久しぶりの再会
QA・ザハロフからの依頼を受けた俺は、スマイルドッグ保有の高速輸送機にバレットネイターと共に集合場所となる宇宙ステーションに向かっていた。
「在り来たりな依頼の割に高額だもんな。大企業だから気前が良いのか。はたまた裏があるか。何方にしろ、まともな味方は居ないだろうが」
今回は指名依頼と言う事もあり通常より割高になる。しかも元々の依頼額が多い分更に多くの報酬を貰える訳だ。
「まぁ、成る様に成るさ。いざと言う時は頼むぜネロ」
「はい、お任せ下さい。全力で補助致します」
俺は腕に抱えたネロに語り掛ける。残念ながら今回はアンドロイドボディ版はお預けだ。と言っても俺の機体の仕様上、仕方ない面もあるのだがな。
「マスター、今回の依頼の確認を行いますか?」
「そうだな。じゃあ頼むわ。何か見落としてるかも知れんし」
「了解しました。本ミッションはQA・ザハロフからの輸送船団の護衛依頼になります。規模は輸送艦十五隻とそれなりの規模に成ります。またQA・ザハロフ所属の巡洋艦二隻、駆逐艦五隻、フリゲート艦五隻が護衛として同行します」
流石大企業とだけ言えるだけの輸送艦の数だ。護衛艦の方も現役艦で構成されてるのも良いポイントだ。
「後は護衛が監視に成らなければ良いんだが」
「航行ルートですがワープ航行装置を使いグンマー星系に向かいます。グンマー星系は現在もほぼ無法地帯と化しており治安は良くありません」
「その辺りは良く知ってるよ。今も昔も自分勝手に自己主張する連中で溢れ返ってるだけさ」
グンマー星系は良くも悪くも資源が豊富な宙域だ。そこら辺に転がってる小惑星が、軍艦に使われる装甲材質に使われてる素材の可能性もある。更にテラフォーミングされた惑星の地下にも高確率で色々な素材が手に入る。
つまりグンマー星系は昔からのゴールドラッシュが続いてるのだ。故に幸運の女神に微笑まれて大富豪に成り上がる者達は多いのだ。
しかし、その裏では事業に失敗して悲惨な人生を歩む者達が山の様に居る。お陰で貧富の差は他の星系に比べて多くなり治安の悪化に歯止めが掛からないのが現状だ。更にグンマー星系は何方かと言えば辺境に位置する。
結果として悪事を働いた者達が雲隠れするのに打ってつけの場所なのだ。その結果、治安の悪化に更に拍車が掛かり手の付けようが無いのだ。
無論グンマー星系には資源目的で三大国家が軍を派遣して治安維持を行うのだが、其処は命知らずの馬鹿共や後が無い者達が低い報酬と引き換えに襲い掛かって来るのだ。
三大国家に歯向かえばどうなるかは分かるだろう。だが当事者達からすれば毎度毎度襲われるのは勘弁して貰いたい。だから現場の将兵達は刺激しないルートを通るだけで終わる。
要は救い様が無い場所。唯、それだけさ。
「本ミッションには他の傭兵も同行します。また整備、弾薬、推進剤などは全てQA・ザハロフが負担するとの事です」
「偶には機体を労わりながら戦おうか。慎重になり過ぎる事は悪く無いしな」
「依頼内容は以上になります」
そして暫く航行していると、集合場所となる宇宙ステーションをレーダーで捕捉する。
「キサラギ少尉、間も無く到着します」
「あいよ。さて仕事の時間だな」
俺は通信をQA・ザハロフの周波数に合わせる。
「此方、傭兵企業スマイルドッグ所属のシュウ・キサラギ少尉です。依頼を受理しましたのでIDナンバーの確認願います」
『此方QA・ザハロフです。IDナンバーを確認。ようこそシュウ・キサラギ少尉。貴方が依頼を受けてくれた事を心より感謝します。輸送機を第0315輸送艦へ移動をお願いします』
「了解しました。直ちに移動します」
「……キサラギ少尉、丁寧な言葉喋れるんですね」
「喧しいわ」
それから宇宙ステーションを確認するとQA・ザハロフ所属の輸送艦隊へと高速輸送機を移動させる。そして第0351艦へ近付くとハッチが開きガイドビーコンが点灯する。
『誘導を行います。上げ舵五度、速度を低下させて下さい』
「了解。上げ舵五度。速度低下開始」
『そのまま真っ直ぐです。船体を固定しました。ようこそ第0315輸送艦へ。貴方を歓迎致します』
「ご丁寧にどうも」
『エアロック確認。空気注入完了しました。機体を受け取ります。ハッチ解放を願います』
高速輸送機を固定しながら俺は操作パネルからハッチを開きバレットネイターと武装一式を下ろす。
「キサラギ少尉、後は自分がやっておきますので」
