オペレーション・トゥエルブ・アロー 説明概要
ストックが無いと言ったな。あれは本当だ(本当です)
シュウ・キサラギ准尉がシミュレーター訓練に勤しんでる時、クリスティーナ少佐はセシリア准将に抗議していた。
「何故です!セシリア准将!デルタセイバーの性能ならマザーシップまで辿り着ける可能性は一番の筈。それなのに何故参加が許可されないんですか!」
『アレは作戦とは呼べる物では無い。何より我々は傭兵に属する組織では無い。歴とした軍隊なのだ。仮に参加許可を出した所で連邦が拒否する可能性は高い』
「しかし、これ以上マザーシップを野放しには出来ません。被害は更に広がるだけで無く、最悪私達の故郷にも襲撃して来る可能性だってあります!」
クリスティーナ少佐は作戦参加許可が下りない事に若干苛立っていた。しかしセシリア准将の言い分も理解はしていた。自分達はエルフェンフィールド軍と言う確かな独立国家の軍隊であると。そして自分が搭乗しているデルタセイバーも軍の所有物である事も。
だからこそ平然と死にに行く様な真似をするアイツを放ってはおけない。此処で何もしなかったら絶対に後悔するから。
「では私達は何もせずに唯指を咥えて見ているだけですか?私は断固反対です。私は私に出来る事をします。例え、それが軍規違反だとしても」
デルタセイバーを反転させて彼の元へ行こうとする。
『待つんだクリスティーナ少佐。それ以上勝手な行動は許可出来ない。デルタセイバーは重要機密の塊だ。失えば今まで得て来たデータが全てが無駄になる可能性が高い。最悪此方から機体のコントロールを奪う事になる。私はそんな事をしたくは無い』
「ッ!それなら私はデルタセイバーから降ります!いえ、軍を抜けます!」
『良い加減にしなさい‼︎クリス‼︎貴女だけが辛いのでは無い。一番辛いのは連邦軍とソラリスの被害者達なのだ。それを部外者の私達が要らぬ正義感を振りかざすなど以ての外だ』
セシリア准将の一喝。クリスティーナ少佐は一瞬だけ身を縮めてしまう。しかし次に発せられた言葉は怒りの声では無かった。
『私は……軍人として、家族として、お前を失いたくは無い。軍人として言うべき事では無いのは理解している。だが、今回の作戦は絶対に参加許可は出来ん』
「……姉さん」
『頼む。余り無茶な行動はしないでくれ』
「……私は一度敵艦隊に吶喊した事も有るんですよ?然も超級戦艦を相手にしながら」
『アレはお前の腕を信用していた。そして成功すると判断したに過ぎん。だが今回の相手は桁が違う。マザーシップがN弾搭載ミサイルを撃墜した以上、生半可な攻撃能力では無い』
軍人として。そして、家族としてクリスティーナ少佐を止めるセシリア准将。
セシリア准将の行動は決して褒められる事では無いだろう。だが誰かを思う気持ちは皆が持っている物。何より家族を見殺しにしたいと思う程、セシリア准将は冷酷にはなれない。
「……分かりました。私は作戦には参加しません。ですが、私は別のやり方で彼を手助けします」
『別のやり方?一体何をするつもりだ?』
「姉さんが私を心配する様に、私も戦友を見捨てたく無いだけです」
『……まぁ、良いだろう。許可しよう。だがくれぐれも作戦参加だけはするな。もう一度言うが勝手な行動を取ればデルタセイバーの制御を此方でコントロールする。以上だ』
「了解しました。では、失礼します」
セシリア准将は帽子のツバを持ち、位置を整えながら通信を切る。そして通信が切れたのと同時にクリスティーナ少佐は深い溜息を溢す。
「はああぁぁぁ……怖かったぁ。全く、私がこんなにも怖い思いをしたのに彼奴はきっと、きっと……」
