表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/282

オペレーション・トゥエルブ・アロー

 間も無くオペレーション・トゥエルブ・アローが開始される。バレットネイターの配置は第一カタパルト。エレンティルトは第三カタパルトに移動している。

 空母の格納庫は広く、格納庫内でABブースターの装着が始まる。


『位置調整を確認しろ!左に十ズレてるぞ!』

『修正良し。接続開始』

『対ビーム撹乱粒子の装着急げ!』

『冷却材の注入開始』

『予備の推進剤は要らんぞ。重量は出来る限り軽くするんだ。被弾させる確率を少しでも減らしてやらんと』

『機体の最終チェックはしたのか?してないなら直ぐにやるんだ!』

『安全ヨシ!確認ヨシ!』


 ABブースターがゆっくりとクレーンを使い上昇。その間にバレットネイターの背部の接続ユニットが開く。そしてABブースターがゆっくりと接続される。それと同時に各接続ユニットの確認が始まる。


「ABブースターの接続を確認。各部システムチェック」

「システムチェックオールグリーン。ABブースター下部ハッチ開放を確認」

「遂にN弾の搭載か。人生で体験する事の無い事だからな」


 そしてN弾がABブースター内に搭載される。モニターからもN弾搭載の文字と投下スイッチが表示される。


「この文字も二度と見る事は無いんだろうな。ネロ、これをスクショしといてくれ」

「了解しました。ライブラリーに保存しました」

「分かってるじゃないか。加工無しのマジモンのスクショだからな。某掲示板なら自慢出来るぜ」


 実は掲示板は多少の形を変えながらも続いていた。掲示板には様々な情報が流れており、辺境の宙域の出来事や企業の汚職なんかも流れている。大抵はデマ情報が多いが、世の中には活動的な物好きが居る。

 そんな厄介な連中が無遠慮に現場に現れては煙たがれているのは仕方ない事だ。だがそんな連中を支持してるのが掲示板利用者なのは変えようの無い事実。

 全宇宙に住む人々にとって厄介者であり便利屋と言った所だ。


「もしかしたら、既にこの宙域に居るのかもな。ライブ映像が流れてたりして」


 大抵の事なら自治軍か保安部隊が直ぐに対処する。だが世の中にはギフトを使い上手く切り抜けてる連中も居る。

 彼等はそこら辺の傭兵やバウンティハンターよりよっぽど強いのだ。


『作戦開始三分前。間も無く出撃になります』

「ヴィラン1了解。ジェイド1(翡翠瞳の姉妹)、互いに上手く切り抜けようぜ。帰還したら乾杯だ」

『足は引っ張るなよ』

『うん、頑張ろうね』

「お前ら本当に姉妹かよ。言ってる言葉が真逆じゃねえか」


 そして武装も変更する事にした。恐らく対処出来るのはα型のみ。他のを撃破するにしても大型の武装になる。そうなると重量が嵩み機動力低下に繋がる。

 唯でさえ機動力が大事な作戦。余り重量が無くα型を蹴散らせる武装がベストだ。


「二連装30ミリガトリングガンと四連ショットガンで行くか。そして肩部にも追加弾倉をベルト給弾で装備すれば、ずっと俺のターンの出来上がりだ」


 兎に角前方の敵を倒して進路を作る。本当は45ミリの方が良いのだが、弾が余計にバラけるだろう。なら確実にα型を倒せる武装を選択するだけだ。

 しかし武装を装備しながら、これで良いのか?と自問してしまう。


「これが主人公クラスの奴だったらどんな武装にするかな?やっぱり大型も狩るだろうから大口径の武装か?もしくは浪漫満載の近接オンリー?いやいや、俺は其処まで変態じゃねえから」


