後日談1
後日談が地味に長くなっちゃったテヘ♡
そして次回は遅れるかも知れません。現にこの話も遅れて投稿しましたので。
此処は何処だろうか?意識が朦朧とする中、随分と居心地が良い様な気分になっている。まるで母親のお腹の中にいる様な。そんな感じだろう。
聞こえてくる音は殆ど無く、時々小さな音が聞こえるぐらいだ。
目を覚ませば随分とボヤけた視界になっている。周りを見渡してもイマイチよく分からない。更に喋ろうとすると上手く喋る事が出来無い。
暫く目を開けながら考えているとようやく理解した。
(医療用培養カプセルか。SFの世界なら定番だが、俺の人生では初体験だな)
尤も医療用培養カプセルは基本的に重傷患者くらいにしか使われ無い。また結構高価な代物なので通常の医療施設を使ってる所の方が多い。
因みにスマイルドッグにも医療用培養カプセルは三個だけある。但し使ったら必ず次の依頼はキツい物になると言われているがな。
(けど、此処スマイルドッグじゃねぇよな。何処だ?と言うか何か忘れてる様……な?)
途轍も無く重要な事を忘れている様な。そもそも俺は何故こんな状態で医療用培養カプセルに入っているのか?
最後に見た光景を思い出そうとした時だ。物音と同時に誰かが近寄って来る。其方に視線を向ければ相変わらずボヤけた視界だが誰かが居るのは分かった。
「目が覚めた様だな」
(此処は美人軍医がワンシーンだけ出て来る所だろうが。何で野郎何だよ)
「そんなに睨むな。今カプセルから出すから」
そう言って医療用培養カプセルを横倒しにされる。そして暫く待つと中の培養液が抜かれて行く。
「ゴホッゴホッ……言っとくがな、この咳は、感染症じゃねえゴホォッ‼︎」
「そんな事は分かっている。ほら酸素マスクだ。これで呼吸を整えるんだ」
「すうぅぅ……はあぁぁ……ああ、苦しかったぜ」
「全く、こんなのが英雄視される日が来るとはな。世も末だな」
「英雄視?……ッ!そうだ!マザーシップは!俺の成功報酬は!それに機体とネロはどうなってる!後は……スマイルドッグの連中は?」
「君の人間性がよく現れた瞬間だね。取り敢えず今は安静にする事だ」
「余計なお世話だぜ。それよか身体を一度洗いたい。乾いたらベタつきそうだし」
「分かった。そのまま待っていろ。今シャワーで流すから」
軍医がスイッチを押すとカプセル内に温かいお湯が体全体に付いている培養液を洗い流す。しかしこれが結構な勢いで流れてるので顔やら何やらが普通に痛い。
「おい、結構圧が強いんじゃない?もう少し緩めても良いのよ?」
「ん?あぁ、すまない。圧がマックスになっていた。失敬失敬」
「そのイケメン面に拳をめり込ませるぞコノヤロー」
それから軍医から自身の状態を聞きながらスマイルドッグの制服に着替える。何故此処にスマイルドッグの制服があるのかは知らんが、中々用意周到だなと少しだけ感心したのは秘密だ。
暫く待機しているとセシリア准将、社長、そしてネロを持ったナナイ軍曹が入室して来た。しかしセシリア准将を見た途端……胸の高鳴りを感じた。
(な、何だ?何で俺はセシリア准将を見てドキドキしてるんだ?)