自分が姉であるセシリア准将に睨まれながら怒鳴られたと知ればキサラギ准尉はどう反応するか想像する。
すると此方に人差し指を向けながら、馬鹿にした態度でケラケラと高笑いする姿が思い浮かんでしまう。
何かの間違いだと思い首を横に振るが、普段の態度と言動から判断するとあながち間違いでも無いと確信する。
「何か、ムカついて来たわね。後で絶対に謝らせるんだから。だから……絶対に生きて帰って来なかったら承知しないんだから!」
クリスティーナ少佐はデルタセイバーをCVペールレールに向けて移動させる。途中邪魔をしてくるオーレムを纏めて消し飛ばしながら。
因みにこの時キサラギ准尉は、シミュレーター中でくしゃみを一つして横から突撃して来たα型とぶつかる一秒前。
同時刻。同じ戦場に居たもう一機のエース。武器企業QA・カザロフ所属のダークブルーのAWのパイロットであるレイナは雇主と通信をしていた。
『作戦に参加したい?ダメダメ。絶対にダメだよ。レイナ、君は大事な大事な商品なんだ。こんなつまらない場所で失う訳には行かないんだ。分かるよね?』
「はい、理解しています。しかし、マザーシップを撃破しなければ商売が難しくなると思います」
『成る程ねぇ。確かに君の言う事は一理ある。だが……アレを処理するのは三大国家に任せれば良い。きっと彼らが面子を掛けて処理するさ』
通信越しに映る少年。幼さがまだ抜き切れてない男の子だが、見た目には似合わない薄笑いを浮かべていた。しかし、子供特有のつぶらな瞳は無く、蛇の様に鋭く冷酷な雰囲気が滲み出ていた。
『今、我が社はダムラカとセクタルで受けた損失を補填してる最中だ。安く無い金額と兵器を与えたと言うのに、リリアーナからは満足な技術データを取り出す事が出来なかった。全く、さっさと此方に引き渡してくれれば良かった物を』
「しかし、このまま放置すれば顧客に要らない不信感を与える可能性も有ります」
レイナの言う顧客とは三大国家を意味している。しかし雇主の少年は更に笑みを浮かべる。
『構わないよ。ピンチはチャンスに変わる。ピンチが大きければ大きい程、チャンスもまた大きくなる。寧ろ僕は、今回の戦闘では敗北して欲しいとすら思っているよ。その時は君達の出番になるからね。誰もが絶望の渦に飲み込まれた時、希望の姿を見せながら強敵を倒す。王道で大衆が好むストーリーの完成さ』
両腕を広げ演技を入れながら無邪気な表情で楽しそうに語る少年。そんな雇主を見て僅かに眉を顰めるレイナ。しかし、その表情の殆どは動く事は無い。
そんなレイナに気付いてるかは分からないが、少年は話を続ける。
『それに、現在共和国から四個艦隊が増援として送られている。そして連邦と帝国からも更に増援が送られる手筈になっている。流石に僕としても次の戦いではマザーシップにはご退場願いたいからね。さぁ、次の戦いが本番だ。直ちに戻りなさい。以上だ』
少年は返信を聞く事無く笑顔を作りながら通信を切る。そして一人になったレイナは小さな声で呟く。
「貴方が居たなら、きっとこの作戦に参加してた。けど、もう貴方と逢う事は無い」
宇宙は広過ぎる。正規市民なら所属する国の役所に行けば再び出会える可能性は有る。しかし、ギルドだけの所属となると話は変わる。
傭兵ギルドなどは依頼を受け取り、仲介料を貰いながら所属者達に渡す機関。所詮は仲介者の立場に過ぎ無い。それに個人への連絡は基本的には受け付けてはいないのだ。
それこそ依頼を共に受けて個人で連絡先を交換するしか無いのだ。
「それに……今の私を見て欲しく無い」
レイナはパイロットスーツに包まれた自分の手の平を見る。普通の手に見えるが、スーツを脱けば自身の身体が全くの別物だと言う現実を突き付けられる。
