ミッション完了
マザーシップ内部でN弾の爆破。CBBデラン・マキナの艦橋内は一時の沈黙に包まれていた。
N弾による緑が混ざった眩い光がマザーシップを中心にオーレム群を巻き込んで行く。光の中に呑み込まれるマザーシップ。更にN弾の爆破範囲は広く惑星ソラリスを徐々に巻き込んで行く。
臨界に達したN弾の圧倒的破壊力は絶大。いや、絶大過ぎた。惑星一つを簡単に消滅させる程の威力を持つ大量破壊兵器。正に三大国家のみが保有する兵器。
誰もがN弾の圧倒的な破壊力に魅入っている中、誰かが言葉を発する。
『……やったのか?マザーシップを……倒した』
『夢じゃない?夢じゃない!マザーシップにN弾が直撃しているんだ!』
『や、やったぞおおお‼︎見たか‼︎これが連邦の力だあああ‼︎』
『勝ったんだ!俺達は勝ったんだ!ザマァ見ろ!下等生物が!』
『ソラリスの仇だ!業火の炎に焼かれて、あの世で悔いるんだな!』
『いやっほおおお‼︎勝ったぞおおお‼︎』
『父さん、母さん……仇は…………取れたよ』
通信内では様々な歓喜の声が響き渡る。誰もが歓喜し、勝利の雄叫びを上げ、喜びを分かち合う。
そんな中、ダスティ・バルス大将は直ぐに状況確認の指示を出す。
「状況を確認。マザーシップと他オーレム群はどうなっている?」
直ぐに状況確認を行う様に指示を出す。
「マザーシップ内部でN弾の爆破を確認!またE、Δ型にも被害を与えています!」
「現在半数以上のオーレムがN弾の爆破に呑み込まれています。恐らくN弾迎撃の為に集まっていた事が原因かと」
「傭兵共はどうなっている?」
「N弾の爆破の影響により一部宙域で電波障害が発生。確認が取れません」
N弾がマザーシップ内部で爆破している。つまり、誰かが目標まで辿り着いたと言う事だ。
誰もが最初に思うのは、誰がマザーシップを撃破した偉業を達成したのか。そして直ぐに答えは導き出される。
「流石は【翡翠瞳の姉妹】だ。彼女達こそ連邦市民として相応しい者達だ」
ドヤ顔で深く感心しながら頷くバルス大将。しかし事実を知った彼の表情は微妙な物となったのは仕方無い事だった。
バレットネイターのコクピット内部では警告アラームが鳴り響いていた。パイロットであるシュウ・キサラギ准尉は目、耳から出血しており、口と鼻からは大量の血を吐き出しながら意識不明の重体。
この状況下で戦闘補助AIのネロは直ぐにオートパイロットに切り替えて自身の制御下に置く。それと同時に出来る限りの救命処置と救難信号を発信しながら帰還ルートを割り出す。
「機体損傷確認。ABブースター、メインスラスター一番、二番停止。サブスラスター三番、四番停止。ABブースターパージ開始」
最早使い物にならなくなったABブースターを外しバレットネイターを操作して速度を落とす。
「帰還ルート算出。エラー、電波障害、磁場変動によりルート算出困難。慣性移動停止を確認。ルート算出再計算。飛行ルート算出を確認……エラー、N弾の衝撃波により一部データ損傷。惑星位置でのルート算出の再計算開始……」
様々な方法で帰還ルートを計算するネロ。しかしABブースターにより、味方艦隊よりかなり遠くまで離れてしてしまっていた。
「データ算出エラー、惑星位置データ不足により帰還ルート算出出来ません。マスターの延命維持を最優先事項に変更。マスター、聞こえますか?返事をして下さい。マスター」
ネロはシュウに言葉を掛け続ける。しかしバイタルデータは決して良い訳では無い。何せ脳内出血に多数の内出血が起こってる状況。早急に適切な治療をせねば後遺症が残るのは必須。このまま何もしなければシュウは確実に死んでしまう。
だからネロは声を掛け続ける。少しでもシュウを生かす為に、自分に出来る事を精一杯やるのだ。
しかしネロの声に反応はしない。先程までの戦場でオーレム群相手に派手に暴れていた姿は無い。今のシュウの表情はやり切った感が溢れんばかりだ。
