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オペレーション・ブレイク・ホーム1

 間も無く出撃する頃合い。既に全部隊が出撃準備を整えていた。

 ある者は最後に恋人と抱き合う。ある者は家族写真を見ながら物思いに耽る。ある者は復讐を誓い静かに闘志を燃やす。ある者は最後まで赤字か黒字かを計算し続ける。


「いや、最後のは絶対に社長だけだよ」

「マスターどうされました?」

「いや、何でも無い」

「そうですか。作戦開始まで残り五分を切りました」

「ふん。バレットネイターの状態は良好だ。今回の戦いで俺のオーレム撃墜スコアの自己新記録を大幅に超えるだろうしな。遣り甲斐のある任務だぜ」


 そして遂に出撃時間となる。


『各艦隊に通達。オペレーション・ブレイク・ホームを開始。繰り返す、オペレーション・ブレイク・ホームを開始。直ちに行動開始せよ』

『各艦ワープ開始十秒前。九、八、七、六』

『ワープシステム問題無し。各戦闘システム全て正常』

『艦載機出撃準備完了しています』

『第一、第二、第三、第四艦隊ワープ開始』


 地球連邦統一軍とガルディア帝国軍の混成艦隊がマザーシップに向けてワープを開始。それに続く様に第五、第六艦隊もワープ態勢を取る。


「そう言えばジャン達はどの艦隊だ?」

「第五艦隊になります」

「ふぅん。まぁ、彼奴らなら簡単には死なねぇか。それより自分の身が大事だな」

『第五、第六艦隊ワープ開始します』

「来たか。ネロ、気合入れて行くぞ」

「了解しました」


 そして第五、第六艦隊もマザーシップに向けてワープを開始するのだった。





 第一艦隊旗艦デラン・マキナ


 連邦、帝国の艦隊の眼前には夥しい数のオーレムが見えていた。それもマザーシップを中心に常に動き続けていた。だが一番衝撃的だったのは惑星ソラリスの状況だった。

 惑星ソラリスは既にオーレムの侵攻を受けていたが、マザーシップが惑星ソラリスを包み込む様に大きな触手を伸ばしていたのだ。そしてその触手から薄明るい光がマザーシップ本体に向けて移動していた。

 その姿は惑星ソラリスから生命エネルギーを吸収している様にしか見えない。


「よもや、この様な悲劇を自身の目で見ようとはな」

「バルス大将御命令を!これ以上マザーシップを野放しには出来ません!」

「全艦に通達。これより作戦の第一段階に入る。艦隊、攻撃用意!」


 だが艦隊の動きを察知したマザーシップは行動を起こす。それはオーレムが陣形を取り迎撃態勢を取るのだ。更にマザーシップの傘の部分から高エネルギーが二体のΔ型に向けて放たれる。するとΔ型に異変が起こり始める。


「バルス大将!オーレムが此方に向けて陣形を取っています!」

「マザーシップより高エネルギー反応を確認!これは……Δ型に変化が!」

「Δ型をモニターに出せ」


 モニターに映し出される二体のΔ型。マザーシップから高エネルギーを受けているΔ型は徐々に肥大化して行く。


「嘘……Δ型が変化しているの?」

「こんな馬鹿な事があるのか。解析班!あのΔ型を全て解析しろ!そうだ全てだ!」

「Δ型更に肥大化!周辺のオーレムも取り込んでいます!」

「他のオーレム群は此方に向けて陣形を整えつつあります」

「オーレムに知性が有るなんて……信じられない。それに、知性があるなら何故連中は我々と戦っているんだ?」


 連邦も帝国もマザーシップの予想外の行動に対処が遅れ始める。今まで突撃戦法のみしか取っていないオーレムが陣形を組み、更にオーレム自体が大きく変化するとは思いもしなかったのだから。


「……全艦、砲撃戦用意」


 混乱する将兵を尻目に攻撃命令を下すバルス大将。


「ぜ、全艦、砲撃戦用意!」

「諸君。確かにマザーシップの行動は予想外な物ばかりだ。惑星を呑み込むだけでなく、オーレムに変化を与えている始末。いやはや、アレ(マザーシップ)はオーレムとは別物と考えるべきだ」