普段はタケルを心配させない為に気にした素振りは見せない。いや、見せる訳にはいかない。きっとタケルは何かしらの無茶をするから。
「もう一度だけ逢いたい……逢いたいよ。けど、逢いたく無い」
静かに目を瞑り僅かな時間だけ過去を振り返る。あの眩しくて誰もが惹かれた、あの笑顔と背中を思い出しながら。
「私、我儘だよね。ごめんね……シュウ」
閉じていた目蓋を開ける。涙を流す事の無い瞳には何が見えているのか。それはレイナしか分からない。
因みにキサラギ准尉はα型とぶつかった瞬間に再びクシャミをしてしまう。機動が大きくズレた先はマザーシップの射線に入る一秒前。
場所は代わって第五艦隊に配属されている傭兵企業シルバーセレブラムは他の傭兵やバウンティハンターを上手く纏めながら戦場を切り抜けていた。
普通なら傭兵同士仲良くは難しいのだが、ジャン・ギュール大佐本人が前線で武勇を見せ付けて強引に率いていた。
ジャン大佐の活躍は目覚ましくα、β型だけで無く、γ型をも瞬く間に単機で全て一人で対処する離れ業を披露する。
本人自身も野性的な渋さが有りながらもイケメン。更に傭兵企業を立ち上げ、軍や民間大企業との太いパイプを持つ事でも有名。ある意味傭兵として大成功している存在として女性陣から黄色い悲鳴が通信越しに飛び交う始末。時々野太い声が聞こえるのは気の所為だと信じたい。
しかし忘れては行けないのがジェーン大尉の存在。女性陣の黄色い悲鳴を聞いて不機嫌になっている……と思いきや?
『素敵よジャン。唯でさえ惚れてるのに、これ以上惚れさせてどうするの?』
と言った具合に甘い声を出しながらジャン大佐に話し掛けていた。恋する女だから盲目な時だってあるさ。しかし当の本人は若干不貞腐れていた。
「はぁ、俺も参加したかったぜ。あんな無茶苦茶な作戦だけなら参加しねえが額がデカいからなぁ。それに絶対にキサラギは参加してるぜ。クソ、今度無理矢理飯でも奢らせるか」
『ダメよジャン。貴方はシルバーセレブラムの団長なんだから。もしジャンが死んだら私も直ぐに追い掛けるもの』
「分かってるさ。流石に無茶が出来る立場じゃねぇのは理解してる。理解はしてるがな」
無謀な作戦なのは理解している。ABブースターを装着しN弾を抱えながらマザーシップへの強行突入。然も装備出来る武装は限られてる始末。
正に自殺行為に等しい作戦だ。だが世の中には物好きも居る。特にAWが好きだから傭兵なんて自らクソッタレの世界に入った大馬鹿野郎だっている。
「キサラギは絶対に参加してんだよなぁ。俺がキサラギの立場だったら絶対参加するし。何より報酬が美味過ぎるし。クソ、上に立つのも厄介な事この上ないぜ」
時々思う。キサラギの様に自由に近い立場に戻れたらと。かつて自分も一人の傭兵として戦場を渡り歩いた。そして戦友が出来てチームを作り、仕舞いには傭兵企業を立ち上げた。
全て順風満帆な人生なのに、キサラギが羨ましいと思ってしまう。
(無い物強請りって奴だよな。たっく、俺はつくづく面倒臭い男だな)
だからこそジェーンの存在は有難かった。ジェーンが居なければ、もっと早くに全てを投げ捨ててただろう。そして最後には危険人物として懸賞金が掛けられてたに違いないと。
自分の性格を嫌と言う程良く理解している。だからこそ耐えられるのだ。愛する女の為に。
「ジェーン、俺は一旦補給に入りながら自分を落ち着かせる。良いか?」
『勿論。ジャンの気が済むまで構わないわ』
「……そうか。悪いな」
『良いのよ。だって、私は貴方を愛してるんだから』
そしてジェーン大尉の操るスパイダーは仲間を引き連れて前に出る。彼女達は既に歴戦の傭兵集団。生半可な事では落とされる事の無い安心感に、自身の心に余裕が生まれる。
