オペレーション・ブレイク・ホーム7
諸君。すまない。前回の話はいつも以上に誤字が酷かった。
そしていつも誤字報告してくれる方々に感謝お礼を申し上げます。
本当にありがとう(o^^o)
第一艦隊旗艦 CBBデラン・マキナ
バルス大将は眼前に映るマザーシップを睨みながら現状まで至った経緯を思う。
惑星ソラリスで友人であり戦友でもあるクリントン・ウィルソン中将の戦死。そしてマザーシップだけで無く、新種と思われるE型の出現。更に此方の戦術に対し次々と対抗策を出して来る始末。
此処までされてようやく気付いたのだ。マザーシップは下等生物では無いと。マザーシップとは言え所詮はオーレムだと心の何処かに根付いていた。如何に下等生物に知性があろうとも我々人類種に勝てる筈が無いのだと。
だが結果はどうだ?弩級戦艦は完全にE型に抑えられ、超級戦艦もΔ型の対応に苦慮している。更に言えばエクスターミ収縮砲の存在も完全にマザーシップによって看破されてる。
【慢心】
今の自分自身を言い表すならこの一言に尽きるだろう。だがこれ以上の慢心は無い。エクスターミ収縮砲が抑えられた以上、最後の手段を躊躇無く選択する。
「ガスタ大将には辛い選択をさせてしまったな。これは連邦管轄内の問題だと言うのに」
「しかしアイリーン博士は元帝国軍です。それに加えて連邦管轄内に逃した責任は有ります」
「帝国軍より除籍されたなら知らぬ存ぜぬを貫く事も出来ただろうに。軍人としては少々甘い所も有る様だがな」
仮にクリントン中将が居たら何と言うだろうか?きっと紅茶を飲みながらナンセンスとか言うだろう。
(私も軍人としての責任は取る。もし、君が見ていればヤレヤレと大袈裟なリアクションを取られそうだがな)
そしてニヒルな笑みを浮かべながら「一つ貸しだぞ?」と言い何処かに去って行くだろう。だが、もう親友からの心強い助けは無い。全ては己自身が使える権威のみで対処するしか無い。
「全艦隊に通達。これよりプランBを発動。機動部隊は直ちに後退させよ」
遂にN弾を使用する事を前提としたプランBが発動される。全艦隊に通達が送られた直後に何隻かが再考を進言する。
だが再考の案は全て却下し後退を指示させる。
二隻のCBBに搭載されているN弾発射装置にN弾を搭載したミサイルが装填される。発射する数は二隻合わせて十発。更にデコイとなる対艦ミサイルも同時に多数発射準備に入る。
「N弾装填完了しました。また対艦ミサイルの発射準備も完了しました」
「バルス大将、本当にやるおつもりで?本国には何と報告を」
「これが最善の方法だとな。それ以上もそれ以下も無い。発射装置解除キーは持って来たな」
「はい。此方に……しかし、まだ惑星ソラリスからは幾つもの救難信号が出ています。彼処にはまだ戦っている者達が居ます。N弾を使用すると言う事は彼等を見捨てる事に」
副官の言葉を意図的に無視しながらバルス大将は命令を下す。
「解除キーを渡せ。嫌なら他の者にやらせる。その鍵は覚悟無き者が持つべき物では無い」
「バルス大将……いえ、私も軍人です。最後まで軍人としての責務は果たします」
副官は一つの解除キーをバルス大将に渡し、静かに敬礼する。
バルス大将は解除キーを静かに見つめる。未だに真新しい鍵に紐が通されており【特殊弾発射解除キー】と書かれた札が付いている。
そして、お互いに発射装置にある差し込み口に同時に鍵を差し込んで行く。僅かな沈黙。バルス大将は静かに目を閉じ、副官は右手で神に祈りを捧げる。
「神よ……我らの罪をお許し下さい。我らが父、母、子を守る為に」
副官の懺悔の言葉が静まり返る艦橋に響く。そしてバルス大将は静かに目を開けて口を開く。
「全ては宇宙の民を守る為だ。故に神は我らを許し賜うであろう!N弾発射‼︎」
同時に鍵が回されN弾発射装置が解除。そしてN弾発射に合わせ対艦ミサイルが二隻の弩級戦艦から放たれる。
誰も口を開く事は無かった。唯、N弾と対艦ミサイルがマザーシップに向けて飛んで行くのを見守る。特に第五、第六艦隊に居る惑星ソラリス所属の連邦の将兵は静かに涙を流すか許しを乞い続けている。
N弾と対艦ミサイルは順調にマザーシップに向けて接近する。オーレムからの迎撃は来るがN弾は通常のミサイルより頑丈で高性能に作られている。
そして、N弾がオーレム群を射程に捉え始めた瞬間……
マザーシップから放たれる八筋の光によって全てを薙ぎ払われる。
マザーシップの傘の端の八箇所から断続的に放たれ続けるビームの濁流。それは避けるN弾を的確にビームの中に飲み込み、全てを消し去って行く。
ビームに焼かれたN弾は中途半端な臨界を迎えた後に爆発。しかし威力は本来の十分の一にも満たない。
