ネロ、新しいボディを手に入れる2
「何かあったんスか?」
「……聞きたいか?」
「是非お願いします。良い暇潰しになりそうなので」
「自分も聞きたいッス。面白そうなので」
「お前ら今度人前でスカート下げてやるからな。ベルトはしっかり締めとけよ」
「最低です」
「でも事前に言うのが先輩らしいッスね」
俺はエナジーミルクチャージを飲みながら、この世の真理の一部を語る。
「俺はネロのボディをクリエイトしている時に気付いたんだ。世の中のアンドロイド持ちの連中は、露出癖があるのかも知れんと」
「「…………はい?」」
言っている意味が良く分かりませんって言う表情をする二人。全く、だから常識に囚われてる奴は駄目なんだ。
「美人なアンドロイドやイケメンなアンドロイドを従えてる。これは今の世の中では当たり前の事だ。中にはAIと恋をしてアンドロイドボディを作り結婚する連中も居る」
「ですが高度な人工知能を持つAIには既に人格があると定義が決まってます。まさか造られた擬似的な命などと言わないですよね」
「言う訳ねえだろ。問題は次だよ次。AIは基本的に相手を尊重する。つまり外見何かは相手が望む姿になる事が多い」
「そうッスね。でも今更じゃないッスか?は!ま、まさか……ネロと結婚するんスか!」
「しねえよ馬鹿野郎。何で傭兵やってる俺が結婚しなきゃならんのだ。結婚するならもっとマシな場所に就職してからするわ」
話が脱線しつつあるので咳払いをしてから戻す。
「良いか。ネロならきっと俺がクリエイトした外見を受け入れるだろう。だがな、それは……常識と言う名の罠が潜んでいる」
「「…………」」
こいつは何言っているんだろ?と言った表情をする二人。俺は今度食堂で椅子に座る瞬間に椅子を引いてやると心に誓う。
「考えてみろ。自分の趣味趣向が反映した理想的な外見をした存在が出来る。然もAIなので簡単に受け入れてくれる。だがな俺は……そんな、そんな羞恥プレイを耐える事なんて出来ない!」
途轍も無い難題が見つかってしまった瞬間、俺は頭を抱えてしまう。
「ヒューマン系を筆頭に獣人系、亜人系、メカニカル系、グレイ系。様々な外見のアンドロイドがあるのは知っている。だがな、自分の理想の外見……つまり、それは自分の性癖丸出しのラ○ドー○を外に見せびらかす様なものだ!」
考えて見て欲しい。綺麗な奴隷を引き連れてるなら偶々そんな外見をしている奴隷だと理解出来る。だが自分で外見を作り、あまつさえ自身の嫁にまで昇格出来てしまう。
擬似有機製体を使えば最早言い逃れは出来ない。【お前は趣味全開の〇ブ〇ールを嫁にしたんか】と。然もそれを誰もが意識せず堂々と胸張って歩く始末。
もう外出した時に仲睦まじく歩いているアンドロイドと別種族の恋人や夫婦を見ても微笑ましい感情は出ないだろう。寧ろ「おや?貴方も同志ですな」と言った感じにアイコンタクトをするに違いない。
いや、俺は絶対にやる。やって心の中で「勝った!」て言うもん。だってネロちゃんの方がええ子やもん。ええ子やもん!