 でも浪漫を追い求める者として逃げて良いのだろうか?だが今はおふざけして良い雰囲気では無いし。


「くっ!実用を取るか浪漫を取るか。こんな所で難題が現れるとは!」


 悩ましいと考えてると機体に振動が走る。モニターを見れば既にエレベーターが上がっており宇宙空間へと移動していた。

 未だに戦闘は継続しておりマザーシップは衰える気配は無い。寧ろ此方の被害は増えて行く一方だ。見える範囲でも被弾し過ぎた艦艇が後方へ後退して行くのも見える。


『ヴィラン1へ。作戦開始六十秒です。カウント合わせ願います』

「了解した。さて、地獄への片道切符だ。帰り用の天国行きの片道切符も用意しねぇとな」

「マスターならきっと大丈夫です。AIの私が言うのも何ですが、マスターは本番に強いと認識しています」

「へっ、嬉しい事言ってくれるね。なら相棒の期待に応えましょう」


 カウントが三十秒前になった時、各艦隊に残っている最後のミサイルが発射準備が完了する。


『各艦隊に通達。ミサイル発射用意。目標、前方オーレム群』

『データリンク合わせ良し。各艦ミサイルロック完了しました』

『マザーシップに我々宇宙の民の力を見せてやれ!ミサイル発射‼︎有りったけを撃ち込め‼︎』


 そして、あらゆる艦からミサイルが発射される。艦だけでは無い。AWも自衛の為に搭載してるミサイルを発射している始末。

 正に艦隊の総力戦。彼等が作り出すミサイルのカーペットは、セレブや高官を迎える為のレッドカーペットより遥かに贅沢で役に立つ。

 俺達十二機の傭兵の為に作られた花道なのだ。


「ABブースター、メインエンジン点火開始」


 機体後部に装置しているABブースターの二つのメインブースターに火が着く。


「サブブースターの点火を確認。発射まで十、九、八」

「もっとだ。もっと、もっと吹かせ」


 機体を若干下げて位置を調整。他の雑念は全て放棄し、目の前のモニターに映るマザーシップとオーレム群だけに集中する。

 ABブースターもご機嫌なのか非常に心強い振動を俺に与えてくれる。

 周りの兵士達は敬礼をしたり進路指示を出す。


「三、ニ、一、射出開始」

「行くぜ‼︎最後のパーティの始まりだあああ‼︎」


 カタパルトから勢い良く射出される。そしてカタパルトから離れた瞬間に操縦レバーを前に出し、メインブースターとサブブースターを全開にする。


「うおおぉ⁉︎此奴は……中々のGだな。だが、予想よりマシだな」


 見える景色が加速して行く。周りの物が全て後ろに過ぎ去って行く。


「慣性抑制装置のガン積みが効いてる?いや、違うな。少佐殿が何かしたか」


 恐らく抱き付いた時にギフトを使用したのだろう。しかし相手にも効果を与えるギフト。増幅自体は大した事は無いが、効果がかなりレアな可能性が高い。


(伊達に軍のテスト機パイロットじゃねえわな。この借りは必ず返すからな!覚えとけよ!)