「なん……だと……?N弾を臨界前に全弾迎撃された。そんな……馬鹿な……ッ!何をしている!次弾装填急げ!」
「りょ、了解!」
「各艦隊にも通達!N弾の発射と同時にミサイルを発射させろ!N弾の迎撃率を確実に抑えるんだ!」
そして再びN弾による第二波攻撃が開始される。更に味方艦隊からは大型ミサイル、対艦ミサイル、対ビーム撹乱粒子ミサイルなどが次々と発射。
次こそはと誰もが確信した瞬間だった。マザーシップは再び大出力ビームを放つ。然もN弾を確実に集中攻撃で墜として行く。
再びN弾が迎撃され爆発するが第一波攻撃と効果は変わらず。マザーシップどころかオーレムにすら満足にダメージを与えていない。
「何故だ。何故、N弾の存在を知っている?N弾の情報が漏れる理由なんぞ何処にも……まさか、ソラリスからか?」
バルス大将は一つの結論を出す。マザーシップは惑星ソラリスからエネルギーだけを奪ってる訳では無いのでは?と。
エネルギー以外にも軍の施設やナイトロニウム保管施設から情報を奪っているとするれば、全てが納得する。
そして、マザーシップが下等生物では無い確固たる証拠。それはN弾迎撃に他のオーレムを使わなかったのだ。寧ろN弾から離れる様な動きを見せていた。
(どうする?このまま無策でN弾の消費は避けねばならん。だがマザーシップを放置すれば最悪……マザーシップがN弾を作りかねん)
マザーシップが軍や施設から情報を奪っていると仮定するならば、このままマザーシップを野放しにする訳には行かない。最悪のケースはマザーシップがN弾を大量生産し躊躇無く使用する事だ。そうなれば宇宙に住う者達は全て焼き尽くされてしまう。
(何か、何か無いのか?使える物……マザーシップに確実にN弾を当てる物は!)
武装や装備品リストを見ながら考え続けるバルス大将。周りは半分パニック状態になってしまっているが、全て無視しながらリストを見続ける。
そして、一つの装備を見つける。
「コレしか無いのか……ふん。私の軍人としての経歴に汚点を作る事になろうとはな。だか、構わん。マザーシップは必ず倒す。今日、この日、この場所でな」
コレを選び命じる事は簡単だ。だが、それは命じた者達に死ねと命令する様な物。その様な非道な命令を三大国家である地球連邦統一軍の大将の位にある者がやるべきでは無いのも理解していた。
「ならば……彼等を使おう。金で命を賭ける傭兵共に」
バルス大将は副官に一つの命令を出す。副官は最初は渋い表情をするが最終的には了承し敬礼する。
副官は自軍の兵士にこれ以上の負担を掛ける訳には行かないと考えていた。だが使い捨てが容易な傭兵やバウンティハンターなら話は別だと。
「報酬はどうされますか?」
「私のポケットマネーから出す。これは連邦軍とは関係の無い、私個人での緊急依頼だ。ギルドを通さずにやるから仲介料は取られん事も伝えておけ。またギルドから苦情が来たら私が直接対応するともな」
「了解しました。直ちに依頼書を作成致します」
間も無く始まるマザーシップとの最後の戦い。
ダスティ・バルス大将個人からの無理難題な依頼。
しかし数分間生き残れば大金を手に入れる事が出来る依頼。
金か、命か。何方を選ぶかは彼等次第なのだ。
N弾がマザーシップによって全弾撃墜された。N弾が搭載するミサイルは生半可な迎撃では止まらないし撃墜されない代物だと聞いている。
実際、N弾は何秒かはマザーシップから放たれ続けたビームに耐えていた。つまり嘘偽りは無いと言うべきだろう。尤も、撃墜された時点で意味無いんだけどな。
「と言っても、N弾の使用する所なんて初めて見たからな。だけど思った以上に地味な絵面だぜ。これじゃあ大して動画映えもしやしねえ」
中途半端な爆発で多少オーレムを巻き込んではいるが、N弾の爆発だと言われると途端に嘘臭い物になってしまう。無論、そんじょそこらの爆発物に比べれば遥かに大きな爆発を起こしているのは言うまでも無いが。
本物なのに嘘になるN弾。それだけ俺の中で期待値が高かったのだと思ってしまう。
「それにしてもプランBは失敗だな。こいつはサッサとズラかる準備でもした方が良さげだな」
俺がスマイルドッグ本社でもある戦艦グラーフに通信を入れようとした時だった。連邦から再びオープン通信が来る。
『地球連邦統一軍、ダスティ・バルス大将より傭兵、バウンティハンター、及びそれに準ずる組織全てに対し依頼を出します』
「は?依頼?命令じゃねえのか」
『連邦は何を考えてるのかしら。まさか撤退?』
「それは無いよ。三大国家の意地とプライドが掛かってるんだ。なにがなんでもマザーシップは倒すだろうし」