「別物……ですか?」

「そうだ。アレ(マザーシップ)は我々の明確な敵だ。知性が有ろうと無かろうと関係無い。唯、倒すべき敵なのだ」


 バルス大将は断言した。マザーシップはオーレムとは別物であると。だが敵である事に変わりは無いとも。

 ならば軍人である自分達がやる事は唯一つ。命令に従い敵を倒す。


『各艦!砲撃戦用意!』

『一番から三番の主砲照準良し!』

『目標ロック完了。VLS発射用意良し』

『間も無くオーレムを射程に捉えます』

『対ビーム撹乱粒子散布を忘れるな。此処からが本当の戦争だ!』


 他の艦船からも次々と報告が入る。そして遂に始まる。


「各艦隊、攻撃準備整いました。いつでも行けます!」

「宜しい。全艦隊、攻撃始めえええ‼︎」


 バルス大将の命令と同時に宇宙に緑色をメインとしたビームが走る。それと同時に各艦からミサイルも一斉発射される。


『反撃!来るぞおおお!』


 そしてオーレム群から赤色のビームが反撃される。此処にオーレムと人類の生存競争が始まる。片方が生存し片方が殲滅される戦いだ。


『第一、第二カタパルトより【アイビス】隊出撃用意』


 格納庫では出撃アラームと同時に地球連邦統一軍の主力可変機の一つ【RZX-08アイビス】が出撃態勢に入る。


『第三、第四カタパルトはアストライの出撃用意に入って下さい』

『急げよ!俺達がAWの出撃をスムーズにやるんだ!じゃねえとオーレムが一気に攻めて来るぞ!』

『了解!』


 整備兵達が慌ただしくAWの出撃準備を整える。


『此方トマホーク1。出撃準備完了。いつでも出れるぞ』

『了解しました。ハッチ解放。進路クリア、発進どうぞ』

『トマホーク1出るぞ!』


 可変機であるアイビスは飛行形態のまま出撃する。そして第三、第四カタパルトから出撃したアストライと合流する。


『ほら掴まれ。最前線まで最短で送ってやるよ』

『辿り着く前に墜とされんなよ』

『当たり前だ。マニラ1、お前こそ辿り着いた瞬間に墜とされんなよ!』


 そして間も無くα型の群れと接敵する。無論その前に先制攻撃を仕掛けるのは定石だ。


『各機、大型ロケット発射!纏めてα型を吹き飛ばすぞ!』

『『『『『了解!』』』』』


 アイビスの両羽に装着している計四発の大型ロケットが多数放たれる。そしてα型の群れの内部で次々と爆発が起こり群れに穴が開く。


『各機突撃開始!所詮はα型の群れだ!全機無傷で殲滅するぞ!』


 トマホーク1の掛け声に悪態を吐く仲間達。だが言われたからにはやるのが軍人。だから彼等はα型の群れに突撃して行く。


『トマホーク隊は機動を生かして少しだけαを引き連れてくれ。俺達マニラ隊は接近中のβを五体片付ける!』

『トマホーク1了解。早目に仕留めろよ。でないと俺達がβも食っちまうからな!』

『やってみろよ!マニラ隊散開!βを仕留める!』


 α型に対し機動戦を仕掛け引き付けるトマホーク隊。その間にβ型に攻撃を仕掛けるマニラ隊。


『マニラ5、6、9、12はバズーカで先制攻撃!その隙に懐に飛び込む!』

『了解!ほら250ミリを受け取りな!』

『一撃で仕留めてやる』

『味方の援護もある!恐れる必要は無い!』


 250ミリの直撃を受けて爆散するβ型。無論β型からも対空ビームバルカンが放たれるがマニラ隊の勢いは止まらない。


『ソラリスで死んだ人達の分だ。この程度の痛みでは済まさないからな!一匹残らず駆逐してやる!』

『αとβを優先しろ。γは味方の艦隊が処理してくれる』

『俺達を敵に回すとどうなるか!連中の身体に刻み込んでやれ!』

『これが、俺達連邦の力だ!』


 惑星ソラリスで散って逝った者達への弔いの意味もある戦い。

 連邦は決してマザーシップ(オーレム)から逃げ出さないのだ。






 同じ頃。艦隊と大型オーレム群との砲撃戦が本格化し始める。β型。γ型に対して駆逐艦、巡洋艦、が応戦する。


『駆逐艦隊に通達。右翼のβ型の集団に牽制射撃!フリゲート艦のミサイルを確実に当てて行けば勝てるぞ!』

『γ型は此方で対処する。ビーム砲撃て!』

『対艦ミサイル装填完了』

『我被弾するも損害無し。戦闘を継続する』

『β群さらに接近。ミサイル装填中』

『γ型五体接近!集中砲撃で仕留めろ!』

『下方よりα型接近!数二十五!対空砲用意!』

『右舷よりβ群接近!右舷弾幕を張れ!』

『直掩機はα、βを近寄らせるな!』

『左舷第三艦橋に被弾!応答ありません!』


 オーレムの数は多く物量による攻勢は徐々に艦隊との距離を縮めて行く。

 α型とβ型の群れに駆逐艦とフリゲート艦の大型ミサイルが直撃して爆風に巻き込まれてバラバラになって行く。

 巡洋艦と戦艦の集中砲撃によりγ型は耐え切れなくなり爆散する。

 α型の群れに取り込まれた駆逐艦が断末魔の様な悲鳴を上げながら轟沈する。

 戦況が次々と変わる中、オーレムとの戦闘経験のある巡洋艦の艦長は違和感を抱いていた。


『やはり奴等は戦術を使っているな』

『戦術ですか?』


 艦長の言葉に副長は問い掛ける。


『そうだ。本来ならαだろうがγだろうが関係無く突撃して来るのがオーレムだ。だが今のオーレムは統率が取れている。αは機動戦を行いβは駆逐艦やフリゲート艦を優先して攻撃をしている様に見える』