そう、真っ白に燃え尽きた感が半端無いのだ。
「マスター、此処で死んでしまうと私との二人三脚の生活が歩めなくなります。どうか目を覚まして下さい」
ネロが若干の自己欲求を溢しつつも声を掛け続ける。無音の宇宙空間を漂い続ける中、最早此処までと思われていた時だった。レーダーに急速に接近する熱源を感知した。
そして相手から通信が来た瞬間、ネロは直ぐに応答するのと同時にシュウのバイタルデータを相手に送る。この宙域に居るのはオペレーション・トゥエルブ・アローに参加した者くらいなのだから。
『随分と死に掛けてる様だな。無謀とも言える行動の中で辛うじて生きてるか。悪運の強い奴だ』
「此方スマイルドック所属の」
『言わなくても良い。既に把握してる事だからな』
『フラン、早く助けて上げよう?このままだと死んじゃうもの』
『分かってる。見捨てるつもりは最初から無いから。ヴィラン1、此方に機体を寄せろ』
「了解しました。救助有難うございます。フランシス・エヴァット中尉、フランチェスカ・エヴァット少尉」
現れたのはABブースターを装着した状態のZX-07FEエレンティルトだ。被弾はしていたが戦闘には問題無い様子。寧ろ被弾した状態であのオーレム群の中を切り抜けた時点で、エヴァット姉妹はかなりの腕前だと改めて理解させられる。
『気にしなくて良いよ。えっと、貴方の名前は?』
「私はType-From社製、戦闘補助AIのネロと申します。以後宜しくお願いします」
『うん。宜しくね』
『Type-From社製か。持ち主同様に変わったAIの様だな』
ネロは四連装ショットガンを放棄してバレットネイターをエレンティルトのABブースターの取手部分を掴み固定させる。そして何気にシュウとネロはType-From社諸共ディスられる。
Type-From社の異常性は宇宙共通だと改めて認識された瞬間だ。
「マスターは現在非常に危険な状態です。ですので丁寧に運搬をしながら早急に医療施設に入れて下さい」
『よく喋るAIだ。バイタルを見ればある程度は分かる。脳内出血は起きてるが、まだ間に合う範囲内だ。唯、一つ問題があるとすれば』
『オーレムだよね。でも大丈夫。私とフランなら切り抜けられるよ』
『そうね。私達なら行けるわ』
「感謝します。此方からも微力ですが援護射撃は可能です」
ネロはバレットネイターの右手に持つ二連装30ミリガトリングガンを持ち上げながらアピールする。それを見た姉妹は物珍しそうにネロを見る。
『貴様、本当に戦闘補助AIか?感情の制限を解除されているのか。まあ、物好きな奴には好まれそうなAIではあるな』
『でも一緒に居ると楽しそうだよ?戦闘中でも色々お話出来そうだもん』
エヴァット姉妹も仲良くお話しながら機体を味方艦隊の方へ向ける。
『速度を上げる。手は放すなよ』
「了解しました」
そしてエレンティルトに装着されてるABブースターを使い再び加速させる。若干の被弾を受けているABブースターだが、そのスピードは通常のAWより圧倒的に速い。
エヴァット姉妹が味方艦隊へ向けて移動している頃、味方艦隊では残存するオーレム群に対し追撃戦を行なっていた。
オーレムは最後の一匹になるまで戦い続ける。だが、その習性がたった今覆されたのだった。
エルフェンフィールド軍 旗艦アルビレオ
戦艦アルビレオの艦橋内でもN弾がマザーシップ内部で爆発したのを確認していた。E型、Δ型にも大きな被害を与えているのも把握していたし、何よりヴィラン1がN弾を発射しているのも確認していた。
「准将、キサラギ准尉はやりましたな。まさか本当にマザーシップに突撃し破壊を成し遂げるとは」
「一応、奴はリリアーナ様からブルーアイ・ドラゴン勲章を直接受け取った人間だ。これくらいの事はやって貰わねば困ると言うもの」
「そう言う割には随分と真剣な眼差しでヴィラン1の状況を見てましたが……おっと、これは失言でしたかな?」