「後でキサラギに自慢してやるか。ジェーンが宇宙一良い女だって事をな」
きっと長い時間キサラギを拘束するだろう。最初は文句や茶々を入れるが最終的に静かになりながら話を聞く筈だ。勿論ゲンナリした表情でな。
ジャン大佐は口元に若干の笑みを浮かべながら戦艦ガーディに帰艦するのだった。
因みにキサラギ准尉はマザーシップから放たれた極太のビームを回避しようとした瞬間、再びくしゃみをして回避が遅れる。そして撃墜判定が下される一秒前。
⬅︎To Be Continued
シミュレーターで間抜けな撃墜判定を受けた俺は悪態を吐きまくる。
「畜生、くしゃみが止まらねえ。誰だよ俺の噂してる奴らは!俺はピタ○ラスイッ○やってる暇ねぇんだよ!」
「大丈夫ですか?マスター。一度医務室に行き医療用ナノマシンを打つ事を推奨します」
「この前の身体検査でやったよ。全く、空調が壊れたか?」
「空調システムに異常はありません」
「じゃあ誰かが噂してるな。大方、クリスティーナ少佐とか社長が文句言ってんだろ。後はジャンもだな。ジャンは絶対に今回の作戦に参加出来ないし」
「それはジャン・ギュール大佐がシルバーセレブラムの団長の立場だからでしょうか?」
「そらそうよ。上の立場になれば成る程自由とは無縁になるのさ。あぁ、傭兵の癖に束縛されるジャン君。可哀想になぁ。今度鼻で笑ってやろうかな」
下らん事を言いながらシミュレーターを再スタートさせる。もう作戦開始まで時間は無い。
既に二基のABブースターはペールレールに移されて、調整が急ピッチで進んでいる。恐らく作戦開始まで一時間と掛からない筈だ。
『キサラギ准尉。来客が来ています』
「来客?この忙しい時に誰だよ」
『エルフェンフィールド軍所属のクリスティーナ・ブラッドフィールド少佐です』
「会っても無視しても文句言われそうだな。と言うか良くペールレールに着艦させたな。この空母は連邦の艦だろ?いつから多国籍軍になったんだよ」
尤も、俺がどうこう言った所で意味など無い。連邦には連邦なりの考えがあるのだ。其処に当たりもしない予想を考え、悦に浸る程暇は無い。
暫く待つとエレンティルトの隣にデルタセイバーが収納される。何となく機体を見比べて見る。バレットネイター、エレンティルト、デルタセイバーと並んでいる状況。多国籍軍と比喩で言ったが強ち間違いでは無いなと感じてしまう。
デルタセイバーのコクピットが開き中からクリスティーナ少佐が出て来た此方に顔を向ける。俺は適当に手を振り挨拶する。するとクリスティーナ少佐は此方に向かって無重力を生かし、此方に向けて飛んで来る。
「へいへ〜い、そこの彼女〜。今暇〜?俺超忙しいんだよね〜っと?少佐?この展開は急展開過ぎませんか?」
昔のナンパ風にクリスティーナ少佐に話し掛けるが、無言のまま俺に抱きついて来た。そのまま慣性の力を受けてゆっくりと後ろに下がって行く。
「あのー、クリスティーナ少佐殿?ちょいと展開が早く無いか?」
「……い、良いから。黙ってなさい」
「そう言われてもなぁ。うーん……そうだ!こうしよう。こうした方が様になるだろ?」
俺はゆっくりとクリスティーナ少佐を抱き締め返す。周りからの嫉妬に近い視線を感じる。だからこそ、そいつらに向けて満面の笑みを向けてやる。
しかし、クリスティーナ少佐の反応は違った。抱き締める力を強くして来た。
「中々情熱的だな。だが、うん……ちょっと強くない?」
反応は無い。唯、クリスティーナ少佐の抱き締める力が増して来る。それはそれは息苦しくなる程に。
更に腕だけで無く、脚にまで絡み付いて来る始末。最早色気もへったくれも無い姿にクラスチェンジする。