「そうか。じゃあ任せる」
「では。御武運を」
「そっちも帰還中に変なのに絡まれんなよ。じゃあな」
パイロットからの敬礼に軽く答礼しながら高速輸送機を手荷物を持ちながら降りる。すると降りた先に以前に見た事がある機体が二機鎮座しているのを発見した。一機は軽量機で、もう一機は帝国軍主力可変機だ。
「あの機体……まさか」
「フリーランスの傭兵アーロン・ラスカル大尉、チュリー・ペルシャ少尉の乗機になります」
何処で見たと思えばダムラカの一件で共闘した奴等だ。後はミク、ミクニ……してやんよ?だったかな?名前は忘れたがMr.仮面なのは覚えている。
「共闘するなら悪くなさそうだな。援護する必要も余り無いだろうし。幸い腕前は文句無しの連中だからほっといても問題なさそうだ」
そして床に降り立つとQA・ザハロフの制服をキッチリと着こなした美女が出迎えていた。
「ようこそシュウ・キサラギ少尉。本日は依頼の受理有難うございます」
「お気になさらず。其方の報酬が非常に良かったので」
「では、滞在するお部屋に案内を致します」
美女は先頭を歩きながら先導する。その間に俺は周りの機体を見る。見た限り他の傭兵も居る様だったが、特に思い出す様な機体は無かった。
「しかし意外でしたね。まさかQA・ザハロフの様な大企業から指名が入るとは。正直驚きましたよ」
「それだけの事を成したと言う事です。貴方は、貴方が思っている以上に注目を浴びています」
「煽てても何も出ませんよ。あ、今度俺とデートしません?勿論全部俺の奢りさ」
俺のジョークにも笑顔で対応する美女。出来た女は手強い。そこに年齢とかは一切関係無いくらいにな。
「それに私個人としましても高く評価しています」
「理由を聞いても?」
「私達からの勧誘を断りながらも依頼を受ける。生半可な事では出来ないでしょう?」
「……ふぅん、成る程」
この瞬間、両者の間に誤解と言う名の深い溝が出来た。
片や仕事ならどんな依頼でも受ける傭兵と判断している者。
片や何も見ずに勧誘のメールを消した上で依頼を受けた者。
果たして、この誤解が解ける日は来るのだろうか?
「そう言う意味では私達は貴方を評価しています。ですので、期待していますよ?」
「おう……任せてくれ。今回は普段以上に頑張るからさ。ネロ、一緒に頑張ろう」
「了解しました。精一杯補助させて頂きます」
僅かな罪悪感がそれなりに大きな罪悪感に膨れ上がってしまう。然も相手は此方を好意的に受け取ってるのが、また罪悪感を増してしまう。
(こんな事なら大企業の分だけでも見とけば良かった。シュウちゃんプチ後悔)
心の中でテヘペロしながら美女に謝罪?をする。勿論相手には聞こえないので全く意味は無い事なのだが。
「着きました。此方がキサラギ少尉のお部屋になります。室内、艦内の関係者立ち入り禁止区画以外は自由に過ごして頂いてかまいません」
「ご案内有難う」
「では、失礼致します」
俺に綺麗な一礼をする美女。なので此方も本格的に答礼する事にした。何だかやられっ放しは尺に触るのだ。
「……珍しいですね。私達の様な者には傭兵の方は余り礼儀や気遣いなどはしないのですが」
「私達の様な、なんて寂しい事言うなよ。アンタは俺の下らん戯言にも丁寧に対応した。だからこっちも敬意を払ったまでさ。案内ありがとな」
そう言ってから部屋の中に入る。室内の調度品は殆ど揃っており、此処は物件ですと言われても違和感は無いくらいだ。
「ふん。流石は大企業様って奴だな。さてと、少し艦内を見て来るか。もしかしたらジャンボとチュリー少尉に出会えるかもだし。ネロはどうする?」
「私はネットに繋げて頂けると助かります。何か優良な情報を得られる可能性がありますので」
「分かった。だが休む時は休めよ。お前はAIだから問題無いかも知れんが、何事も一休みは必要さ。人間然り、機械然りな」
「了解しました。一通り調べましたらスリープモードに移行します」
「おう。じゃあ後は任せるぜ」
俺はネロを設置してあるパソコンに接続してから部屋を出て行く。
艦内は輸送艦なのでそれなりに広い。道中にも数人の傭兵グループが居たので何チームかは来ているのだろう。尤も、こんな怪しさ満点の依頼を受けた連中だ。大した警戒心は持ってないと判断出来る。
しかし、そう考えるとジャンボことアーロン大尉とチュリー少尉は警戒心が薄いと言う事だろうか?