思い出すのはマザーシップにN弾を撃ち込んだ後の光景。意識が朦朧としながらも最後に見た誰かの姿。
そう、蒼い髪の女性が確かに俺を優しく抱きしめ包み込んでいた。それはとても暖かく、その女性の優しさが伝わる程だ。
「無事に目が覚めた様だな。一先ずは安心と言った所だろうか?」
「そうですね。最初は良くあの状況でありながらも、身体と脳味噌に異常が無かったですからね。恐らくクリスティーナ少佐のギフトのお陰でしょう」
「だ、そうだ。後で感謝しておく様にな」
「そっちだああぁぁあ‼︎はあぁぁ……ビックリしたぁ。でも、そうだよな。そっちが正しいんだよ」
俺はもう一人の蒼い髪のポンコツエルフを思い出す。そうだよ。冷静に考えたらそっちの方が自然だよ。寧ろ何で怒って睨むと目付きが鋭く怖いセシリア准将に胸を高鳴らせねばならんのだ。
「全く、紛らわしいんだよ!何でセシリア准将が候補に上がりかけてんだよ!アンタには婚約者が居るんだろ!テメェのヒロイン枠は最初から無いんだよ!」
「何故私が意味の分からない事で怒鳴られなければならんのだ。大体私はもう少ししたら式を挙げる予定だからな。余計な事はするなよ」
「なら結婚式には呼んでくださいな。俺がセシリア准将の鋭い目付きの良さを旦那さんにたっぷり話して上げますよ」
「貴様は絶対に呼ばん」
「遅かれ早かれバレるんだ。精々今を楽しむんだな」
話が脱線したお陰で胸の高鳴りは綺麗さっぱり無くなったので、結果オーライと言う事にした。
取り敢えず俺は此方の様子を伺っている社長達に軽く声を掛ける。
「お疲れ様です社長。それにネロにナナイもお疲れさん。まさか俺の復活祝いに来てくれたのかな?」
「違うわ馬鹿者。先ずはエルフェンフィールド軍に感謝しろ。貴様の為にそれなりの量の培養液を使ったのだからな。然も向こう持ちでだ」
「お疲れ様ですマスター。無事で良かったです」
「お疲れ様です。貴方が死ねばスマイルドッグも少しは静かになりましたね」
「ハハハ!俺が死んだら誰がナナイの尻を触るんだよ」
「触る必要は無いんです」
「あっそう。まあ先ずはセシリア准将、感謝させて頂きます。其方の適切な処置のお陰で五体満足で退院出来そうですからね」
俺は一度セシリア准将の方を見ながらしっかりと敬礼をする。一応医療用培養カプセルを使わせて貰ってる以上、感謝の一つくらいはしっかりする必要はある。
「ふん。普段からそう言った態度なら私からの好感も上がるのだがな」
「婚約者との修羅場になるのは御免ですけどね。まぁ、勝つのは俺だけどな!」
「その自信が何処から来るのやら。それからさっきも言ったがクリスティーナ少佐にも感謝は言っておけ。一番心配していたのは彼女なのだからな」
「……わ、分かってますよ。所で、状況を説明して貰えますか?マザーシップとその後の流れをさ。それからナナイ、ネロちゃんパス」
俺は話を無理矢理戻す為に現在の状況説明を求める。セシリア准将は此方を少しだけ睨むが溜息を一つ吐きながら帽子の位置を整える。
その間にナナイ軍曹は俺の方に来てネロを手渡してくれた。
「どうぞ」
「マスター、余り無理はしない様にして下さい」
「分かってるよ。今から真面目になるから安心しな」
「それからクリスティーナ少佐から伝言です。目を覚まさなければ引っ叩くとの事でした」
「そうか。目を覚ましたから俺がクリスティーナ少佐を引っ叩いても問題なさそうだな」
「問題大有りだ馬鹿者。貴様はエルフェンフィールド軍を敵に回す気か」
「やだなぁ〜社長〜。冗談に決まってますよ〜。俺だって出来るならエルフを敵に回したくは無いですからね」
「分かっているなら冗談でも口にするな。申し訳ないセシリア准将」
「いや気にしなくて結構だ。キサラギ准尉の性格は此方も多少は理解しているので」
社長は頭を下げたがセシリア准将は気にした素振りは無い。どうやら少しはユーモア的なのを理解したのかも知れない。いや知らんけどな。
「状況の説明は私がしてやろう。感謝しろよ」
「ありがとうございます。セシリア准将殿」
「……やはり貴様が素直に言うのは違和感があるな。まぁ良い」
それからタブレットを渡され状況説明が始まる。
「始めにマザーシップとオーレムについてだ。マザーシップは貴様の奮戦により撃破を確認。現在も惑星ソラリスの軌道上に死骸が漂っている状態だ。またマザーシップの死体解析の為、三大国家以下作戦参加国が共同での調査を開始している」
タブレットに映し出されるホログラム映像には、確かに惑星ソラリスにマザーシップの残骸が残ってる状態だ。