「く、苦しい。ちょっと離れろ。今直ぐ離れろ」
「我慢して頂戴。もう少しだけ……もう少し」
「ええ……嘘……だろ。おい、マジで苦じい」
結局、解放されたのは凡そ五分程経った頃だ。最早周りからは同情の視線しか無い。てかクリスティーナ少佐の腕力予想以上に強かったんだけど。全然ピクリとも動け無くなってたし。
「ゼェ、ゼェ、うえっぷ。吐きそう。全く、作戦前に何してくれちゃってんの⁉︎」
「元気そうで良かったわ。それじゃあ、作戦の成功を祈ってるわ」
「おい、何真面目な顔して敬礼してんだよ。俺の質問に答えろよ!」
「大丈夫よ。直ぐに分かるから」
「はい?直ぐって、もう作戦始まる三十分前くらいだぞ!て、おい!無視か!無視なのか!行っちゃった。何がしたかったんだよ」
結局、唯恥ずかしい目にあっただけである。しかし、クリスティーナ少佐が意味も無く抱き付いて来るだろうか?然も衆人の前にも関わらず。
「はぁ、何か無駄に疲れた。あ、アラームが鳴り始めたか。時間だな」
ペールレールの艦内にアラームが鳴り響き俺は急いでバレットネイターに戻る。そしてクリスティーナ少佐を見れば既にデルタセイバーの中に入っていた。
「さて、作戦に集中しねえとな。一度限りの大博打。勝てば英雄、負ければ無駄死にだ。燃えて来たぜ」
俺は気合を入れ直しながらコクピットに入って行く。それと同時にエヴァット姉妹から通信が来る。
「言いたい事は分かるが、茶化したら許さねぇからな」
『随分と熱い抱擁を交わしていたな。全くもって羨ましいとは感じなかったが』
『今の人は恋人なの?』
「茶化すなって言っただろ?後、恋人じゃねぇよ。本当に何がしたかったんだか」
『別に貴様が何をしようが構わんが、作戦中に気を抜くなよ』
「当たり前だろ。一千万クレジットの任務なんだ。気なんて一切抜かねぇよ。そっちこそ武者震いして操作ミスするなよ」
『ふん。余計なお世話だ』
『うん。気を付けるね。所でむしゃぶるいって何?』
「お姉ちゃんに聞きな」
『ねぇフラン、むしゃぶるいって?』
『え?えっと……』
過去に存在していた言葉や諺を未来の人達は殆ど知らない。恐らく地球人すら知っている人は少ないのでは無かろうか。
そして再び別口から通信が入る。通信先は地球連邦統一軍、第一艦隊旗艦デラン・マキナからだ。
『地球連邦統一軍、参謀部所属メイガン・デロラ中佐だ。これより【オペレーション・トゥエルブ・アロー】の作戦概要を説明する』
そしてモニターに映し出されたのは男性士官だ。参謀部所属なだけあって実に軍人らしい見た目をしてると感じた。エヴァット姉妹も既に百合百合した雰囲気は無く、傭兵の顔になっていた。
『先ず始めに状況の確認を行う。マザーシップによるN弾迎撃により我が艦隊の戦線は後退を開始。後退をしながらも戦線は維持はしている』
モニターには艦隊を中心とした図面が表示される。現在もマザーシップより次々とα、β、γ型が射出されている。特にα、β型の射出量は撃破してる時より多く排出されてる始末。
『しかし我々上層部はこれ以上の戦線維持は困難だと判断。よって本作戦の成否によって我が軍の動きが大きく変わる事を念頭に置いて貰う』
成功すれば戦闘続行。失敗すれば敗走。もし失敗すれば三大国家のプライドはズタズタだ。最悪な事を想定すると連邦が負ければ連邦に属する独立国家群が離れる可能性は高い。いや、寧ろ別の同盟国家が出来るかも知れん。
更なる巨大国家の誕生。しかも中身は連邦主体と来ている。
「帝国と共和国は大喜びだろうよ。連日パーティ開催しちゃうな。きっと綺麗な姉ちゃんが大勢居るんだろうなぁ」
