オペレーション・ブレイク・ホーム4
本来なら既にこの戦場はデルタセイバーの独壇場になる筈だった。先程までクリスティーナ少佐の操るデルタセイバーはα、β型をビームカノンとプラズマキャノンの嵐の様な攻撃により大半を消し去り、γ型を持ち前の火力で無理矢理破壊して行く。
更にエルフェンフィールド軍の主力機スピアセイバー隊も合流して周辺のオーレムを次々に撃破して行く。そのお陰か第六艦隊の将兵達の士気は高まる一方だった。
普通ならこの流れのまま残ったオーレムを全て倒して終わりました。めでたしめでたし……だと良かったんだがな。
どうやら神様って奴は悲劇的な物語が御所望なのかも知れん。
「おい、どうなってんだよ。γ型が滅茶苦茶こっちに寄って来てんじゃん。ファング1、何かやったのか?」
『知らないわよ!ああ、もう。何なのよこいつら!』
「十一時の方向、γ型十体の接近を確認。更に中央よりΔ型の接近を確認」
「マジかよ。此処に来てΔ型まで出張ってくんの?早くない?」
Δ型が前に出るのには条件がある。それは前衛となるオーレム群の七割以上が殲滅された場合である。恐らく同士討ちを極力行わない為だと専門家達は分析していた。
しかし俺達の周りにはまだまだ腐る程のオーレムが居る。特に最初の砲撃により中央のオーレム群が此方に引き寄せられた結果だ。にも関わらずΔ型の攻勢は、これまでのΔ型についての研究データを全てひっくり返す様な物だろう。
「全く、これだから神って奴は良い性格してるぜ。尤も、連中が作った悲劇的な筋書きなんざクソ喰らえだがな!俺は美味しい所だけを無理矢理奪って行くだけだ!」
幸い俺の周辺にα、β型は殆ど居ない。寧ろγ型が主力なら良いカモだ。
「ヴィラン1よりファング1。今からγ狩りをしたいんだ。付き合って貰うぞ」
『別に良いけど。Δ型はどうするの?』
「何言ってんだよ。俺達だけで全部倒す気なのか?後ろには味方の艦隊が居るんだ。それか【重力砲】を持つアルビレオにお任せするさ。と言う訳でセシリア大佐、後はお願いします!」
『あ、ちょっと!もう、仕方ないわね』
そう言って再びγ型を撃破する為に突撃を開始。そして文句を言いながらも付き合ってくれるクリスティーナ少佐。
γ型に近付くと反撃は来るのだが俺よりファング1に攻撃が集中している様に見える。
(まさか、オーレムが脅威を選別したとか?いや、そもそも選別が出来るだけの知能があるのか?これじゃあオーレム全体が進化してる様に感じる)
もしかしたら進化では無く、元からこうなのかも知れんが。だが今はそんな事を考えてる暇は無い。
ファング1がγ型に対しビームカノンとプラズマキャノンを発射。γ型はシールドで防ぎながら更にファング1に攻撃を集中させる。
「寂しいねぇ。此処にもエースは居るんだよ?それなのに隙だらけなのは頂けないな」
ファング1に夢中なγ型の散発的な対空ビームバルカンを避けながらα型射出口に集中攻撃で打ち破る。そのまま他のγ型も同じ要領で破壊して行く。
「さぁて、ビジネスの時間だ!ガッツリと稼がせて貰うぜ!」
言い方は悪いがファング1はかなり良い感じで囮になってくれている。
(お陰で儲けはかなりデカいな。俺、この戦いが終わったら大型高速輸送艇とネロのボディを買うんだ)
口に出して無いからな。このフラグはノーカンだよ。ノーカン。
ファング1を囮に別のγ型に狙いを付けながら突撃を開始。しかし突如狙っていたγ型が爆散する。何事かと思い見ていると薄れて行く爆煙の中から二機のAWが現れた。
一機は翡翠瞳の姉妹が操るZX-07FEエレンティルト。もう一機はダークブルーの地味な見た目の不明機だ。その二機は競う様に次々とγ型を撃破して行くではないか。
「チッ。此奴らもこっちに配属されてんのかよ。てか、もう一機は……誰だよ」
「識別は不明です。しかし所属はQA・ザハロフとなります」
「武器企業の連中が出張ってくるか。まぁ、足引っ張る様なら見捨てるなり囮にすれば良いか」