「現在の惑星ソラリスでの死者、行方不明者は合わせて約四千八百万人。現在も捜索作業は行われているが、殆どの住人と駐屯部隊は死亡していると見て良いだろう。またこれから更に死者は増えると見ている。つまり実質六千万人以上の死者になると想定されている」
「想定か。あの状況下で生き残ってる住人が居るとは思えませんがね」
「どう言った理由があれ、遺族達に希望を見せてやるのも必要だ」
「結果の見えてる希望に意味が有るならな。まぁ、好きにすれば良い。俺がとやかく言う権利は無いからな」
惑星ソラリスの最悪の事態を引き起こしたのはアイリーン・ドンキース博士だ。だが事態を把握し仕留める事が出来た筈だった。にも関わらず俺はあの時トリガーを引く事をしなかった。
(こんな事なら命令違反しとけば良かったぜ。そうすればこんな目に遭わずに済んだだろうに。正に溢した酒は元に戻らないだな。大分言い方が違う気がするが。まぁ、意味は伝わるだろ)
確かに情報を知り得たのはトリガーを引く前だった。だがそれでも殺しておけばよかったのでは無いか?と思ってしまう。
内心愚痴った所で意味が無い事は理解している。現に社長が此方を見ながら咳払いしてるし。恐らく余計な事を考えるなと言いたいのだろう。
「それからオーレムに関してだが、マザーシップが破壊された後一時的に全てのオーレムの活動の停止を確認。その後、再度動き出し帝国領に向けて進路を取り逃走。だが帝国軍の更なる増援、二個艦隊と挟撃する形が取れたので無事に殲滅を完了した」
「活動停止?それに後退?活動停止は分からんでも無い。大方マザーシップがオーレムの頭の役割だったんだろ。で、オーレムがマザーシップの目と手足の役割だな」
「恐らくその見解であってるだろうな」
「そうでないとマザーシップがアイリーン博士の乗る艦艇を破壊した理由が思い付かない。いきなり自分の手足が勝手に動かされたら、そりゃあマザーシップもブチ切れるわな。けど後退する理由が分からんな」
「それについては既に仮説が出ている」
オーレムが撤退した理由。それは他のオーレム群の所へ合流が目的とされるとのことだった。
「待てよ。マザーシップは他にも居るのか?」
「不明だ。だが貴様が寝ていた一週間の間に惑星ソラリスを中心とした所からオーレムが姿を見せた報告は無い。だが他の宙域では依然としてオーレムは活動している」
「つまり……あれか?一匹見つけたらオーレムの群れだけでなく、マザーシップも居ると。ハッ……冗談キツいぜ。と言うか、俺一週間も寝こけてたのか」
あのクソみたいな作戦を死に物狂いでやった結果ようやく倒す事が出来たんだ。なのに複数存在している可能性が有ると言うでは無いか。
タブレットを弄れば確かに他の宙域ではオーレムはいつも通り活動している記録が出ている。無論オーレムが出現しない宙域もある。理由はオーレムがその宙域に移動していないだけに過ぎないとされてる。
「無論あくまで仮説に過ぎ無い。少なくとも合流すると思われるオーレムは殲滅したからな」
「マザーシップ周辺の宙域に居るオーレムの動きはどうなんです?彼処に居たのが全部では無いでしょう?」
「確認はされていない。もしくは報告がされて無いだけかも知れんが。オーレムの素通りなど今に始まった訳ではあるまい」
此方がオーレムに気づいたとしても、オーレムが此方に気づかなければ襲っては来ない。当たり前の事だが、今はその当たり前が裏目に出てる気はするが。
「無論最悪の想定は惑星ソラリスから得た情報が他のマザーシップに伝わる事だ。だが、その可能性は極めて低いと見て良い」
「その理由は?楽観的な理由に縋るなら軍人なんぞ辞めちまえ」
「偶に手厳しい事を言う。理由としてはコレだ」
セシリア准将がタブレットを弄り此方に見せる。それはオーレムの生態だ。
「……成る程。そう言えば連中には脳味噌が無かったっけ」
「そうだ。今までオーレムの生態は謎に包まれていた。特に中枢神経が欠けてる中、連中がどうやってワープ航行を可能にしているのか。またコミュニケーションや戦闘での順番等。稀に見せる一糸乱れぬ編隊の謎が解けた瞬間だ」
「そしてアイリーン博士が見つけた特殊な電波に繋がる訳か」
理屈としては分かる。つまりオーレムはマザーシップの目と手足。目と手足に記憶を保管する必要は無い。何故ならマザーシップが直接見て動かしているからだ。その動かしてるのがアイリーン博士が発見した特殊な電波信号な訳だ。
因みにオーレムは普段は亜空間か別次元に存在していると言われている。恐らく其処も地味に当たってる可能性が高い。何せ今の今までマザーシップは見つからなかったからだ。