 既に喋るのはやめて目の前のモニターに映るオーレムに集中する。

 先程放たれたミサイルが次々とオーレムを撃破して行く。更に対ビーム撹乱粒子も多数散布されオーレムからの攻撃を殆ど防いで行く。

 全ては作戦を必ず成功させる為の行動。それが全てなのだ。


決着(ケリ)を付けようぜ。命を掛けた最高の戦場(パーティ)の中でな‼︎」


 マザーシップを睨み付けながら突撃する。そして本番の第二段階へ突入する。此処から先は自分だけの腕が全てだ。






 十二機のAWがN弾を搭載しながらマザーシップに向けて突入を開始していた頃。他のAW部隊やAS部隊も奮戦していた。


『カナタ1より各機へ。傭兵ばかりに良い所を取られるな。大型は俺達で蹴散らす。連中に少しでも安全な道を作るぞ!』

『カナタ2了解。派手にやらせて貰いますよ!』

『此方カナタ3、後方より二つの熱源接近。恐らく傭兵です』

『ならば目の前のγ型を全て片付ける。男なら気張って行けよ!勿論女もな!』

『『『『『了解!』』』』』


 六機のBD-22フォッカースは編隊を組みながら目の前のγ型に、大型ビームカノンによる波状攻撃を開始。γ型も応戦する形でビーム砲、プラズマ砲による弾幕を展開。

 互いに一歩も譲らぬ戦いが幕を開ける。


『そんな攻撃で止められると思うな!カナタ2吶喊します!』

『カナタ2を援護!いつも通り決めてやれ!』


 カナタ2の操るフォッカースがγ型に吶喊。γ型の対空ビームバルカンの射程に入った瞬間にロケットを発射。

 ロケットに紛れながら大出力プラズマサーベルを展開。


『貰ったああああ‼︎』


 そのまま懐に入り込み、γ型の真ん中辺りに大出力プラズマサーベルを突き立てる。γ型の船体を一瞬で貫き、そのままのスピードで斬り裂く。


『まだだあああ‼︎このまま狩り尽くす‼︎』


 カナタ2は速度を墜とす事なく次のγ型を斬り裂いて行く。更にカナタ2に続く様にγ型に取り付き、至近距離から大型ビームカノンを撃ち込む。

 そして粗方のγ型を始末した時に接近警報が鳴る。


『全機回避しろ。奴等に道を譲ってやれよ』


 そして直ぐ側を駆け抜ける二機のAW。それを見たカナタ隊は見惚るか口笛を吹いたりしていた。


『速いな。あの速度のままマザーシップまで突っ込むのか。正気じゃねえな』

『当たり前だろ。正気じゃない奴等が参加しただけさ。さあ、俺達の出番は此処までだ。補給と整備の為に一時帰還する』

『了解です。我々も欠員は居ませんが、機体は結構被弾してますからね』

『でも流石フォッカースよね。正面装甲なら巡洋艦クラスなんだから』

『確かに。唯カナタ6、側面も随分と被弾してるみたいだが?』

『うぐ。実はサブスラスターも二つ止まっちゃってるの』

『おいおい、尚更帰還するぞ。此処で戦死したら悔やむに悔みきれんからな』


 カナタ隊は全機が悠々と帰還する。惑星ソラリスは自分達が所属していた場所だ。だが幸いにも身内に不幸が出なかった。

 だから彼等は悲視する事をしない。恐らく自分達は幸運に属している部隊。ならその幸運にケチを付ける訳にはいかない。


『ソラリスを……皆んなの仇を頼む』


 例え金で動く傭兵であろうとも、命を掛けてやる度胸は驚嘆に値するからだ。

 だから敬意を持って彼等を見送るのだ。






 同時刻では他の傭兵やバウンティハンターも報酬以上の働きをしていた。

 マザーシップによりN弾が全弾迎撃されたのを見て、彼等は恐怖した。マザーシップは下等生物の親玉。つまりマザーシップも所詮は下等生物だと認識していた。

 しかし結果は連邦、帝国が共闘している艦隊すら押されているし。然も弩級戦艦にも多大な被害を受ける姿を見てしまう。

 この状況下で銭勘定をしている余裕は無い。既に連邦、帝国の艦艇やAW部隊を消耗している。つまり数千、いや……数万以上の将兵が戦死していると見て良いだろう。最早一人一人が奮戦せねば耐え切る事は出来ない。


 一機のZM-05マドックが五体のβ型に奇襲を掛ける。最初に右肩部の250ミリキャノン砲で先頭のβ型に攻撃。更に左肩部の小型ビーム砲で中央のβ型を撃ち抜く。

 幸いどちらもシールドが無くあっさりと撃破する事が出来た。だが残った三体のβ型が対空ビームバルカンで迎撃に出る。

 しかしマドックのパイロットは多目的シールドを構えながら回避運動を取りながら突撃。そして60ミリショットアサルトの射程まで潜り込む。幾つか被弾はしたが戦闘継続に支障は無く、そのまま狙いを絞りトリガーを引く。

