オペレーション・ブレイク・ホーム2
オペレーション・ブレイク・ホームは順調に進行していた。全てが作戦通りに進む中、第二段階へと突入する。第一、第二、第三、第四艦隊は後退しながら応戦。マザーシップから多数のオーレムを引き離した状況に成功した。
同時刻。第五、第六艦隊は所定の位置に移動しながら全武装の照準をオーレム群に向ける様に指示が出る。
間も無く第五、第六艦隊による攻撃が始まり、それと同時に機動部隊の出撃が開始される。そうすれば戦局は一気に好転するのは間違い無いだろう。
『野朗共!仕事の時間だ!連邦と帝国ばかりに良い所を取られんなよ!』
『俺達ドラゴンライダー傭兵団の名を広めるチャンスだ。派手に暴れてやろうぜ!』
『この戦いに生き残れば巡洋艦を手に入れるのも可能だ。そうすればウチの傭兵団も更に成長する事が出来そうだ』
『お前らは良いよな。こっちは民間船から駆逐艦に切り替えたいと考えてるってのによ』
『ギャハハハ!民間船でオーレムと戦うとか!テメェ死にてぇのかよ!』
『各艦へ通達。艦隊による攻撃と同時に機動部隊を展開する。各部隊による連携を密にせよ』
『俺達が連携?馬鹿言うな。連邦さんは俺達の心配をするよりクレジットの支払いを心配するんだな!』
表面上連邦軍の命令に従う傭兵とバウンティハンター。しかし内心では既に一体でも多くのオーレムを撃破し報酬を沢山貰う事しか考えていない。
その考えは傭兵企業スマイルドッグの社長も同じだった。
「上手く行けば巡洋艦を一隻、いや……二隻手に入る。そうすれば正規戦力の増大でより報酬の良い依頼を受けれそうだ」
「それは喜ばしい事です。しかしAW部隊の方は如何致しますか?現在の我々の保有しているパイロットよりAWの方が圧倒的に多い訳ですが」
「分かっとるわい。幸い帝国が置いて行ったサラガンは質も性能も非常に良い。パイロットだけ用意すれば戦力は直ぐに立て直せる。それにこの戦いで帰る場所が無くなり溢れるパイロットは必ず出て来る。その時がチャンスだ」
「そうですか。では社長、間も無く攻撃時間になります」
「うむ。では全艦に通達。全砲門開け。目標中央オーレム群」
「全砲門開け!目標中央オーレム群!」
戦艦グラーフの主砲がオーレム群に向けられる。それに続く様にスマイルドッグ艦隊の艦艇はオーレム群に向けて次々と主砲が動き出す。
「各艦とのデータリンク開始。目標、γ型に固定」
「VLS発射管起動確認。β型へのマルチロック開始」
「対空戦闘用意。試射開始」
「間も無くAW部隊の出撃になります。最終チェックをお願いします」
「エルフェンフィールド軍旗艦【アルビレオ】より通信。マザーシップからE型へのエネルギー供給停止を確認。警戒を厳とせよ。との事です」
「……E型が動くのか?」
「不明です。しかしE型の移動を確認。正面の艦隊に向けて前進し始めています」
「E型よりエネルギー反応を確認!砲撃来ます!」
作戦が第二段階に移行する直前だった。E型から砲塔と思われる部分から多数の攻撃が開始される。E型から放たれる大出力ビーム、プラズマが第一、第三艦隊に襲い掛かる。
『E型より攻撃を確認!回避機動を取れ!』
『馬鹿な!オーレムは味方に攻撃はしない筈だ!なのに何故⁉︎』
『E型は味方には当てて無い!隙間を縫う様に攻撃しているんだ!』
『狼狽えるな!唯の牽制射なんぞに当たりはッ⁉︎うわあああ⁉︎』
『応戦しろ!戦艦乗りの意地を此処に見せつけてやれ!』
『勝手に戦列を乱すな!ぶつかる⁉︎』
多数の駆逐艦、フリゲート艦が大出力ビームとプラズマの直撃を受けて一瞬で轟沈する。更にE型の攻撃はAW部隊にも被害が出る。そしてその隙に他のオーレムが雪崩れ込む様に突撃を始める。
味方が居ようとお構い無しに攻撃を始めるE型。しかしE型は味方であるオーレムに当てない様に的確な射撃を行なっていたのだ。
更に想定外の事態は起こり始める。二体のE型は攻撃をしながらも先端部分が開き徐々にエネルギー反応が高まり始める。
だが直ぐに対応する艦が居た。それは二隻の弩級戦艦だ。二体のE型から徐々にエネルギー反応が高まりつつあるのを他の艦艇より早期に察知した。