「亜空間越しにオーレムを操るとか。チートじゃん。誰だよオーレムが下等生物とか言ってた奴。ガチもんの知的生命体じゃねえか。だが、これで連中が俺達と敵対してる理由も分かったぜ」
「ほう?聞こうか」
「簡単な事だ。古来より強大な軍を維持させるにはどうすれば良い?税金使って自分達で養うか、相手から奪うかだ。オーレムが単一生命体なら話は早い。奪うしか無いもんな。自分の身体の維持に精一杯だろうし」
「単一生命体。言い得てるな。マザーシップが脳で他オーレムが目と手足。それなら自身で養うと言う選択肢は出ない訳だ」
「そう言う事です。しかし、知りたくも無い事が次々と出てくるぜ。随分と濃厚な一週間だったみたいですね」
「その通りだ。では次の話題へ移ろう。此方の話は身内から聞くと良い」
セシリア准将は一度下がり社長達へ場所を譲る。俺はタブレットを弄りながらナナイ軍曹に話し掛ける。
「じゃあ次は明るいニュースが欲しいな。特に俺得情報だと尚更嬉しいんだがな」
「では早速ですが、四日程前に三大国家及び作戦参加者達によるマザーシップ討伐記念として観艦式が行われました」
「……嘘だろ?つまり、大艦隊による壮大な光景が?」
「はい。そのタブレットにも映像が有ります」
俺は直ぐにタブレットを弄りお目当ての映像を探し当てる。そして映し出されたのは弩級戦艦、超級戦艦は勿論の事。沢山の戦艦、巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦が悠然と整列している姿。更にAWやMWは艦艇の甲板に立ちながら並んでいるではないか。
にも関わらず、俺はこんな胸がトキメク大興奮間違いない瞬間を逃したの?人生で何度も起こる事の無い一大イベントだよ?そもそも三大国家勢揃いとか普通は無いんだよ?
「マジかぁ……うわぁ…………テンション普通に下がった」
「それからマザーシップ撃破を表彰して貴方に地球連邦統一軍より地球連邦統一十字金勲章が贈られています。どうぞ」
ナナイ軍曹から渡された勲章。地球連邦統一軍の識別マークにマルタ十字が張り付いてる感じだろうか。
見た目は悪くは無いが、どうしてもブルーアイ・ドラゴン勲章と並べると貧相に見えてしまう。と言うかブルーアイ・ドラゴン勲章の作りが凝ってるんだよな。
「うわー……超要らねー」
「それから翡翠瞳の姉妹にも同様の勲章がダスティ・バルス大将より直々に授与されています」
「凄くどうでも良いや」
「因みに貴方はマザーシップ撃破を行った当事者としてバルス大将以下連邦、帝国、共和国将官達からの称賛。それから等身大ホログラム映像が公開されてます。こんな感じですね」
ナナイ軍曹が横からタブレットを弄り映像を出す。すると隅っこの方に半透明のホログラムがずっと出ている。しかしホログラムの作り込みは凄まじく、実際に自分が居るかの様に映っている。然もスマイルドッグの制服を着こなしてる。
寧ろホログラムの方が立派に見えるのは気の所為か?
「ふぅん。良く出来たホログラムだぜ。まるで俺が連邦側に見える立ち位置だけどな。尤も、目を覚まさなかった俺が悪いんだけど」
考えてみたら一応俺は地球連邦統一の正規市民だったっけ?多分皆忘れてるだろうけどな。
「後はバルス大将より一千万クレジットが直接渡されてます。此方が今回、依頼達成による一千万クレジットが入ったIDチップです。連邦中央銀行なら何処でも引き落とし可能です」
再びナナイ軍曹から手渡されたのはIDチップ。命をチップにして手に入れた大金。一千万クレジットが入ってるIDチップを貰いようやく報われた気分になった。
「別に有名人になりたい訳じゃ無かったし。これで良かったかもな。さて、どんな大型高速輸送艇を買おうかな〜?」
「因みに今作戦で一番儲けた方は元傭兵ギルド所属の方でした。どうやらオペレーション・トゥエルブ・アローで賭け事が行われていた様です」
「……は?」
「詳細は不明ですが貴方に大金を賭けて一人勝ちしたとの事です。最低でも数十億クレジットがその方の手に入ったと。聞いてます?」
余りにも非情な内容に言葉が出なかった。片や命懸けで手に入れた一千万クレジット。片や運で数十億クレジットを手に入れた奴。
だがこの程度で凹んでも意味は無い。そもそも俺には何も被害は無い訳だからな。他人から見たら俺も充分羨ましい立場だろうし。
「ラッキーボーイは返上かぁ。まぁ、他所は他所。ウチはウチってね」
結局この後の話は大した事は無かった。強いて言うなら翡翠瞳の姉妹が一千万クレジットを受け取らなかったらしい。何でも自分達はN弾をマザーシップまで運ぶ事が出来なかったからだとか。
内心、貰える物なんだから貰っとけよと思ったのは秘密だ。