『続いて作戦の説明を行う。本作戦の主目的は【マザーシップの撃破】である。作戦内容は実に単純だ。始めに十二機のAWにABブースターを装着。N弾をABブースター内に格納をした状態でマザーシップへ向けて突入する』
作戦概要が表示される。各艦隊からAWが展開される流れになっている。やる事は実に単純だが、実際にやるとなると難易度は跳ね上がる。
『第一段階として諸君達の出撃と同時に各艦隊から最後のミサイル攻撃を開始。艦隊のミサイル保有数は既に20%を切っている状態となっている。最悪、艦隊に更なる被害が出る可能性は非常に高い。しかし、それでも君達の援護を最優先とした結果だ』
艦隊から十二機のAWが展開されるがオーレム群を包む様な配置で突撃をする。
『更にエクスターミ収縮砲の充電を開始させる。これはあくまでもマザーシップの気を引き付ける為の囮だ。マザーシップは間違い無くエクスターミ収縮砲を撃破する為に攻撃準備に入る筈だ。我々は少しでも作戦成功率を高める必要がある。その為ならエクスターミ収縮砲も使う覚悟が我々には有る』
最初は俺達諸共消し飛ばすかと思ったが、マザーシップの攻撃と防御能力を考えると意味が無いなと考え直す。既にエクスターミ収縮砲は一度防がれているからだ。
『また侵入する際は諸君達はある程度離れた状態になる。これはN弾が爆発した際に巻き込まない為だ』
「はぁん。凡ミスに巻き込まれるのは御免だしな。確かに散らばって行けば問題は無いが」
代わりにオーレムのヘイトを全て自分で処理する必要がある。俺のギフトとテクニックで対処出来るかどうかだ。
『第二段階はオーレム群と接触したのと同時にN弾の臨界を開始。この時にマザーシップによる集中攻撃が始まると予想される。諸君達も知ってる通りオーレムは同士撃ちはしないとされている』
その通りだ。オーレムとの初めての戦闘から今日まで一度たりともオーレムは味方を撃つ事は無い。それを利用してオーレムを盾にして戦闘する事も多々ある。
『しかしマザーシップに関しては例外だと考えて貰う。既にN弾が迎撃された際に多数のオーレムが巻き込まれている。N弾の爆発範囲が大きかったと判断は出来る。だがマザーシップの異端性は諸君達もよく知っているだろう』
オーレムの盾が使えない可能性がある。これが何を意味するのか。答えは簡単だ。
(全く、つくづく此方の予想を裏切ってくれるじゃねぇか。だが……面白ぇ。やってやろうじゃねぇか。もうプライドなんざクソ喰らえってんだ)
俺は後でとある人物達に連絡する事を決めた。最早自分に出来る事は限られている。
『最終段階ではオーレム群を突破後、マザーシップに向けて突入する。この際、攻撃目標となる場所は此処になる。此処は前回の戦闘でエクスターミ収縮砲の直撃を受けた際に出来た大きな傷だ』
惑星ソラリス攻防戦でマザーシップに唯一傷を付けた場所。それは中央より左寄りに掛けた深い傷跡。今も修復されてない所を見ると簡単に修復出来ないのだろう。
もしくは単純に惑星ソラリスからエネルギーを取るのに忙しいのかも知れないが。
『マザーシップの表面でN弾を爆破させた所で撃破は不可能と判断。よって必ずこのポイントにN弾を投入。N弾の投入後、同時に諸君達は直ちに戦線より離脱。N弾の爆発範囲より必ず退避する様に。以上だ。何か質問はあるか?出来る限り対応しよう』
「なら質問だ。武装を変更したい場合は?まさかクレジット払えとか言うなよ」
『此方で全て対応しよう。勿論、対応出来る武器なら可能だが』
「もう一つ質問だ。オペレーション・トゥエルブ・アローって作戦名なんだけど単純過ぎない?十二機で突撃するからだとは分かるけどよ。もう少しネーミングセンス磨いたら?」