「全艦隊に通達。作戦は予定通り行う。攻撃を開始させろ」
「第五、第六艦隊に通達。攻撃を開始せよ。繰り返す。攻撃を開始せよ」
「CBBはE型に集中砲撃。E型を此方に引き付けさせろ。そうすればマザーシップに対する攻勢がより有効になる」
「第五、第六艦隊より攻撃が開始。オーレム群に直撃しています」
「攻撃の手を緩めるな。マザーシップの様子は如何だ?」
「依然として沈黙しています。攻撃は主にE型から行われています」
「エネルギーを使い過ぎたか?もしくは別の理由があるのか」
「しかしE型からのエネルギー反応が更に上昇中。先端部分から高エネルギー反応が確認出来ます」
「まさか……E型は収縮砲を撃つと言うのか?」
「有り得ません!オーレムが収縮砲を撃つなんて!そんな事をすればオーレム自身のエネルギーが……あ、マザーシップ」
副官は先程までマザーシップからエネルギー供給を受けていた事に直ぐに気が付く。そして気付いた時にはバルス大将は命令を出す。
「E型の射線に入っている艦は直ぐに退避行動を取らせろ!インペリアル・ブルーローズに緊急通信!前方に全力で防御シールドを展開させながら収縮砲の充填をさせろ!」
味方艦隊に退避勧告を出すバルス大将。しかしオーレム群も同じ様に左右に別れていく。そして二体のE型と弩級戦艦であるインペリアル・ブルーローズ、デラン・マキナとの直接対決が始まろうとしていた。
時を同じくしてバレットネイターの中で出撃準備を終わらせていた俺は共有データリンクから戦況を確認していた。
E型の射線を通す為に移動したオーレム群の動きは正に一糸乱れぬと言えよう。今迄唯の突撃戦法が確かな命令を受けて動いている。今やオーレムは化け物から精強な化け物にクラスチェンジした訳だ。
「まぁ、化け物に変わりは無いがな。それにオーレム自体の弱点とかは変わりが無いし。これで弾丸が効きませんとかだったら全力で逃げてたけど」
今やE型と弩級戦艦の直接対決が始まろうとしている。今回は先制攻撃をE型が取った訳だが、弩級戦艦相手にタイマン張ろうとするのは少々頂けないな。
「今回はγ型を中心に狩るぞ。エレメントを組む相手がクリスティーナ少佐だからな」
「ブラッドフィールド少佐の搭乗するGXT-001デルタセイバーの戦闘力は今でも未知数です」
「だが機体は確かだ。少なくとも超級戦艦を破壊出来るだけの火力はある。更に機動性と運動性も他のAWより群を抜いている。つまりデルタセイバーは超級戦艦並みの火力にAW以上の機動性があるって事さ」
本当に性能は桁外れのチートな機体だよな。更に見た目もスピアセイバーをベースにしてるからカッコいいし。リアル系とスーパー系の良い所取りした様なもんだし。まさに次世代機以上と言えるのでは無かろうか?
(でもさ〜、俺も一応転生者なんだけどな〜。こう、転生特典の一つくらいあっても良い気がするんだがなぁ)
俺の持つギフトは別段珍しい物では無い。ギフトのランク的には下の分類に入るだろう。仮に一分とか十分先の未来が見えるならテロ対策部門にでもお呼ばれされそうだが。
「三秒先とかさぁ……基本的にジャンケンくらいでしか役に立たねえんだよな」
俺の場合は戦場で凄く役に立つんだけどね。唯、日常生活とかでは意味が無いのは間違い無いです。要は使う環境で激変するギフトな訳だ。
『AW隊に通達します。間も無く出撃になります。本作戦は地球連邦統一軍主導の作戦となります。しかしエルフェンフィールド軍との共闘もお忘れ無い様にお願いします』
『ガリア隊了解』
『サニー隊了解した』
『キャット1了解ッス』
「ヴィラン1了解。上手くゴマすりやっとくさ」
『キャット1は艦隊の防衛に回って下さい。他のAW隊はオーレムを積極的に撃破して構いませんので』
『ならナナイ軍曹に積極的にアプローチしても良いのか?』
『サニー5、それやったら俺達はお前を絶対に許さねぇからな』
『何言ってやがる。こう言うのは行動した者勝ちなんだよ。動く勇気が無いなら指でも咥えてな』
「アッハッハッ!勝ち目の無い勝負に挑むとはな!サニー5、今日の晩飯のオカズの提供ありがとよ!」
