念だが、人望は普通に有るのでちょっとムカついたのは秘密だ。
「何の話をしてたの?」
「ビジネスの話さ」
「ビジネス……ねぇ?とても真っ当な事では無い様に見えるんだけど」
「傭兵って真っ当な職業だったか?俺はそうは思わないがな」
そして俺は用が無くなったので格納庫に向かい傭兵達の機体を見る。
接近戦仕様から重装甲仕様まで様々な種類がある。然も四脚に追加ブースターを取り付け宇宙での機動性と運動性を確保している機体もあった。
暫く機体を眺めていると艦内アナウンスから出航時間になると連絡が来る。どうやらいよいよ始まるらしい。
「そう言えば、あのダークブルーの機体は見なかったな。此処には居ないのか」
少しだけ残念な気持ちになったが、簡単に見つけれるとは思ってはいなかったので気にする事も無い。
この時にはまだ気付く事は無かった。再び出会う奇跡があるなどと思いもせず。
例え、その出会いが互いを不幸にしたとしても。
QA・ザハロフの輸送艦隊がグンマー星系へ出航する数日前。
グンマー星系のとあるアストベルト宙域には大規模な宙賊の集団が居座っていた。
最初は元々企業に雇われてた一部の私兵達の集まりだった。だが卓越した腕を持つAWパイロット達に巡洋艦を多数保有し並以上の戦力。その戦力のおこぼれ目当てで集まる他の宙賊やならず者によって更なる戦力が増強された。
無論人員が増えれば養って行かなければならない。だからこのアストベルト宙域周辺の安全と引き換えに、他の宇宙ステーションや中小企業から金を巻き上げていた。
塵も積もれば山となる。宇宙ステーションや企業の業績を見て無理の無い金額を徴収する。お陰で彼等との関係は決して悪く無い。更に他勢力のならず者や宙賊が荒らし回れば即座に対処して実用性も見せてきた。
その結果、彼等は宙賊と言うよりマフィアやヤクザに近い存在となっていた。
【我々からの依頼は以上になります。何かご質問があればどうぞ】
「なら聞くが、何故自らの手で始末を付けん。貴様等の資金繰りから見るに余力は充分に有ると見える」
とある脱着式の和風の豪邸。内部は脱着式とは思えない程、整った庭と池があり見た事も無い魚が悠々と泳いでる。
豪邸の中は人の気配はあるものの、物音は殆ど無く静かな時間が流れている。そんな中、ある一室では神妙な顔をした男性が商談相手と通信を行っていた。
【お恥ずかしながら、我々としましては自分達の戦力より其方の戦力に期待をしているのです。ですから少なからず此方からも戦力を提供させて頂いてる次第です】
「そうか。なら貴様等の依頼に関してだが拒否させて頂こう」
【……理由を聞いても宜しいでしょうか?】
男は依頼を拒否した。その者はこのアストベルト宙域を牛耳り大きな影響力を持っている人物。
元企業直属の私兵であり、多数の部隊を率いて常に企業に勝利をもたらし続けた存在。しかし作戦中に所属企業の本社が奇襲され敗北。その後、部下を率いてアストベルト宙域に身を潜ませ戦力を増強させ今の地位まで作り上げた手腕。
名を東郷・ジョセフと言いい、グンマー星系ではそれなりに有名人でもあった。
東郷は既に高齢の域に入っており白髪に濃い皺が目立っていた。だが鋭い眼力はまだ健在であり、対面する者に威圧感を与える。
通信越しでの会話中に煙管を使う東郷。この時代には珍しい代物と言えるだろう。
「決まっておろう。貴様が隠し事をしておるからだ。嘘を吐かなかっただけ褒めてやるが、まだまだ未熟と言える」
【その様な証拠など何処にあるのでしょうか?】
「最近、ある兵器企業が連邦に媚びを売ってるそうだな。何をしたいのか知らんが、このグンマー星系、ひいては儂ら【東郷組】に要らん事をすれば如何なるか。貴様等は理解して無い訳では無かろう?」
【さて、何の事でしょうか】
「身内を襲撃する。内部抗争に巻き込むなら此方も容赦せん。自分の不始末くらい自分で終わらせるのは世の常であろう」
【成る程。ですが一つ訂正させて頂きます。我々は内部抗争などはしておりません。唯、ある目的の為に行動しているに過ぎません】
その為に自分を良い様に使うと言うか。その言葉が喉まで出かかったが飲み込む。恐らく何を言っても曲げる事は無い。それは大企業として当然の反応であり、下々はその為に動くのが世の常と言うものだ。
「成る程。では遠慮は要らんと言う事で良いのだな?例え強襲する相手がQA・ザハロフ所属の輸送艦隊であっても」
【はい、構いません。それこそ輸送艦隊を全滅させる勢いでも。但し、輸送艦0301だけは撃沈ないし捕獲は止めて頂きます。他に関してはお好きな様にどうぞ】