 60ミリショットアサルトの連射は高く、あっと言う間に一体をバラバラにする。そして至近距離での240ミリキャノン砲と小型ビーム砲で残りのβ型を始末する。

 しかしオーレムはまだ攻めてくる。倒しても倒しても次から次へと現れて来る。γ型などの数は多少は減っただろうが、α、β型は減ってる気配は無い。


『く……まただ。まだ、俺はやれる』


 そして残弾と推進剤を確認して再びオーレム群に攻撃を開始。すると別の味方部隊がオーレム群に攻撃を行う。


『よう、弾薬は必要かい?』

『ああ、まだまだ足りないくらいだ。だが、お陰でもう少しだけこの地獄に留まれそうだ』

『物好きな奴だぜ。だが気に入った。好きなだけ持ってけ』

『この借りはオーレムの撃破数で返す』


 そして自然と別の傭兵部隊と共に共闘する。既にこの戦場に居る全ての者達が戦友なのだ。

 ZM-05マドック、ZC-04サラガン、ZD-06ヘリオスの三機が上手く連携しβ型を撃破して行く。FA-11ヘルキャットの編隊がα型の群に突っ込み囮となり引き付ける。そしてTZK-9ギガント、TZG-10ベヒモスの重装備部隊が後方支援で的確に撃破して行く。

 機動部隊に負けじと艦隊も最後の力を振り絞る様に砲撃を継続する。



 そう、この戦場で脇役など居ない。居ないのだ。



『後方から高速で熱源二つ接近。恐らく連中だ。派手に見送ってやろうぜ』

『頼むぜ翡翠瞳の姉妹!アンタらに大金賭けてるんだからな!神様、仏様、姉妹様‼︎』

『こいつ本気で祈ってやがるぜ。つまり姉妹は脱落か。可哀想にな』

『どう言う事だゴラァ!』

『来るぜ。命をクレジットに変換した大馬鹿野郎共だ』


 そして直ぐに二機のAWがABブースターの光跡を残しながら彗星の如く駆け抜ける。そんな彼等を見送りながらも戦闘は続く。


 彼等が帰還する事を信じて。


『頼むぜ。俺は大穴狙いなんだからな』

『本気かお前?今回の報酬はチャラになったな。ご愁傷様』

『まだ始まってねえだろ!頼むぞキサラギって奴!俺に大金を恵んでくれよ!』






 見える景色が光の速度で過ぎ去って行く。マザーシップも徐々に大きくなって来る。此処まで来たら後は前に進むのみ。


「間も無くオーレム群と接敵。N弾の臨界開始」

「ジェイド1!聞こえるか!俺が前に出る!しっかり気張れよ!」

『ジェイド1……了解した。其方こそ、墜ちるなよ』

「減らず口が言えるなら上等。行くぜ!死神とダンスだ!」

「お供します」


 ジェイド1とネロの心強い言葉を聞いて前方のみに集中する。徐々にオーレムの数は増えて進路が塞がり始める。その邪魔なオーレム群を二連装30ミリガトリングガンと四連ショットガンで蹴散らしながら前に進む。


(ギフト発動。どのルートなら生き残れるか)