『キサラギ!貴様はいつもいつも人を小馬鹿にしやがって!良い加減にしやがれ!』
「小馬鹿に何てしてねぇよ。ただ馬鹿にしてるだけさ」
『余計にタチが悪いわ!』
俺の返事に怒るサニー5と笑い出す他のメンバー。ナナイ軍曹も少しだけ笑みを浮かべる。
『出撃命令が来ました。ヴィラン1、出撃お願いします』
「ヴィラン1了解。今回は結構な重装備で出るぜ」
そして機体がカタパルトに向けて動き出す。今回は追加装甲を装着。武装は右腕部にシールド付き45ミリヘビーマシンガン、左腕部に30ミリガトリング小型シールド、右肩部にプラズマキャノン砲、左肩部にショットカノン、肩側面部に二連装大型ロケットを搭載している。
地上戦なら重量過多で出撃不可になるだろう。だが宇宙なら多少の無茶は可能。無論デメリットとして機動力と行動可能時間の低下になる。
だが今回は大規模対オーレム戦だ。つまり弾薬や武装は幾らあっても足りない。更に四方八方から来るオーレムの攻撃を全て捌き切るのは困難だ。
「マスター、機体重量過多になりますが宜しいですか?」
「構わない。スピードを緩めなければ問題無い。それに途中で幾つかパージするだろうし。特に追加装甲とかな」
「しかし、このままでは機動力の向上したバレットネイターの長所が無くなってしまいますが?」
「今の状態でも既に通常の中量機以上の機動性は確保している。それに運動性はサラガン以上だ。出力が高いから多少の無茶は対応してくれるのさ。流石、俺専用機だぜ。素晴らしい性能だよ」
「……了解しました。しかし充分にご注意下さい」
「心配してくれんのか?前にダムラカ艦隊に突っ込んだ実力を信じろって。な?」
「分かりました。マスターを信じます」
「サンキューな」
「武装の装着は全て完了しました」
「了解した。此方ヴィラン1、出撃準備完了」
『了解しました。キサラギ准尉、余り無茶はしないで下さい。貴方はいつも周りに危険が迫ると無茶をしますので』
珍しい事に出撃前にナナイ軍曹が俺の事を心配していた。いや、普段は口に出さないだけで出撃する者達を心配している。唯、その心配を余所に未帰還者が多く出るAWパイロット達。特に今回のアイリーン・ドンキース博士の一件は通常以上に被害が出た。
そんな中、いつも俺達を見送り続けるナナイ軍曹。普段は澄まし顔だが内心は如何だろうか?ナナイ軍曹の事だ。色々溜め込んでるだろうな。
「心配してくれんのかオペ子?なら帰還して来たらハグを一つ所望しようか。無論大勢の前でな!幾多のモテない男共の嫉妬と憎悪が入り混じった視線を一緒に浴びようぜ」
『断固拒否します。それから私はナナイです』
「知ってるよオペ子。それから、いつも通りに俺の帰還を期待してな」
『……そうですね。貴方ならきっと平然と帰還して来ますね。例え周りが絶望的な状況に陥ろうとも』
「それがエースたる所以さ。なに、ついでに周りのオーレムを軽く蹴散らしてやるさ」
俺が余裕の態度を取るとナナイ軍曹の表情も少しだけ柔らかくなる。
「さて、時間だ。頼むぜ」
『了解しました。ハッチ解放を確認』
ゆっくりとハッチが開き戦場と化した宇宙が見える。惑星ソラリスを背後にマザーシップとE型を筆頭に多数のオーレムが入り混じる。
俺は軽く首を鳴らしてから操縦レバーを握り締める。
『ヴィラン1、進路クリア。発進どうぞ』
「ヴィラン1、シュウ・キサラギ准尉、バレットネイター、出るぞ!」
『無事の帰還を』
最後にナナイ軍曹に向けてウィンクを一つすると同時に宇宙に向けて射出される。そして宇宙へと放たれた俺はバレットネイターを加速させて戦場の中へと突き進む。
「さて、派手に暴れてやるか。でないと色々手間が掛かる連中が多いからな」
同僚やエルフェンフィールド軍は勿論だが、連邦軍に傭兵やバウンティハンター達も居る。多少のフォローはしてやっても良いだろう。
連中が生き残り続ければ、それだけオーレムを倒してくれる。それに何よりデコイとしての役割もあるからな。しっかりと俺の役に立って貰わないと困る訳さ。
「行くぜネロ。先ずは目の前のαとβ群を叩き潰すぞ!」
「了解しました」
俺は相棒に向けて一言告げながらオーレムに対し攻撃を仕掛けるのだった。