『では……この戦いは不利になりますな』

『いや、逆だ。寧ろ此方としては有難い』

『有難いですか?』

『奴等の一番の戦術は物量による一点攻勢だ。このやり方で幾つもの艦隊やAWが呑み込まれて行った。だがマザーシップが戦術を使ってるお陰で此方も対処し易くなった。知性を持つ事で自身の一番の力を出し切れていない』

『な、成る程。ならこの戦いは勝てそうですな』

『我々がミスをしなければ勝率は確実に上がる。各艦に通達。敵は戦術を使用している。なら我々は臨機応変に対処して行くとな。そうすれば必ず勝てる!』


 艦長は周りを鼓舞する為に勝てると言い放つ。だが彼には一つ気掛かりな事がある。

 それはマザーシップからエネルギーを一身に受け続ける二体のΔ型。今や弩級戦艦に迫る大きさになっている。


(マザーシップが戦術を使うと仮定する。なら何故Δ型を成長させた?)


 そんな彼の疑問が解消されるのは間も無くの事になる。





 地球連邦統一艦隊 旗艦デラン・マキナ


 戦況は比較的有利に進んでいた。特にSBB(超級戦艦)CBB(弩級戦艦)による攻撃能力は凄まじく、味方部隊からのデータリンクを元に正確かつ圧倒的な火力をオーレムに対して叩き込んでいた。

 その威力は艦砲一斉射撃でγ型を瞬く間に纏めて吹き飛ばす程で次々とオーレムを葬って行く。

 しかし仲間を目の前で失っているマザーシップには大きな動きは無い。だがマザーシップは未だにΔ型にエネルギーを供給し続けていた。その結果Δ型は既に弩級戦艦とほぼ同じ大きさになっていた。

 無論連邦と帝国も黙って見ている訳では無い。何度も砲撃は加えているものの、エネルギーシールドにより防がれてしまうのだ。

 恐らく現段階ではマザーシップからのエネルギー供給がされており、超級戦艦か弩級戦艦からの収縮砲でしか効果は無いのだろうと推測される。


「作戦は順調そうだな」

「はい。現在機動部隊の損耗率は16%、艦隊損耗率は9%となり想定の範囲内となっております。また第五、第六艦隊は既に配置完了。オーレムとの戦闘は散発的なものとなっています」

「そろそろ作戦を第二段階に移行する頃合いだろう」

「はい。しかし、あの巨大化したΔ型は一体……」

「未だに動きが無い今が好機だ。直ちに第二段階へ移行せよ。それからあのΔ型をE(イプシロン)型と命名する」

「了解しました。直ちに通達致します」


 未だに動きを見せないマザーシップと二体のE型。無論攻撃は何度も当ててはいるのだが、対ビーム撹乱粒子の影響によりビーム、プラズマ砲が威力減衰を起こしシールドによって完全に防がれてしまっている。

 仮に距離が縮まっていたとしてもマザーシップとE型のシールドは非常に分厚く、簡単には貫ける物では無い。

 それでもマザーシップとE型に動きが無い今が好機なのは事実だ。なら奴等が動き出す前に全てを終わらせる。いや、動き出しても手遅れな状況にしてしまえば問題は無いのだ。

 だがオーレムはそんな生易しい存在では無い。


 自分達以外の存在は同じ生命体として扱わない。

 自分達以外の存在は全て殲滅する。

 自分達以外の存在は決して認めない。

 自分達以外の存在は全て敵である。


 だからこそ早期に決着を付けるべきなのだ。これ以上オーレムの好きにさせない為にも。


「全艦隊に通達。これより作戦は第二段階に移行する。第一、第二、第三、第四艦隊は直ちに後退しオーレム群をマザーシップより引き離す」

「全艦隊に通達。作戦は第二段階へ移行。繰り返す。作戦は第二段階へ移行」

「第五、第六は所定の位置へ移動開始せよ」

「AW部隊、AS部隊共に順次後退を開始」


 大群のオーレムを引き付けながら後退する連邦、帝国艦隊。それに続く様に第五、第六艦隊が側面に回り込む。

 此処からがオペレーション・ブレイク・ホームの本番とも言えるのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 登場機体のイメージ・武装・3サイズデータをまとめた項目を独立させて書いてはどうでしょうか?  R18で「なろう」⇒「ノクターンノベルズ」へ移動した『英雄機ドランノーガ』の様に「機体解説…
[一言] やっぱり第三艦橋は被弾する運命から逃れられないのか・・・。
[一言] オーレムもマクロスのバジュラみたいな存在だったり?さすがにバジュラほどの化け物だったら勝ち目ないけどね。
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