(いや、違うな。単純に報酬に惹かれた口だな。金にでも困ってんのか?)
あの一千万クレジットをたった一、二ヶ月で使い切ったと言うのだろうか?もしくは俺みたいに何か高額な物を買ったかだ。
(まぁ、ネロちゃんの魅惑ボディには逆立ちしたって敵わねぇがな。何せ男の理想と浪漫が詰まってるもん)
今思い出しても実に素晴らしい出来だと自画自賛出来る。然もネロちゃんの気配り上手も加われば天下一と言っても過言では無い!
そんな事を考えてると通路の先にデカい図体をした後ろ姿のアーロン大尉を見つけた。うん、やっぱり彼奴ジャンボだわ。
そしてジャンボに近づいて行くと此方に気付いたのか振り向いて来た。序でに横から彩豊かな髪を持つ狐耳美女のチュリー少尉を発見した。
「よう、ご両人。ダムラカの一件以来だな」
「お前……キサラギか」
「あら?久し振りじゃない。ちょっと知らない間に有名人になっちゃって」
「お前達も相変わらず元気そうだな。まぁ、あの程度の戦果なんざ何時でも……いや、やっぱ止めとくわ。二度とやりたくねえ」
「だったら何でやったんだよ?」
「僅か数分の間だけ命を危険に晒せば一千万クレジットになると言う誘惑には勝てなかった」
「依頼内容は私も見たけど、絶対にやりたく無い内容だったわよ」
お互いに近況に付いて軽く話す。俺の話は大半の連中は知ってるので、どちらかと言えば二人の話が聞きたい所だが。
「然もいつの間にか少尉になってるじゃない。本当に何があったの?」
「一つはダムラカとの決着を付けた時。もう一つはマザーシップに吶喊した時だ。証拠?この勲章が目に入らぬか〜!」
「何だよ、その力が抜ける言い方は。けどまぁ、それだけ派手にやってれば嫌でも階級が上がるわな」
「俺の話よりお前らの話をしろよ。俺の事なんざ大体の連中が知ってるもんだからな。これ以上話した所で意味はねえよ」
俺は二人の近くに座り話を促す。するとチュリー少尉は口元に人差し指を付けて考える仕草をする。その仕草と同時に狐耳が軽く動いて少し萌えたのは秘密だ。
「んー、そうねぇ。私がアーロンと付き合ってるくらいかな?」
「へぇ、付き合って……え?マジで?」
俺は信じられない目をしながらアーロン大尉を見る。すると照れ臭そうな仕草をする。そしてジャンボ野郎の仕草には全く萌えなかった。
「いや、何つーか……まぁな。あの後、俺から声を掛けたんだ。一緒に組まないかって」
「それを私が了承して暫くして付き合い始めた訳」
「はぁ……まぁ、お幸せにとだけ言っとくわ」
「あら意外。嫉妬の一つや二つを期待してたのに」
「好き合う者同士がくっ付く事は自然な事さ。取り敢えず先任として忠告を言うとしたら、付き合い続けるんなら傭兵は辞めておくんだな。後悔した時には既に手遅れなんだし」
俺の忠告を聞くと少し険しい表情をする。しかし反論は来ないので良しとしよう。
「……何かあったのか?」
「昔、ちょっとだけな。お陰で自分が如何に女々しい野郎だと分かったのが唯一得た代物だったよ」
「そう。でもキサラギ少尉は確かもう直ぐ二十歳でしょう?年齢で決めるのは可笑しな話だけど、切っ掛けとして考えてみたらどう?」
「区切りを付けろってか?はん!余計なお世話だぜ。唯そろそろ俺も踏ん切り着けねぇとな、とは思ってはいるが」
第一折角ネロちゃんの万能アンドロイドボディを買った意味が無くなる。それに俺に好意を寄せてる連中にも失礼な気もするし。