「……貴方は馬鹿ですか」
「先輩、頭大丈夫スか?まだマザーシップ戦の後遺症が」
「喧しい!世の中の常識に囚われし愚民共め!兎に角!今はその難題をどうやって乗り越えれば良いのか考えているんだよ!」
「そんな事考えてるのは先輩だけッス。寧ろネロに対してめっちゃ失礼ッス」
「そ、そうかな?」
「そうです。全く、何を考えてるかと思えば」
「じゃあさ、じゃあさ。こんな感じにしても大丈夫なんか?」
俺はアズサ曹長から端末を引ったくるとボディ構成を弄りまくる。序でに衣装も追加しちゃう。
そして出来たのは何処ぞの電子の音楽家みたいなロリッティでツインテールみたいな子だった。確か付属品として大根も持っていた筈だ。
「まあ、悪くは無いですね。因みにこの大根は何ですか?」
「特に意味は無い!」
「そうですか」
次に作ったのはボン!キュッ!ボン!のナイスバディの綺麗なお姉さん系だ。正に男の浪漫がたっぷり詰まった一品と言えるだろう。
「これ身長以外は自分に似てるッスね。やっぱり先輩は胸の大きいのが好きなんスか?」
「そりゃあ好きに決まってんだろ。だがな、一番良いのは愛し合う者同士の気持ちだな」
「ブフゥ⁉︎せ、先輩!今の台詞全然似合わな痛い!痛い!耳引っ張らないでー!」
「オペ子!お前もコッソリ笑ってるの知ってるからな!」
「わ、笑ってなんて……フフ」
結局あーでも無いこーでも無いと作っては消してを繰り返すばかり。しかしお陰で自分が考えてた事が如何に無駄な事だったのかが理解出来た。
「時代の流れなのかねぇ。けどまぁ、老害染みた考えを無理矢理共感させるのも大人気無いし」
「しかしキサラギ少尉の考え方は少数ですが一定数は居ますよ。何ならこの団体に入りますか?」
ナナイ曹長が端末から検索して見せたのは、何処ぞの壊滅寸前までになってる団体に似た【自然生命保護団体】だった。内容は擬似生命体の全てを否定して、本来の正しい自然の流れに戻すんだとか。
つまり此処までの文明の発展に貢献し続けているAIの存在を全否定している事だ。
「成る程な。このクソ団体は俺と戦争がしたい訳だ。OLEM保護団体同様に排除しちまうぞ」
「まあ、貴方の様な人にはかなり敵視されてますが」
「今時こんな組織もあるんスね」
「宇宙は広い。それが実感出来る瞬間だな」
結局、俺が考えてた事は誰も気にしていない事だと理解出来た。尤も、暫くは〇〇ドールの件を引き摺りそうなのは秘密だ。因みに伏字が全く役に立ってない様な気がするんだが……気の所為だな!
「よし、外見に関しては解決したな。次は機能に付いて話すぞ」
「別に構いませんが」
「自分も良いッスよ。因みに何を搭載するんスか?」
「出来る限りな装備は全部だ。そうしたらポッキリ価格になったけど」
「因みにどんな機能を付けたんです?」
「腕部にマシンガンとグレネードのギミックだろ。後近接用の収縮する刀に、脚部にブースターと背中に飛行ユニット、後は」
「待って下さい。貴方はネロに何を求めるのですか?」
「え?浪漫だけど」
「「…………」」
俺が浪漫だと断言したら死んだ魚を見る様な視線を向ける二人。何だよ。文句あるなら直接言えよ。
「これではネロが可愛そうです。端末貸して下さい」
「いや、でも……」
「先輩先輩、此処は自分達に任せて下さいッス」
ナナイ曹長とアズサ曹長は色々話しながら端末を操作する。しかし、この間暇になるので適当に歩く事にした。
戦艦グラーフの内部は結構広い居住区画がある。まあ戦艦と名が付いてるだけの事はあるだろう。お陰で要らない備品を仕舞う物置みたいな場所もある訳だが。
「そう言えばアンドロイドのボディが出来るまで時間掛かるよな。よし、俺が簡易型だけど用意してやるか!」
アンドロイドボディを手に入れる前に自由に行動出来る練習はさせて上げたい。それにネロも何時迄も俺の部屋で置物兼便利道具扱いだと可哀想だし。
俺は気合を入れて要らない備品が置いてある備品室へ入る。
これが俗に言う小さな親切、大きなお世話なのだと後から知る事になるのだがな。
備品室とは名ばかりの物置場となっている。よく分からないアームや何かの装甲板。他には歩兵支援用の防護板など様々なガラクタが置かれていた。
「全く、社長は普段ケチ臭い癖に。こう言うのを放置するのは駄目だよな。まあ、廃棄品として売ろうとして忘れてたオチなんだろうけど」
とは言うものの折角なので何か出来ないか漁ってみる事にした。
色々見つけては使えそうなのを集めて行く。暫く廃棄品を漁っていると何だか昔を思い出して来た。
「そう言えば、あの時に使える端末を拾わなかったら詰んでただろうな。もしくは別の方法で解決したか。まあ、今が無事だから良いけど」
何となく過去を思い出す。初めてこの世界を俺が認知した時。あの時は滅茶苦茶喜んだっけ?