『……他に質問は』
「んだよ。無視かよ。これだからユーモアの無い奴はつまんねぇんだよな。まぁ、別に良いけど」
しかし他のメンバーから質問は無かった。作戦は単純だし。結局、自分自身で切り抜けるしか無いからだ。
背後からエクスターミ収縮砲が充電されているが、発射するまで時間は掛かる。仮に中途半端に発射した所で意味は無いから撃たれる心配も無い。
『ではこれで作戦の説明は終わる。諸君達の健闘を祈る』
そしてデロラ中佐からの説明は終わり作戦開始時間が表示される。作戦開始時間まで残り二十分を切っている。
俺は直ぐに翡翠瞳の姉妹に対し秘匿通信を入れる。意外な事に直ぐに出て来たが。
「話が有る。良いか?」
『真っ当な話で手短にならな』
「俺と組まないか?」
『……ほう。てっきり邪魔をするなと言われるかと思ってたが』
通信に出たのは姉のフランシス・エヴァット中尉だ。一応妹のフランチェスカ少尉も見えるが恐らく話が上手く纏まらない気がする。
「まぁ聞けって。ルートを分けてリスクを分散させる。悪い案じゃない。だが全て自分で処理する必要がある」
『ならやれば良い。それだけの話だ』
「ABブースターを装着した状態だぞ?然も武装は限られてるし、身体に掛かるGの大きさは生半可じゃない。慣性抑制装置をガン積みした所で効果は知れてる』
『確かにな。だが貴様と組むメリットが無い』
「あるさ。俺には未来が観える。どうだ?悪くないだろ?」
自分がギフト保有者だと伝える。伝えた事によるリスクはデカいが、この姉妹なら大丈夫だろう。普段から冷たい対応してそうだからな。特に姉の方がな。
『成る程。どのくらい観える?』
「そこは企業秘密だ。それでも聞きたいなら今回の話は無かった事にして貰う。で、どうだ?乗るか乗らないか」
俺にも譲れない物はある。仮に今後、翡翠瞳の姉妹と敵対する可能性もあるのだ。全てを曝け出すつもりは無い。
少し考えてる素振りを見せる。すると妹のフランチェスカ少尉が何故か頷いた。
『分かった。提案に乗ろう。但しお互いに邪魔をしない事。必ず協力する事。これが条件だ』
「良いぜ。なら俺達はお互いバディだ。先行は任せな。生き残れるルートを見せてやるさ」
『期待しよう。ではな』
そしてあっさりと通信は終わる。時間を見れば作戦開始まで十五分を切っていた。思った以上に緊張しているのか時間の経過が速く感じる。いや、緊張しない訳には行かない。何せ命をチップにしてるんだ。
「だが英雄になる必要が無いってのは楽なもんだ。けどまぁ、俺にはあの世で見てる連中が居るんだ。偶にはカッコいい所を見せてやらねえとな」
それに気の所為なのは分かってはいる。分かっているのだが彼女が見てくれてる気がするんだ。
だから、不思議と力が湧いてくる。マザーシップもオーレム群に対する恐怖心も無い。
俺は今、人生の中で一番に近い集中する時間を過ごす事が出来ている事にレイナに感謝したのだった。
「フーチェ、本当に良かったの?あの男と組む事になって」
「うん。だってフランはあの人の腕前を認めてるもん。だから協力すれば絶対に生きて帰れるよ」
「フーチェには全部お見通しね」
「フランもでしょう?」
お互いに静かに笑い合うエヴァット姉妹。何故あの時フランチェスカ少尉が頷いたのか。それはエヴァット姉妹は【以心伝心】のギフト保有者だからだ。
「操縦は私に任せて。フーチェはいつも以上に武器管制と状況解析をお願い」
「大丈夫。今日は調子が凄く良いんだから」
他にもギフトを持つエヴァット姉妹。しかし彼女達も傭兵。秘密の一つや二つは持つ物なのだ。
いやあああ!?一万文字逝ってりゅううう!?
次の話が本番やねんな(๑╹ω╹๑ )