だが、死んだ女を思い続ける事は罪だと言うのか?だとしたら、俺は一生罪を背負って生きて行く。それくらいの想いは持って生きて来たんだ。
「……チッ、気分が悪くなる」
「あ、ごめんなさい。少し不謹慎だったわね」
「あ?いや、チュリー少尉は関係ねぇよ。それより俺に階級越されない様に気を付けるんだな。でないとキサラギ中尉と敬意を持って接して貰うからな!」
「おいクソガキ調子に乗るんじゃねえぞ。お前がチュリーより早く階級が上がる訳ねぇだろうが」
暫く以前と同じ様な調子で話していると艦内放送が流れる。
《本艦は間も無く発進します。乗組員は直ちに所定の配置に待機して下さい。繰り返します》
「やっと出撃か。任務が完了したら暫く待機になるからな。やっぱりネロちゃんのボディ持ってこれば良かったかな?」
「ボディ?あの戦闘補助AIのか?何だ、お前もやる事はやってるじゃねぇか」
「当たり前です。俺不能じゃねぇし。人並み以上ですから。さて、他の連中の機体でも見て来るか。良いペイントとかカスタムが有ったら参考にしたいし」
「あ、そうだ。前みたいに私達また組まない?」
「組む必要はねぇだろ。前も碌に連携して無かったじゃねえか」
チュリー少尉の提案をあっさり拒否する。理由は特に無いが組む必要性を感じなかったからだ。
だが俺の反応が面白くないのかアーロン大尉が前に出て来る。
「おい、折角チュリーが誘ってんだぞ。何あっさり拒否してんだよ」
「俺のテクを間近で見たらジャンボから寝取っちゃうからさ。俺なりの気遣いだよ。察しろよな」
「残念だけど私は簡単には鞍替えしないから」
「なら余計に組む必要がねぇよ。俺にメリットの欠片もねぇじゃん」
「馬鹿言うんじゃねえよ。俺達と組めば晴れて高機動部隊が出来るじゃねえか。映像で見たがお前の機体、中々のカスタム仕様じゃねえか」
「そうそう。それにキサラギ少尉の機体ってカッコいいし。間近で戦う姿とか見たいなー」
何やらバレットネイターを褒め始める二人。まあ悪い気分では無い。それに以前に増してバレットネイターの操作設定をピーキーにしている。
つまり今まで以上に高い機動力を手に入れた訳だ。勿論操作を少しでもミスすればバランスを崩し、最悪自滅するだろうが。
「そうかそうか。お前達もバレットネイターの良さが分かるか」
「ああ。だからお前も軽量機に乗り換えろよ。もっと速く動けるぜ」
「可変機も悪く無いわよ?直線での機動力はどのAWよりも速いんだから」
「お前達はバレットネイターを褒めたいのか、俺をバレットネイターから降ろしたいのか。何方なんだよ」
「「両方」」
「何が両方だよ。此奴らマジうっぜぇ」
俺が疲弊していると六人グループの集団が近寄って来る。然も全員男だから華が無いし。
そんな事を考えてると一人のリーダーらしき人物が一歩前に出て来て口を開く。
「お前がシュウ・キサラギだな。俺は【マーキュリー・ファクトリー】の団長、ロシュ・マーキュリー大尉だ。俺がお前に声を掛けたのは一つ、俺のマーキュリー・ファクトリーへの勧誘をしに来た」
知らない奴が声を掛けて来た。然もいきなり勧誘しに来たと言うでは無いか。これが所謂有名税と言う奴だろう。
だがそんな事はどうでも良かった。何故かって?
それはな……
「ブホォア⁉︎ハッハッハッハッ!お、お前!滅茶苦茶ダセェ団の名前付けてんなあ!アッハッハッハッ!ひ、人を笑い殺す気かー‼︎」
余りにもダサ過ぎる団名に腹抱えて笑った俺は悪く無いと断言しておく。