「なら良かろう。では最後に一つ、もう少し戦力を提供して貰う」
【では少々お待ち下さい。確認致しますので】
そして待つ事数分。煙管の火皿に残ったカスを掃除し、中身を入れ替えた時に連絡が来る。
【お待たせしました。此方がリストになります。尤も、我々も現在は少々物入りですので、ご了承下さい】
「ふぅむ……まぁ、良かろう。貴様等の依頼は受けてやる」
【有難う御座います。詳細は此方になります。では良い一日を】
そして通信が切られた後に火を付ける東郷。
「フゥ……さて、少し騒がしくなるか」
依頼を受けた以上、此方も仕事としてやるだけだ。上を見上げればホログラムで映し出された夕焼けが見える。物事が上手くいけば大きな利益になる。しかし失敗すれば被害を最小限にせねばならない。
東郷・ジョセフは神妙な顔付きになりながら部下を呼び出し指示を出して行く事を決めたのだった。
QA・ザハロフの輸送艦隊はワープ航行装置を使いグンマー星系までワープする。そして目的地となる惑星に向けて移動を開始した。
「グンマー星系。生まれ故郷にして最低最悪なクソッタレな場所」
「そうなのですか?」
俺はネロを腕に抱えながら休憩所から見える宇宙の景色を眺めながら飲み物片手に寛いでいた。因みに飲み物はQA・ザハロフのオリジナル飲料、【THE・ザハロフ・火薬の香り燻るオリジナル・ブレンドコーヒー】である。
「そうだよ。常に相手の機嫌を伺いながらの機嫌取り。そうやって目的達成するしか無かったからな」
「大変でしたのですね」
「いんや、そうでも無いさ。何時も言ってんだろ?俺は運が良いんだってな」
「返上されたと思ってましたが」
「ラッキーボーイはな。だが俺は誰よりも運が良かったのは間違いない」
「何故運が良かったのですか?」
ネロの質問にどう答えようか?何故運が良かったか。それは俺が転生者だからだろう。
だがそんなのは最初くらいしか意味は無かった。勿論要所要所では役に立つ事もあったが。基本的には媚び売りながら上手く立ち回って来ただけだ。
そんな中、唯一の救いがAWだった。初めて見たのは画面がヒビ割れた端末からだったが感動したのを覚えている。人型兵器なら戦場に行くのは確実。つまり死ぬ可能性が高い場所へと自ら向かって行く。
自殺行為かもしれんが、それが一番の近道だったのは言うまでも無かった。
「良い男には秘密が付き物さ。それに少し謎めいた方が危ない魅力があるだろ?」
「私からの見解からはマスターは既に充分魅力的な男性に分類されています」
「やっぱネロちゃん最高だわ。よし、後でボディをワックスで磨いてやろう」
気分が良くなりコーヒーの香りを楽しみながら一口飲む。
「うん!懐かしくて咽せる味がする!」
オリジナル溢れるコーヒーを飲みながら一言感想を口にするのだった。
グンマー星系では他の星系以上に戦闘が起こる頻度が高い。それは統計上でも証明されており平均値の三倍以上を誇る。それはつまり様々な場所に艦船やAWの残骸が放置されている。
勿論デブリ回収業者も居るのだが、頻繁に戦闘が起こる場所に好き好んで行く業者が居る訳も無い。よって少なくない宙域には何かしらの残骸が放置されている。
偶に光るテロップで【残骸は回収しましょう】とか【宇宙はみんなの物】などが浮かんでいる。まぁ、それくらいしか出来ないのが実情とも言える。
唯、回収業者が来ないと言う事は使える物が放置されてるとも言える。よって真っ当で無いブラック企業や何処ぞの組織下の下請け企業はチャンスだと言わんばかりに来るのだ。
しかし今回は違った。
【レーダーに目標補足。QA・ザハロフの輸送艦隊です】
【時間通りだな。よしオメェら!頭に任された任務だ!派手に暴れるぞ!但し輸送艦0301だけは手を出すな。良いな!】
【目標前方の駆逐艦。砲撃準備用意】
【ミサイル装填完了。攻撃準備用意良し】
【攻撃機隊発進準備急げ!ミサイル発射と同時に出撃だ!】
【各所に設置されてる砲台も全て起動させろ。そうすれば奴等は右往左往する事しか出来んよ】
そしてQA・ザハロフの輸送艦隊が狩場に入った瞬間、獲物を狩る狩人が動く。
【固定砲台起動開始。諸君、Let's enjoy hunting】
指揮官からの言葉と同時に固定砲台が動いたのだった。
名無しのスーパーエースのレビュー
【THE・ザハロフ・火薬の香り燻るオリジナル・ブレンドコーヒー】
久々に歩兵時代を思い出した。あの火薬臭い空気の中で飲んだコーヒーの味。ついでに思い出したく無い事も思い出したのでクレーム入れておいた。