「ふん、まあ良い。だが一番あの男を気にしてるのはクリスだろう。それでヴィラン1の状況はどうなっている?」
「それがN弾による電波障害により一部宙域の状況が不明です」
「そうか。では引き続き状況確認を行え」
「艦長!オーレムの動きに異変が!」
「何?モニターに出せ」
N弾の爆発が収まり、徐々にマザーシップの状態が見えて来る。
マザーシップはN弾の内部爆発により大きく抉られ、傘と肉体部分の七割以上が消失していた。更にE型、Δ型は半壊、もしくは消失。オーレム群に至っては既に壊滅的状況と言えるだろう。
しかし味方艦隊は決して油断はしてはいなかった。何故ならオーレムは最後の一匹になるまで戦う習性がある。つまりマザーシップを倒そうがオーレムの動きは変わらない。
誰もがそう思っていた。
だがオーレム群は動く事は無かった。まるで電源が切れた様に動きを見せなくなっていたのだ。
「状況の報告」
「はい。現在オーレム群に動きが有りません。全てのオーレムが活動を停止しています」
「惑星ソラリスのアラミア地域周辺がN弾の爆発により消滅。他の地域はN弾の衝撃波により被害甚大。またマザーシップの侵攻により殆どの地域が被害を受けています」
「第一、第三艦隊の被害40%を超えており、現在再編中。第二、第四、第五、第六艦隊も被害を受けていますが戦闘継続可能です」
「全艦隊の機動部隊損耗率が50%を超えています。此方も一部部隊が再編成中です」
オーレムが機能停止している理由は不明だが、今がチャンスなのは間違いない。誰もが同じ事を考えオーレム群に対し攻撃を再開させる。
オーレムの不可解な行動に戸惑いが出る中、第一艦隊旗艦デラン・マキナより再攻撃命令が下される。
「全艦、砲撃用意」
「各砲座へのエネルギー充填完了」
「各艦へのデータリンク合わせ完了しました」
「目標、前方オーレム群!砲撃」
「オーレムに動き有り!一斉に後退して行きます!」
「後退だと?構うな。砲撃始め!」
「砲撃始め‼︎」
再び艦隊によるビーム砲撃がオーレムに襲い掛かる。しかしオーレムは艦隊の存在を無視する様に逃走する。だが中には逃走が出来ず撃ち返して来るオーレムも居る。
特にN弾による被害を大きく受けたE型とΔ型だ。Δ型は既に戦う能力は殆ど持ってはいないが応戦して来る。しかしE型は後部分は消滅しているが前部分は未だに健在。
その結果、まるで殿の務めだと言わんばかりに艦隊に向けて応戦する。
しかしE型、Δ型共に被害は大きく応戦出来る砲の数は多く無い。寧ろ応戦すればする程攻撃能力は低下して行く。更にエネルギーシールド自体は既に無く、全てのビーム砲撃の直撃を受け続ける事になる。
この現状を見た地球連邦統一艦隊とガルディア帝国艦隊は戦闘続行可能の艦艇を率いて追撃戦を開始。今迄受けて来た屈辱に対し、雪辱を果たさんとばかりにE型とΔ型に接近して行く。
接近すればする程互いの攻撃は当たる。だがE型とΔ型にまともに応戦出来る力は残っていない。また一体、また一体とΔ型が爆散して行く。
そして最後の二体となったE型に対し弩級戦艦二隻から放たれた大出力ビーム砲と大出力プラズマ砲の多数が直撃。内部爆発が多数起きて自身の身体を維持出来なくなる。
そして連邦、帝国艦隊が迫る直前に大爆散して宇宙の塵になったのだった。
味方艦隊がオーレムに対し追撃戦を行なっている中、エヴァット姉妹は味方艦隊に向けて移動中だった。だがレーダーを見ると前方からオーレム群が此方に向かって来るのが確認出来た。
何事かと思い味方に向けて通信を繋げればオーレムが逃走しているのが聞こえて来た。
「オーレムが逃走?聞いた事が無いわ」
「うん。でも目の前から接近して来るのは間違いなくオーレムだね」
「フーチェ、やれる?」
「勿論。邪魔なオーレムは全部排除するね」
たった数回の会話で方針が決まる。フランシス中尉は操縦レバーを前に出し躊躇無くオーレム群へ突入する。それに対しフランチェスカ少尉は前方のオーレムに対しビームガトリングガンと45ミリヘビーマシンガンを向ける。