 ギフトを使い三秒先の自分の位置を常に確認。どのルートで行けば良いのかが分かる。だがギフトは万能だが万全では無い。想定内の事だが厄介極まり無い存在が居る。

 マザーシップ。奴が再び動き出す。N弾を抱えた俺達を近寄らせない為に。マザーシップは自身の持てる全てを使う。


『マザーシップからの攻げッ⁉︎』

『クッ‼︎しまっ⁉︎』


 マザーシップから放たれる様々なビーム、プラズマによる弾幕。更にN弾を確実に消し飛ばす為の大出力ビームが此方に襲い掛かる。

 回避をする前にビームの濁流に飲み込まれる者。回避した先にγ型が居て衝突する者。誰かが墜ちる度にN弾による爆破が起きる。

 更に他のオーレムも迎撃を開始。更に濃い弾幕が形成される。


「警告、前方三時方向よりγ型多数接近。対ビーム撹乱ミサイル発射」


 前方に二発の対ビーム撹乱ミサイルが発射され、対ビーム撹乱粒子が散布される。焼け石状態だが無いよりマシなのは間違いない。


(連続してのギフト使用。もってくれよ!俺の脳味噌!)


 唯でさえ脳と精神面で負荷を受けるギフト。更に数え切れない不確定要素は直ぐにギフトの容量の限界値に迫る。

 未来視はあくまでも様々な要因が合わさり予想された未来視に過ぎ無い。だから本物の未来と言う訳では無い。普通の戦場なら多少の誤差なら問題は無い。だがこの戦場は普通では無い。何が起こるか分からない。


「マザーシップは……遠いなぁ」


 モニターから見えるマザーシップは大きく見えるのに遠い。


「警告。マザーシップより高熱源を確認。来ます」

「くぅッ‼︎」


 ABブースターと機体を無理矢理動かす。その瞬間、未来視が大きく変わる。予想外の行動は精神面に対する負担が大きい。直ぐに新しい未来視を見せようとするギフト。その負担を受ける器が精神な訳だ。


(無理……なのか?俺には……荷が重過ぎたか)


 トリガーを引きα型を撃破しながらも弱気な自分が自身に向けて囁く。そして、ふと思い出す。



 こんな時に思い出したくない忌まわしい記憶。



 愛する人を失った時の記憶。



 モニターから見た彼女の表情。彼女に向けられた敵AWに搭載されていた中口径グレネード砲。機体を動かそうにも動かす事が出来無い絶望感。



 だから手を伸ばした。モニターに映る君に向けて。



 最後、どんな表情をしていたのか思い出せない。思い出す前に爆炎の中に消えて行くから。



(フッ、冗談……キツいぜ。思い出す前に死ねるか)


 荒ぶる未来視の中を勘だけで駆け抜ける状況。遅かれ早かれ死ぬしか無い状況。

 だから足掻くのだ。死神が鎌を振り下ろすなら、俺は彼女から貰ったマグナムを使って撃ち返す。


(消えろ邪魔(弱気)死神(自分)。切り抜けるにはギフトしか無いか)


