ピッタリ賞はありません
「王族に名を連ねる第三皇女リリアーナ・カルヴァータ様である」
救出人物の名を出した瞬間沈黙が支配する。それもその筈。カルヴァータの名はエルフの総本山でもある惑星カルヴァータの王族なのだ。然もその第三皇女が何処かの誰かに嵌められちゃった訳だ。
「身内に敵が居るとはね。ご愁傷様だな」
「口を慎めシュウ・キサラギ軍曹。これ以上の無礼は私が許さん」
「身内を信用出来ないから金で動く傭兵を雇った。悪くない選択だ。けどこの少数艦隊と人員で救出出来ると本気でお考えで?」
「聞こえなかったか。無礼は許さんと」
セシリア大佐が無表情で俺の前に立つ。そんな彼女に対し正論を言う。
「そんなにアンタらは面子が大事か?今この時こそ地球連邦統一政府なりガルディア帝国政府なりに救出要請すれば良い。後忘れ気味だけど銀河自由共和国もあるぜ」
「代わりに技術提供をしなければならん。我々の技術は貴様ら人間には扱い切れん」
「そんなの当たり前だ。俺達人間は薬やら何やら使って百五十年位しか生きられない。それに比べてエルフは何百年と生き続ける訳だ。そもそもの土台が違い過ぎるんだからな」
「成る程な。確かに我々にとって普通な事でも貧弱な人間では無理があり過ぎる技術が多いからな」
「それでも人は欲深いからね。仕方ないね」
「その欲深さ故に幾つもの惑星が死んだ。大勢の市民を巻き込みながらな。貴様には理解出来まい」
この言葉を聞いて成る程と思った。エルフは排他的だと言われてるが実際の所は少々違うのかも知れない。案外自分達が生み出した技術で無実の連中が沢山死ぬ事に対し罪悪感でも抱いてるのかもな。
「何だよ。アンタらも意外と優しい所もあるじゃないか」
俺が一言呟くとセシリア 大佐以下他エルフの表情が一瞬呆けた感じになる。端末をカメラモードにしとけば良かったぜ。
「っ……黙れ」
「所謂ツンデレってやつ?いやはや萌えますな〜。取り敢えず俺は救出には参戦な。今迄の詳細と今後の詳細をよろぴく」
「アンタあれだけゴネてたのに参戦するなんて。ちょっと意外ね」
「ゴネてねーよ。予測した事を適当に言ってただけさ。今回はそれがビンゴした訳だけどな。ピッタリ賞とかくんねえかな」
「ピッタリ賞?」
それからセシリア大佐が咳払いをして再度説明を始める。
「リリアーナ様は現在ユニオン企業の元には居ない事が判明した。奴等はカルト教団で知られる【セクタル】へ引き渡した事が判明した」
「セクタルだと?あの人間至上主義か。姫様とやらは大丈夫なのか?」
「恐らく殺される可能性は低いだろう。リリアーナ様は稀代の天才だからだ」
稀代の天才。それが何を意味するか今の所は分からない。それに殺される可能性が低いだけであって拷問される可能性はある訳だけど。
「ユニオンの主要人物によれば奴等はサードル星系へ向かっていった。現在サードル星系の惑星ダムラカを中心とする宙域は現在も封鎖されており、政府から見捨てられ無法地帯となっている。奴等が潜伏するには絶好の場所だろう」
惑星ダムラカ。約五十年前に紛争と言う名の戦争が起こる筈だった。最初の発端は何だったか。サードル星系の中央付近にあった惑星ダムラカが周辺惑星の自治体、臨時政府と共に地球連邦統一政府から独立宣言をした事から始まる。
勿論地球連邦統一政府は独立を認める事なく地球連邦統一軍のマックス大将率いる第七機動艦隊を派遣。更に他の予備戦力も揃えたりと多少時間が掛かりながらも現地に赴いた。
そしてマックス大将以下第七機動艦隊の将兵達が現場で目にした光景が何も無かったそうだ。もう一度言うが何も無かった。
惑星ダムラカと周辺の資源惑星、居住惑星、中継コロニー。そしてデブリすら無い綺麗な宇宙空間が広がっていたと言う。
現場の状況を確認した地球連邦統一政府は惑星ダムラカを中心とする宙域の封鎖を即時決定。そして現在も封鎖は解除されてはいない。
「サードル星系ですか。彼処は今や宙賊から犯罪者の巣窟です。そこにこれだけの艦隊で行くのですか」
「そうだ。だが我々の戦力と諸君達傭兵の戦力がキチンと合わされば問題は無いだろう」
「ケッ。ようは囮になれって言いてえんだろ?そんなに人間嫌いなら自分達でケリつけろやクソエルフがよ」
バーグスとのやり取りを聞いたジャンボは不愉快天元突破していた。いやもう少し我慢しようぜベイベー。
「図体デケーんだから器もデケーのに変えとけよジャンボ」
「んだとゴラァ!それから俺はジャンボじゃねえ!」
「取り敢えず目下の障害は宙賊、犯罪者とマフィアの通行料くらいか。サードル星系の連中が使ってる主要兵器は何ですか?」
「無視すんなクソガキ!」
「俺は十九だ。ガキじゃねえよ。童顔なのは認めるがな」
「その性格も外見同様クソガキと変わらねえみたいだがな」
段々話が脱線して来たがセシリア大佐は大きな咳払いをしながら此方を睨み付ける。だから怖いんだって。
「調べた所殆どが旧式ばかりだ。基本的には政府も周辺自治体もサードル星系とは関わりたくは無いのだろう」
「それでも一定のニーズがあるからな。旧式の兵器を良い値段で商売してる連中は毎日笑顔で札束で誰かしらの頬を引っ叩いてるんだろうな。良いなぁ〜、俺も成金になりたい」
「今時辺境でしか紙幣なんて使わないわよ?」
「昔は札束風呂なんてのも成金の嗜みだったんだよ」
「そうなのかい?随分と不衛生だね」
俺が昔の偏見的で尚且つ合ってるか微妙な知識を教えてると再びブラットフィールド大佐から咳払いが出る。
「改めて諸君達に言う。金は支払った。なら君達傭兵はやるべき事をやれ。何か質問は?」
「はいはーい!臨時ボーナスは入りますか!」
「戦果を出せばそれだけボーナスを入れてやる」
「よっしゃあ!やる気が漲って来たぜ。敵の大部隊だろうが裏切りだろうがぶっ潰してやるよ」
「裏切りとか馬鹿な事言わないでよ。不安になるじゃない」
チュリー少尉の突っ込みを無視しながら、依頼内容を心の中で反芻しながらセシリア大佐の話を聞く。
「それから貴様ら傭兵に前衛は最初から期待していない。前衛を行うのはクリスティーナ・ブラットフィールド大尉以下彼女の部隊が行う。貴様らは溢れた敵戦力を潰せば良い。それさえ出来なければ貴様らは本当の無能になるが。説明は以上だ」
説明を終えたセシリア大佐は退室して行く。代わりにクリスティーナ大尉が俺達の前に立つ。
「一応自己紹介だけさせて頂くわ。私はクリスティーナ・ブラットフィールド大尉よ。これだけ言っておくわ。私達の足を引っ張るような真似だけはしないで頂戴。それだけよ」
そう言って他のエルフ共々さっさと退室して行った。
「なんつーか。これから色々と精神的に滅茶苦茶苦労するんだろうなと思うのは俺だけかな?」
残ってる傭兵四人に聞いてみると誰からも返事は無く重苦しい空気だけが漂っていた。