「反撃が無い?」
『どうやらオーレム群は反撃する事無く逃亡しているとの事です。下手に刺激を与えるのはリスクが有ります。オーレムに対する攻撃を止める事を推奨します』
「貴様の意見など聞いてはいない。最短距離で抜ける」
『了解しました。此方も応戦します』
「ごめんねネロちゃん。でもこっちの方が絶対に速いから」
ABブースターの推進剤の残量を確認。フランシス中尉は恐らくオーレム群を抜けれるかどうかで無くなるだろうと推測する。だから最低限の回避機動で行けば味方艦隊まで間に合うと。
「行くよ、フーチェ」
「うん、フランと一緒なら必ず出来るよ」
そしてオーレム群に向けて直進。オーレムからの反撃は無かったが進路上に邪魔なオーレムは多数居る。
フランチェスカ少尉は的確にα型を破壊して行き、フランシス中尉は空いたルートに機体を入れて行く。
『援護射撃開始』
ネロもバレットネイターを操作して二連装30ミリガトリングガンで前方のオーレムを狙い撃つ。
N弾の直撃を受けたオーレム群ではあるが未だに数は多い。特にα、β型の数は圧倒的だ。だが所詮はα、β型とも言える。特に成長し切れてないβ型はシールドは無い。またγ型に関しては手持ちの武装での破壊は困難であり弱点を確実に破壊しなくては無理な状況。
それでもフランシス中尉はγ型の表面ギリギリで避けたり、β型の群の隙間に入ったりと曲芸飛行みたいな飛行で突き進む。無論この曲芸飛行には理由があり、最短距離なら致し方が無いと言った所だろう。
『警告、前方β型五体……抜けました。もう少し丁寧な飛行を提案します』
「却下だ。それに、もうすぐで抜ける。それで終わりだ」
『前方に多数の熱源。味方艦隊からのビーム砲撃が来ます』
「思った通りだ。このまま行くぞ」
「後少しだからね。頑張って耐えてね」
そして味方艦隊の砲撃が確認出来た頃、味方艦隊もレーダーでジェイド1とヴィラン1を捉えていた。
『オーレム群の中に高速で此方に接近する機影を確認。IFFを確認中。間違い有りません。ジェイド1、ヴィラン1です!』
『まさかオーレム群の中を抜けて来るとはな。攻撃は続行せよ!但し、味方に当てるなよ!AS隊の発進急がせろ!オーレムは一匹残らず殲滅するんだ!』
連邦と帝国の激しい追撃。更に傭兵やバウンティハンターも今が稼ぎ時だと分かっており、弾薬を出来るだけ持って行きながらオーレム群を追い掛ける。
『ハハハ!カモ撃ちの始まりだ!』
『こんな所でボーナスタイムが転がって来るとはな。どうやら俺達は運が良い』
『全速前進だ!此処でオーレムの撃破数を稼げば駆逐艦は確実に手に入る!ようやく輸送艦とはオサラバって……いや、輸送艦は輸送艦で取っておくか』
『暫くは遊んで暮らせそうね。後で欲しい物リストを確認しておかなくっちゃ』
『逃げんなよ!オーレム風情が!今までの借りを倍返ししねぇとな。こっちの気が済まねぇんだよ!』
最早、隊列や戦列を気にする事の無い傭兵とバウンティハンター達。しかし金に目の眩んだ連中は強く、躊躇無くオーレム群に攻撃を仕掛けて行く。
そんな戦場の中を切り抜けたエヴァット姉妹。ようやく味方部隊と合流出来た事にホッと一息吐いたのは仕方ない事だろう。
『おい!英雄達の凱旋だ!場所を開けろ!』
『やはり翡翠瞳の姉妹か。彼女達ならやるって信じてたぜ』
『美人姉妹で腕前も一級品とか。もう堪んねぇよな』
『好きだー!俺と結婚してくれー!』
『テメェ、死にたいらしいな。誤射って事にして殺すぞ?』
『なぁ、キサラギって奴生きてんのか?そいつがマザーシップ仕留めたのかな?』
『馬鹿野郎。無名の傭兵にそんな事出来るかよ。諦めな』
『ち、ぢぐじょうううぅぅ……ぢょぎん九割づっごんだのにいいぃぃぃ』
『本気で泣くなよ!気持ち悪いな!全く、しょうがねえな。今夜は俺が奢ってやるからさ。好きなもん食えよ』