「何も知らない事が幸せなのだと。改めて理解させられた瞬間だったけどな」
少ししんみりしながら色々捌くる。すると後ろから誰かが声を掛けて来た。
「キサラギ少尉?こんな所で何やってるんですか?」
「ん?おぉ、お前は何時ぞやの整備兵じゃん。元気してっか?」
「アーノルド上等兵です」
其処には以前、俺にTZK-9ギガントをお勧めした若い整備兵が居た。
「そうか。ならアーノルド上等兵、君に協力要請だ。此処から使えそうなパーツを一緒に探してくれ」
「何を探せば宜しいのですか?」
「ネロの新しいアンドロイドボディの代わりのボディを作ろうと思ってな。出来れば浪漫満載でさ」
「はぁ。良く分かりませんが。ですがキサラギ少尉のお願いとあらばお手伝いさせて頂きます」
「アーノルド上等兵、今晩の飯は一番高いヤツ頼めよ。これは、命令だ」
「ご馳走になります」
アーノルド上等兵が来たのでネロの仮ボディのコンセプトを伝える。アンドロイドボディは浪漫禁止になったので、せめて仮ボディには浪漫を付けて上げたいと。
するとアーノルド上等兵は廃棄品を探しながら言い放つ。
「ならコクピット部分は必要ですね。パイロットみたいにモニター視点から見れる様にしましょう」
「アーノルド上等兵……お前分かってんじゃん」
そしてお互い無言でグッドサインを作るのだった。
それから通路に使えそうな部品を出してると他の暇人共も集まって来た。そして仮ボディを作ってると言うと。
「ならコクピット部分には装甲が必要だな」
「ショルダー部分にはグレネードか対物ライフルが良いな」
「両腕はミニガン一択だろ。確か陸戦隊にミニガン一式余ってるのがあったな。え?予備だって?知らん知らん」
「センサーはコレが使えそうだな。これはAWのサブカメラか。寧ろ何で此処にサブカメラが有るんだ?」
「組み立てるなら道具が要りますね。ちょっと取ってきます。序でに暇な連中も連れて来ますね」
こうして暇人達による浪漫溢れる素晴らしい仮ボディが出来上がる。
そして出来上がった仮ボディを見て皆が満足そうに頷く。其処にはそこら辺の暴徒何ぞ一捻りで殲滅出来そうな凶悪な対人殲滅兵器が存在していた。
脚部には履帯を採用しサイドスカートを取り付け被弾による損傷を防ぐ。また履帯が破壊された場合はサブアームが出て四脚での移動が可能。更に分厚いシールドを全面に固定出来る様にアームが取り付けてある。
上半身に関してはコクピット部分となる場所は中々凝っている。ネロを入れるスペースには四枚のモニターを設置。コクピットを閉じれば、しっかりとネジが締まり固定される。また頭部にはサラガンの小型サブカメラが取り付けてある。
両腕には陸戦隊から掻っ払った四連装ミニガンと火炎放射器を装備。また背部には弾倉にベルト給弾式で採用している。また小型シールドを取り付けて側面からの攻撃を防ぐ。更に弾倉をリロード出来る様に背中にもサブアームを設置。継戦能力を高める事に成功した。
両肩には対物ライフルとグレネードを装備。また防御兵装として対赤外線スモークとSマイン擬きの小型クラスター爆弾を装備していた。
全体を基本黒一色で統一。また正面装甲にはデカいスマイルドッグが骸骨化したバージョンが書かれており、一層の威圧感と恐怖感を与えていた。
「おぉ……実に素晴らしい。まるで浪漫の精神が形になったようだ」
これが何処ぞの武人が感じた感情なのだろうか?だとしたら凄い共感するぞ。
「早速ネロを連れて来るぜ!きっと喜んでくれるからな!楽しみだぜ!」
こうして俺と暇人達によるネロの仮ボディが完成したのだった。