とは言うものの、翡翠瞳の姉妹に引けを取らない戦いをしているので囮にされても自力で抜け出しそうだな。寧ろ囮にした奴に襲い掛かる可能性が高い。
「全く、強い連中との共闘は有難いんだが稼ぎが悪くなるんだよなぁ」
『なら私達も負けてられないわよね?』
「ん?まぁな。てかファング1は俺のクレジット稼ぎに付き合ってくれるのか?」
『構わないわよ。私だって彼女達に負けるつもりは無いんだから』
「成る程。ファング1みたいな負けず嫌いは嫌いじゃねぇよ」
ファング1と話をしていると戦艦アルビレオから通信が入る。
『各戦闘ユニットに通達します。これより戦艦アルビレオは【重力砲】の発射態勢に入ります。目標は、現在接近中のΔ型になります。直ちに射線上のオーレムを出来るだけ撃破して下さい』
「連邦からの許可は……取ってなければこんな無茶な命令は出せねえか」
『丁度良いじゃない。これで今まで以上にオーレムに対して攻撃を集中させられるわ』
「そうだな。と、グラーフから通信か。多分さっきの内容の事だろうな」
今度は戦艦グラーフから通信が入る。出て来たのはナナイ軍曹だ。
「ようオペ子。俺が恋しくて通信したのか?」
『違います。先程のアルビレオからの通信の件です。私達スマイルドッグ艦隊はエルフェンフィールド艦隊と共に前進し、前方のオーレム群に対し集中攻撃を行います。ですので一度艦隊防衛に回って下さい』
「そう言う事か。なら仕方ねぇな。ヴィラン1、了解した。唯、一度補給はさせて貰うけどな」
『有難うございます。それから私はナナイですので』
「何だ?名前の最後にタン付けして欲しいのか?ナナイタン!てか?ハッハッハッ!」
『……オペ子で良いです」
そして若干疲れた表情をしたオペ子との通信が終わる。恐らくファング1にも似た様な命令が来ている筈だ。
「残念だが艦隊防衛に行かなきゃならねぇな。全く、つまんねぇの」
『我儘言わないの。それにオーレムはまだ沢山居るんだから。別に何処でも良いでしょう?』
「分かってるよ。じゃあ先に行ってるぜ。上手く着いて来いよ」
『あんまりデルタセイバーを舐めないで頂戴。火力は上がってるけど機動力だってちゃんとあるんだから』
「見た目は結構デカくなってるから、てっきり機動力は低下してるもんだと思ってたぜ」
『多少は落ちてるかな?でも大した差は無いわよ』
そして艦隊に戻る途中でもオーレムを撃破して行く。艦隊に戻れば補給も出来るので無駄弾上等で弾をばら撒いて行く。
45ミリアサルトライフルと30ミリガトリング小型シールドで弾幕を張りながら、ショットカノンとプラズマキャノンで纏めて消し飛ばす。
「ヒャッハァ!ミンチよりヒデェ状態にしてやらあ!」
『その言葉遣いだと三下っぽいわよ?もう少し丁寧な言い方にした方が良いんじゃない?』
「そうか?なら叩いて細かく刻んでその後に……おい、これじゃあ料理番組じゃん。俺は料理人じゃねぇし」
『違うわよ。こう、全てを滅する。手加減無用!みたいな?』
「何か古臭い時代劇みたいな言い回しだな。おっと?クリスティーナ少佐は確か百歳超えでしたな?なら古臭くもなりますな!」
『エルフにとっては普通なの!怒るわよ!』
「もう怒ってますよ」
下らない事を言いながら艦隊と合流する。俺は戦艦グラーフに向かい補給する為に着艦する。
「此方ヴィラン1。補給したいので指示を頼む」
『了解しました。第二カタパルトに着艦して下さい。くれぐれも勢い良く乗らないで下さい』
「やるなやるな言われると、やりたくなるのが人間の性なんだよな。そうは思わないか?オペ子」
キメ顔で言いながらオペ子を見る。しかしオペ子は冷たい視線を此方に向ける。
『やっても構いませんが整備班との直接対話と給料カットになります』
「……チッ。ヴィラン1了解」
『では、お願いします』
少し勝ち誇った表情をするオペ子。今度気が緩んだ時に尻タッチしてやる。
『セクハラで訴えますよ?』
「……まだやるとは言って無いだろ」
『やろうと考えないで下さい』
「……ふぁい」
今回は完全にオペ子に抑えられてしまった。だが、これで勝ったと思うなよ。