クリスティーナ少佐の言葉を否定しながら連邦からの依頼とやらを聞く。
『現在N弾がマザーシップによって迎撃され、我が艦隊の戦況は若干劣勢に陥っています』
若干劣勢と言うのは語弊だ。実際はかなりの劣勢が正しい。N弾は全て迎撃され、マザーシップより再びオーレムが大量に射出されている状況。既に艦隊の損耗率は30%を超えている始末。再びエクスターミ収縮砲の砲撃の可能性もあるのだが、マザーシップが何かしらのアクションを起こすのは必至だろう。
『そこで【ABブースター】を使用する事を前提とした作戦を立案させて頂きます』
「……ん?今何て言った?」
大気圏突破用ブースターとか聞こえた気がするが。気の所為だろうか?いや、寧ろ聞き間違いであって欲しい。
『大気圏突破用ブースターにN弾を搭載。そしてAWに装着しマザーシップに向けて突入します。また他のオーレム群に関しては交戦する必要は有りません。全て無視してマザーシップまで辿り着いて下さい』
余りにも無茶な作戦内容。いや、コレは作戦と言える物では無い。唯の使い捨てで、分の悪い賭けに過ぎない。こんな物は作戦とは言えない。
「ハッ!こちとら何処ぞのホワイトな主人公じゃねぇんだよ!誰がそんな馬鹿な作戦に乗るかよ。一抜けだぜ」
「マスター、ホワイトな主人公とはどういった人物なのですか?」
「んー、そうだな。本当に特別な機体を使ってる奴だな。初見ではマジ鬼強だったからさぁ」
俺は連邦からの依頼を一蹴して戦艦グラーフへと進路を向ける。
「ヴィラン1よりファング1。機体不調の為、一時撤退させて貰うよ」
『嘘ね。大して被弾してないじゃない』
「気分が萎えたんだよ。あんなクソみたいな依頼久々に聞いたぜ。然も天下の連邦がだぞ?付き合ってられるかよ」
『待ちなさい。まだオーレムは居るんだから。不調も無いのに撤退なんて許さないわ』
「ほう……どう許さないんだ?言ってみろよ」
軍人としての責任感があるクリスティーナ・ブラッドフィールド少佐。片や傭兵であり報酬次第ではどんな事でも請負うシュウ・キサラギ准尉。
現在は互いに共闘する関係上クリスティーナ少佐の言っている事は正論である。しかしキサラギ准尉は最悪な状況になったらどうなるかを想定し撤退を決意した。
(集まらなかったら強制徴収とか勘弁だぜ。そもそも納得の行く報酬を連邦が出すとは思えん)
命とクレジットを天秤に掛けた時、幾らで動けるか。
(最低でも五百万クレジットは必要だな。そうでなくっちゃ話にならねぇんだよ。まあ、このお嬢様に言っても理解は無理そうだがな)
クリスティーナ少佐は根っからの独立国家の正規市民だ。つまり守られ、与えられた義務と権利を享受する生活が当たり前だと感じている。
しかし俺は元とは言えゴーストだ。自分の身は自分で守る。奪う時、見捨てる時は数え切れない程やって来た。
だからこそ正論を言われて「はい、分かりました」何て馬鹿正直に頷ける筈も無いのだ。
僅かな時間だが互いに静かに睨み合う。その間にも連邦からの通信は続いていた。
『尚、今作戦での成功報酬は一千万クレジットになります。更にダスティ・バルス大将から直接渡す事になりますので仲介料などは一切ありません』
「何々なにぃ⁉︎一千万クレジットが全額手に入るだとぉ⁉︎」
思い返せばダムラカの件では凄く面倒臭い展開に入ってしまったし、アイリーン博士の件では踏んだり蹴ったりの展開になってる始末。更に言えば惑星ソラリスを巻き込んだ戦犯になるかも知れない。つまり現在進行形で危ない橋を渡っている最中と言うオマケ付きと来ている。
しかし、此処に来て流れは変わる。たった数分間の命を危険に晒すだけであら不思議。一千万クレジットがポンと手に入る。勿論、成功報酬としてだが。
だが今は過程の事何てどうだって良い。この一千万クレジットと今回の報酬が有れば高速大型輸送艇は勿論の事、ネロの高性能アンドロイドボディが確実に手に入る。
これらの内容を数秒で考えて直ぐに俺の結論は出た。
「一千万クレジットは俺様の物だ!誰にも渡さねぇ!じゃあなファング1、達者でな!ヒィヤッホォ!」
『ヒィヤッホォ!じゃ無いわよ馬鹿!さっき言ってた機体不調はどうなってるのよ!』
「んなもんある訳無いだろ。何言ってんの?」
『え?コレって私が悪いの?あ、本当に行くの?ちょっと……ッッ!もう知らない!』
クリスティーナ少佐からの声援?を背中で受け止めながら連邦に向けて通信を送る。
「よう。依頼内容と報酬の確認をしたい。嫌とは言わねぇよな?尤も、言わせるつもりも無いけどな」
俺は凄まじく悪そうな笑みを浮かべながら話をするのだった。