一部の人は英雄達の帰還に感動の余り涙を流している。最早今の味方艦隊の士気はうなぎ登りだ。歓声を浴びながら味方部隊の中を突っ切って行くエヴァット姉妹。その姿は非常にクールな物であった。
そして弩級戦艦デラン・マキナより着艦指示が来る。如何やら英雄達を迎え入れたい様だ。
「さて、想定通りそろそろ推進剤が切れる。このままデラン・マキナに行く。あそこなら確かな医療施設があるだろう。それに向こうも私達を受け入れたいらしい」
『ヴィラン1よりジェイド1へ。此処まで結構です。運搬有難うございました』
「何処に行くの?」
『エルフェンフィールド軍旗艦アルビレオです。彼処なら医療施設も充分でしょうから』
「だがデラン・マキナの方が確実だ。このまま連れて行く」
『問題ありません。マスターはブルーアイ・ドラゴン勲章を第三皇女リリアーナ・カルヴァータ様より直接受け取っていますので』
「カルヴァータだと?そうか、分かった。好きにしろ。だが満足な医療施設が無ければ直ぐにデラン・マキナに来い。私達は先に行っているからな」
『了解しました。それではまたの機会が有れば宜しくお願いします』
ネロはバレットネイターをABブースターから手放し、戦艦アルビレオに向けて移動する。途中何度か誰かの射線に入り掛けて注意を受けたのは秘密だ。
『ヴィラン1よりアルビレオへ。着艦許可を求めます』
『此方アルビレオ。着艦を許可する。所で何故AIが操作を?』
『マスターのバイタルを送ります。直ちに衛生班、救護班の待機をお願いします』
『了解した。第二カタパルトへ着艦せよ。ネットの展開をするのでスピードを墜としてそのまま着艦せよ』
『ヴィラン1了解。武装パージ開始』
二連装30ミリガトリングガンと追加弾倉を投棄。速度を墜としながらゆっくりと第二カタパルトへと向かう。
『ファング1よりヴィラン1。何かあったの?キサラギ准尉は無事なの?』
『いえ、無事では有りません。ですが今から適切な治療を受ければ問題は無いと思われます』
『そんな……重症なの?』
『脳内出血並びに多数の内出血を確認。また意識不明となっております』
『重症じゃない!もう、無茶するの分かってた筈。私がもっとしっかりやれば……』
『クリスティーナ・ブラッドフィールド少佐。貴女のお陰でマスターは最後まで意識を保持したままマザーシップへと到達しました。貴女が何かをやったのは理解しています。ですのでマスターに代わり感謝お礼申し上げます』
『……目を覚さなかったら引っ叩くって言っといて』
『了解しました。お伝えしておきます』
途中でクリスティーナ少佐と通信をする。しかしキサラギ准尉が意識不明と聞いて、自身を責め始める所が責任感の強い少佐らしい。
尤も本人が聞けば余計に責任感を持たせるか下らねえの一言で終わらせるだろう。その事を何となく理解しているネロはクリスティーナ少佐の願いを聞き入れるのだった。
『ヴィラン1よりアルビレオ。これより着艦します』
『アルビレオ了解。現在救護班と衛生班を配置している。速やかにハッチを開けろ。以上だ』
『ヴィラン1了解しました。マスター、これで暫くはゆっくりと治療が出来ます。どうか、余り自身を傷付けないで下さい』
聞こえないと分かっていながらもネロはキサラギ准尉に苦言を言ってしまう。しかし、あのルートでは単機しか抜けられなかったのは間違いない。勿論他にマザーシップへ辿り着けるルートが有るかと言われれば沈黙してしまうのも事実。
だからこそ一千万クレジットに見合う仕事をしたのは間違いない。それら全てを理解した上でネロはマスターであるキサラギ准尉の身の安全を優先したのだ。
『速度停止を確認。ハッチ解放。マスター、ミッション完了。お疲れ様でした』
ネロの呟きと同時にキサラギ准尉の口元が少しだけ動いた気がしたのだった。
一人の傭兵が成金野郎にジョブチェンジしたのは仕方ないね。