(次は別の事で弄ってやろうか。泣いて謝る姿が目に浮かぶぜ)
内心下衆な事を考えながら素知らぬ顔をする。そして戦艦グラーフの第二カタパルトへ移動してゆっくりと着艦する。
『着艦を確認しました。補給作業に入ります』
「了解。ふぅ、流石にオーレムとの戦闘は中々楽出来ねぇな。尤も、少佐のお陰で他の連中よりはマシなのは理解出来るけど」
機体に整備兵達が集まりダメージをチェックする。それと同時に補給作業も開始される。
しかし、この間にも着々とオーレムは俺達を追い詰めていた。
そう、此処から本当の戦いが始まろうとしていた。
第一艦隊旗艦 CBBデラン・マキナ
デラン・マキナの艦橋内は非常に慌ただしい状況に入っていた。既にE型との激しい砲撃による応酬を繰り返し続けていた。然もE型のエネルギーが消耗し始めると再びマザーシップからエネルギー供給が開始されるのだ。
「このままでは消耗戦になるか。オーレムとの戦闘での消耗戦は愚策以外なにものでも無い。後方のエクスターミ収縮砲の充填を開始させろ」
「了解しました。通達します」
「よもやE型などと言う新種が製造されるのを目撃しただけで無く、戦う事になろうとはな」
「はい。しかしE型はマザーシップの援護があって動いている様にも見えます。憶測ですがE型自体にはエネルギー精製が出来ない。もしくは追い付かないのでは無いでしょうか?」
「可能性はあるな。仮にE型がそうであったとしたらΔ型の様に遠征活動は難しいだろう。E型のエネルギー状況はどうなっている?」
「はい。我が艦とほぼ同じ状態になっています。また艦首部分には高エネルギー反応が依然として有ります」
お互いに収縮砲による攻撃準備は整っている。しかしバルス大将は勝ちを確信していた。
例えE型からの収縮砲による攻撃が行われたとしても、後方に待機してあるエクスターミ収縮砲まで届く事は無いと。その前に二隻の弩級戦艦との砲撃戦で消耗する筈だからだ。
「如何にマザーシップと言えども、我々人類勢に勝てる筈もないか」
「バルス大将、本艦の収縮砲の充填率が75%に達しました」
「まだだ、確実に仕留める必要がある。充填は続けるんだ」
「了解しました」
戦況は一時的に停滞していた。このままオーレムが動かなければ勝てるのは間違いない。
そして、最初に動いたのはオーレムだった。突如E型の前に居たオーレム群は左右に別れる。E型からは更なる高エネルギー反応が現れる。
「E型のエネルギー反応率が急上昇!」
「来たか。収縮砲の安全装置を解除!照準はE型に固定!」
「目標E型に固定。収縮砲の安全装置解除」
「エネルギー伝達は正常に稼動中。収縮砲に問題はありません」
「E型との距離は以前として変わらず。他オーレムの接近は近隣部隊により排除されています」
「収縮砲の充填率85%」
「強制充填を開始させろ。確実にE型を仕留めるのだ。また総員に通達、衝撃に備えさせろ!」
「強制充填開始。充填率の上昇を確認。充填完了まで十秒前。九、八、七、六」
二隻の弩級戦艦と二体のE型。艦橋内や艦内では緊張が走り誰もがこれから来る衝撃に備える。周りの艦隊も既に退避済みで事の成り行きを見守る将兵達。
カウントが短くなるにつれ艦橋内の緊張は高まる。それでも誰もが目を逸らす事はしなかった。
「三、二、一、充填完了しました」
「収縮砲……発射‼︎」
それは偶然だったのか。二隻の弩級戦艦と二体のE型は同時に収縮砲の攻撃を始めた。
四つの凄まじいエネルギーの濁流が宇宙を切り裂く様に走る。そして互いに放たれた莫大なエネルギーの塊は擦れ違う。
擦れ違う瞬間、激しいエネルギーの雷が周辺を走る。その光景はまるで雷と言う名の大蛇が互いを喰い殺そうとしている様に見えたのだ。
そして……次の瞬間。
二隻の弩級戦艦と二体のE型が互いに放った収縮砲による砲撃によりエネルギーシールドを貫き直撃したのだった。
暫く更新止まります。再開はストックが出来次第です。
勿論途中放棄はしません。少なくとも第二章は必ず完結させます。
まだまだ拙い文章ではありますが、宜しくお願いします。