 あの時に受けた感情を抱えたまま死ぬのは御免だ。何より、このまま逝く訳には行かない。

 格好悪く死ぬのは頂けないからな。あの世で見ている仲間達に失望されてしまう。

 何より、俺の背中を追い続けたレイナを悲しませてしまう。

 良い男として、それだけは見過ごせないんだ。


「俺の全てを使って……未来を視せろおおお‼︎‼︎‼︎」


 何かが頭を侵食する感覚に陥る。しかし視界の先に見える紅いラインが俺を導き始める。

 しかし視界が徐々に赤くなり口の中に鉄の味がする。だがそんな些細な事は気になる事が無い。

 紅いラインに誘われる様にオーレム群の中を突き進む。


「警告。オーレムの数の測定不可能領域に入りました」

『このルートは……くぅ!弾幕が濃過ぎる!』

『フラン!数が多過ぎて捌き切れない!』


 周りの声が何処か遠い存在に思える。モニターに映るビームとプラズマの弾幕。その弾幕の間をギリギリで抜けて行く。

 マザーシップも此方に向けて今まで以上の大出力ビームと大出力プラズマを使い迎撃を行う。


『うわああぁああ⁉︎⁉︎』

『此処まで来てええぇえ⁉︎』

「マザーシップまでの距離残り1/4。残存二機」


 数が減り遂に二機のみとなる。つまり俺とジェイド1しか生き残っていない。

 しかし神様って奴はつくづく人間と言う生き物が嫌いらしい。余程悲劇的な物語を視聴したい様だ。


『此方ジェイド1!ABブースター被弾!速度低下!これ以上着いて行けない。すまない、離脱する』

『ヴィラン1、無理はダメ。必ず生きて帰って!』


 ジェイド1は一発の対ビーム撹乱ミサイルを此方の前方に向けて放ちながら戦線を離脱。恐らくエヴァット姉妹なら無事に切り抜けれるだろう。


「目標捕捉。N弾発射用意」


 既にマザーシップは目と鼻の先の距離に入る。マザーシップからはα、β型が射出され此方の進路の邪魔をする。更に多数の対空ビームバルカンがマザーシップより展開。

 だからマザーシップの表面ギリギリまで迫り目標の場所まで突っ込む。その間も前方に向けて弾幕は展開し続ける。

 ビーム、プラズマが次々と此方を狙う。幾つもの警告がモニターに映し出され、レーダーは既に使い物にならないくらい赤く染まってる。


 だが、俺にとって何一つ問題は無かった。


(最高だ。俺は今、最高の時間を過ごしている。誰よりも高みに居るんだ)


 翡翠瞳の姉妹の背後に付いて行き、共闘した時以上の高揚感。自分の神経が研ぎ澄まされ全てを把握しているかの様な万能感。既に頭と身体の痛みは無い。今は赤い視界の中で紅いラインに沿って行きながら目標へ突き進むのみ。

 マザーシップも身の危険が迫るのを理解しているのだろう。だから此方に向けて集中砲火を行う。


 だが最早問題は無くなっていた。何故なら目標の場所に辿り着いたのだ。


「N弾発射」


 ネロの言葉と同時にABブースターからN弾が投下される。そしてN弾に装置されてるミサイル部分が点火。一気に目標となるエクスターミ収縮砲によって出来た風穴に向けて飛んで行く。

 するとマザーシップとオーレム群からの攻撃が全てN弾に向けられる。しかしN弾搭載ミサイルは頑丈で高性能AIによって確実に目標に突き進む。

 マザーシップとオーレム群がN弾に夢中なのを無視しながら俺は離脱を開始。


 だが事が終われば一気に負担となった物が身体全体に伸し掛かる。


「これは……ガハッ、ハァ、ハァ……キツいなぁ」


 赤い視界が徐々に暗くなる。最早何処を飛んでいるのか分からない。それでも前に向かって飛び続ける。


「N弾目標に到達。爆破まで三、二、一、直ちに離脱して下さい」


 誰かの声が聞こえる気がした。だが、もう力が入らない。


(あぁ……見える。あの光の先にレイナが……皆んなが俺を待ってる)


 俺は無意識に操縦レバーを前に出す。そして光に向けて手を伸ばす。


「N弾がマザーシップ内部での爆破を確認。対ショック制御開始。マスターのバイタル低下を確認。生命維持装置作動開始。これより制御を此方で行います。宜しいですね?」


 目の前の光が徐々に離れて行く。ダメだ。それではダメだ。あの先に行かなくてはダメなんだ。


(もっと……もっと……速く…………はや……く……)


 更に操縦レバーを前に出す。そして最後に見た光景。



 それは綺麗で蒼く長い髪を持つ女性が此方に手を広げて待っていた姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱ何度見ても鳥肌っべぇわ…
[一言] 中盤の小節の間の 『まだ始まってねえだろ!頼むぞキサラギって奴!俺に大金を恵んでくれよ!』 の所、この人だったのかw。 今後のストーリーで登場してこないかなw。
[良い点] 追加ブースターでの突撃ミッション!絶望的な敵物量に次々離脱していく味方機!ほんと大好きすぎる展開でした。 某ゲームの追加ブースター使用ミッションのBGMが脳内で流れておりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